第4話

 

 次の日から妹は一日中そのマントを身に付けて過ごすようになってしまった。


 家の中でお絵描きをしているときも、斜向いの空き地で押し花の素材を集めているときも、お友達とおしゃべりをしているときもおいかけっこをしているときも。


 するとすぐに。それはまるで必然であるかのように、


「なんだそのマントー! だっせー!」


 妹は近所の悪ガキに目を付けられてしまった。


 最初に俺がその声に気が付いて空き地まで出ていったとき、


「ださくありません。すてきなマントです」


 妹と悪ガキの間に割って入ろうとしてくれている女の子が居た。


 アーチャン・テイラー。8歳。最近できた妹の友達で、


「パパが作ったマントです。すてきなマントです」


 妹が赤地に黒い虎柄のマントを買ってもらった仕立て屋の娘だった。


「はいはい。ケンカしない」


 俺はのっそりと力強く妹から悪ガキを引き剥がす。


「君ねえ」と悪ガキを軽く叱ってやろうとしたところで、


「うっせえ、ばーか」


 と悪ガキは逃げていってしまった。まったく。どこのガキだ。親の顔が見てみたいもんだぞ。


 この街は王都と大聖地を結ぶ大きな街道の途中にある交易都市で人口も多い。村民100人、同じ年頃の子どもは全員が親友同士みたいな小さな集落とは違って、自分と近しい年齢の子どもでも何処の誰だか分からないなんて事はざらだった。


「ありがとうね。妹の事をかばってくれて」


 アーチャンにも声をかけて、


「大丈夫か? 信長。怪我させられたりはしてないか?」


 妹にも声をかける。


「いえ。わたしはマントのことばっかりで。すみませんでした」


「おにいちゃん。だいじょうぶ。マントもさわられただけ。やぶれてないよ」


「そうか。良かったな」と俺は二人の頭を撫でてやる。


「あはは」と妹は笑った。アーチャンは「ん」とくすぐったそうに目を閉じていた。


 妹は可愛い。こんなにも可愛い妹の前世が織田信長とは。嘘だと思いたかったが、嬉しそうに羽織っているそのド派手なマントを見せられると否定できなくなる。


 きっと妹は「織田信長」から「趣味嗜好」を受け継いだのだ。


「もし、やぶられちゃっても」


 アーチャンが言ってくれた。


「わたしのパパがきっと直してくれますから」


「でも。なおしてもらうにはお金がひつようなんだよ。おしごとなんだもん。お金、もってない、わたし」


「大じょうぶです。やぶった人が悪いんですから。お金はその人に、はらってもらいましょう」


「あい手も子どもだから。お金はもってないかも」


「うーん。そうしたらその子のパパかママに」


「あ、そうだ。その子がお金をもってなかったら、その子のかわをはいで、そのかわでマントをなおしてもらおう! これでざいりょうひはかからないね」


 妹が何とも無邪気な顔をして言った。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る