第3話

 

 神の啓示で賜る名前は必ずしも正式名称ではなく、通名である事も多いらしい。


 前世が「高橋織田信長」でも神様が「織田信長」とだけ教えてくださった可能性は十分にあった。


 あの織田信長もフルネームなら織田と信長の間に上総介や三郎が入るとか入らないとか言うし。まあ「俺」も豆知識程度にしか知らないが。


「うん。そうだ。そうだ。妹の前世はきっと『高橋織田信長』だ。『あの織田信長』じゃない。うん。同姓同名の別人だ。そうに決まってる」


 なんて思い込もうとしていた矢先の事だった。


「おにいちゃん。見て見て」


 妹の七回目の誕生日。両親から贈られたプレゼントのマントをその場で身に付けた妹はとても嬉しそうにくるくると回っていた。


「かわいい? かわいい? えへへ。えへへ」


 妹のその仕草、様子は非常に可愛らしかったが、


「……赤地に黒で虎柄って。奇抜過ぎるだろう」


 俺は頭を抱えてしまった。


「父さん。なんであんなド派手なマントにしたんだ」


 喜んでいる妹には聞こえないように小声で父親を責めるも、


「オダノブナガに選ばせたんだ。どうせなら本人が欲しいものをと思ってね」


「せっかくのプレゼントだもの。喜んでもらえる事が一番だわ」


 両親共にみじんも後悔は無いようだった。


 実に理解のある素敵な父と母である。コンチクショウ。


「いいじゃないか。オダノブナガ。よく似合ってるぞ」


「素敵ね。お姫様みたいよ」


 踊る妹に父が声をかける。母も続いた。


 両親の遺伝子をしっかりと受け継いだ妹の外見は金髪で肌も白かった。


 このくらいの年齢の子ども全員に言えてしまえそうだが確かに妹はお姫様みたいに可愛らしかった。


 だがしかし。素材はお姫様でも真っ赤な虎柄のマントなんか羽織ったら一気に第六天魔王だ。金髪に白い肌と赤色の衣装は似合わなくもないが、それが余計に。


「7歳の女の子らしくはないだろう」


「そうかあ? でもオダノブナガらしいじゃないか。はっはっは」


 父が笑った。


「確かに『織田信長』らしくはあるけど。はは、ははは……」


 俺も笑った。



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