第6話 正反対
「よう! 久しぶりだな龍治」
「ああ、久しぶりだな。零士」
星野を助けて次の日。俺は珍しく昼過ぎまで眠っていた。車の中で目覚めると近藤にアンパンと牛乳を手渡され、親分と一緒に東京の警察署までやってきた。
高田の親分は名は龍治、警視総監の宮本 零士と気さくに挨拶を交わす。流石に緊張してしまう。世間では正反対の組織に属している二人が会っている。その場に不釣り合いな俺は色を失っているように感じる。
「龍治の右腕か? いい顔してるな」
「ははは、右腕どころか。いつの間にか胴体みたいになっちまったよ。こいつなしじゃ、組が成り立たねぇ」
緊張していた俺を見て宮本さんが褒めてくる。親分はそれを自分のことのように喜んでくれて腰を叩いてくれた。
「ほ~、龍治がそこまで褒める逸材か。よう! どうだ? 警察にならねえか?」
「おいおい、やめてくれよ零士。こいつがいなくなったら大変だ」
「ははは、冗談冗談。それで? 話っていうのはなんだ?」
宮本さんの言葉に親分が冷や汗をかきながら答える。
冗談と言っておきながら見つめてくる。今はどこも人がいない。優秀な人材は誰でも欲しいのか。って俺は別に優秀でもない。出来ることをやっているだけだ。
親分はゴホンと咳ばらいを2枚の写真を差し出す。
「これが昨日攫われそうになった高校生、星野 海だ。それでこっちが主犯の大学生、芦田 恭介」
「物騒な話だな」
親分の説明を聞くと宮本さんはため息交じりに答える。
「最近はこういった話が多くなった。やれ、強姦だ。誘拐だってな。昔の日本も対外だったが今みたいに無差別じゃなかった。少しでも平和にしてやりてぇんだけどな~」
宮本さんはそう言って天を仰ぐ。向かい合わせのソファーで座っているが顎しか見えないくらい天井を見つめてるな。
「俺もそう思ってる」
「だよな。俺と龍治はいつも考えは一緒だ。多分今も一緒だろ?」
「ああ」
親分の言葉に頷いて答える宮本さん。二人は一緒に天を仰いで嬉しそうに笑顔を作ってる。親友ってやつか。俺にはないものだな。
「この主犯の男は『今ならまだ見逃すぜ? なあ、星野』って言って脅してきた。裏に誰かがいるってこった。警察なら何か知ってると思ってな」
「ははは、自警団にでも戻るつもりか。でも、思った通りだ。都を出た時と顔が違うと思ってた。帰ってきたんだな。すぐに調べさせる。待ってろ」
親分の声を聞いて嬉しそうに涙を浮かべる宮本さん。正反対の組織を持っていてもこれだけ信頼しあえる。親友っていうものはこんなにも綺麗なのか‥‥。羨ましいな。
「出たぜ。少年の間に色々と悪さをしてるガキみてぇだな」
「おいおい、警察の一番偉いもんがそんな口きいていいのか? どっちがどっちかわからなくなるぞ」
「ははは、お前が移したんだろ。揶揄うなよ」
5枚の書類を差し出してくる宮本さん。口調が俺達みたいになって、親分が楽しそうに指摘してる。
俺は二人を羨ましく見るのをやめて、出された書類に目を通す。
「10歳で親を刺す?」
「こっちは12歳だな。とんだサラブレッドだ」
驚愕して思わず呟くと親分も一枚の書類を見て感嘆の声を上げる。
一枚一枚犯罪が書かれているもの。つまりは五回警察にお世話になってるってわけだ。
捕まえるようじゃ三流だが、これは社会をなめてるやつのやる犯罪だ。一度目の親は毒親だったかもしれない。しかし、次は教師を刺してる。三回目はその時に怪我をしていて病院に行った時の看護師。何をしても少年だから外に出される。そんな思惑が見える。
「5回目が強姦か。そのあとに今回の子を見つけたか?」
「そうみたいですね。間に合ったってわけだ」
5回目は殺傷事件じゃない。強姦に切り替えてる。あのまま連れ去られていたら星野は無事じゃすまなかった。
「ワゴンで連れ去って山の中でっか。成功したもんだから繰り返しやったか。まったく、これだからガキは」
やり口まで書いてある書類。思わず愚痴が零れる。節操のねえ猿みてぇな犯罪だ。こんなもん見る価値もねぇ。
「ん? 海外から指示を受けてるのか?」
親分は最後の一枚の書類を見て首を傾げる。一緒に見てみるとパラオからの着信が記録されてる。
「おう、それは古い情報だ。いまはタイからだな。闇バイトってやつだ」
宮本さんが教えてくれる。見るでもなくつけたTVでそんなことを言っていたな。馬鹿な日本人をこき使う馬鹿な犯罪者達。親切な日本人は犯罪者でも親切に言うことを聞く。良い奴はいつの時代も損をする。
「これをお前に」
「ん? なんだいこれは?」
宮本さんが航空券を手渡してくる。親分が首を傾げるとタイ行きの航空券だと気が付く。
「あっちが闇バイトならこっちは光のバイトだ。うちの部下を先に行かせてる。あっちで合流してくれ」
「え? な、そんな勝手に。こっちは星野を守らないと」
宮本さんが勝手に話を進める。俺は星野から離れるわけにはいかない。そう思って声をあげると彼はニッコリと微笑んでくる。
「こっちも人手が必要でな。本当は俺がいってやりてぇんだが、止められてる。頼んだぞ」
「‥‥」
笑顔の中に狂気が隠されてる。そんな顔で見られると汗が噴き出てくる。親分の方を見ると嬉しそうに宮本さんを見つめてる。二人して懐かしい空気になってるが俺は生きた心地がしない。
しかたねぇ、ここは星野のためと思いながら微笑みの国に行ってやるか。
オーシャン ザ スモーク @kamuiimuka
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。オーシャン ザ スモークの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます