第5話
「……はい!?」と俺は大きな声をあげる。
「びっくりしたあ。なあに、おにいちゃん。きゅうに大きなこえ」
「いや……」
聞き間違いだろうか。
「えっと。とにかく。大じょうぶです。やぶれちゃったらパパに直してもらえば」
ただ「聞き間違えた」のは俺だけじゃないらしく、アーチャンの笑顔もこころなしか引きつっているように見えた。
まさか。妹が前世の織田信長から引き継いだものは「趣味嗜好」だなんて幅の狭いものじゃなくて、もっと大枠の「性格」なのか?
だとすると。妹はこの先、あの織田信長みたいな人間に育ってしまうのか?
「織田信長」と言えば――。
「記憶」を探って真っ先に出てきたのが「比叡山延暦寺の焼き討ち」だった。
織田信長はそれが誰であろうとも何であろうとも、自身と対立した敵は許さない。
徹底的にやり込める。
自分にイジワルをした男の子の「かわをはいでマントをつくる」などという発想はまさに「織田信長」的じゃないか。
「……マズイぞ」
このままでは将来、妹はこの街を燃やし尽くしてしまうかもしれない。サイアクの場合だ。
俺は可愛い妹を第六天魔王にはしたくない。
「どうしたら……」
いままでは、昨日までは、悪ガキが妹にイジワルをするまでは、織田信長は良い子だったんだ。
あの悪ガキさえこなければ。
――そうだ。
「織田信長」だって延暦寺が敵対しなければ焼き討ちなどしなかった。
「織田信長」も「敵」さえいなければ、魔王と成る必要はなかったはずだ。
悪ガキがいなくなれば。そのイジワルを未然に防げれば。妹が過度な仕返しをしてしまう前に俺が代わりに悪ガキをこらしめてやれれば。妹が織田信長的発想を実行に移してしまう事はないはずだ。
「俺が……信長を守ってやるからな」
腰を下ろして目線を合わせて、俺は妹に言い聞かせる。
「だから信長はこのままでいてくれ。いまの信長のまま。変わらないでくれな」
俺の言葉に妹は少しだけ驚いたような顔をした後、
「うん! おにいちゃん、大すき!」
ぎゅっと抱きついてきた。
うん。妹は可愛い。大丈夫だ。
俺がこの可愛い妹の第六天魔王化を防いでみせる。
延いてはこの街を大火から守ってみせる。
俺はこの日、心にそう誓ったのであった。
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