第5話 袋のネズミ

真っ暗な中、高速の入り口をくぐる。星野につけたGPSは確かに高速を進んでいく。そして、パーキングエリアに入る……。


「おいおい、やっこさんは追われてるっていうのにパーキングエリアでハンバーガーでも食べよってのか? 今どきの若い奴らは犯罪中に飯食うのかよ」


 親分に見せるとそんなことを話して笑う。確かに可笑しいよな。もしや……。


「俺たちに包囲されてるのを察知した?」


 そう考えれば自然なことだ。ってことはこの後、逆走?

 そう考えているとGPSが逆走を始める。どうやって、反対車線に入りやがった!?


「親分! 降ります!」

 

 100キロで走るサイドカーから体を投げ出す。ゴロゴロと転がり、反対車線に走り出す。夜とは言え、高速だ。車両の数は少ないが気を抜くな。あいつのバイクは確か、黒い。暗闇に溶け込んでよく見えねえ。中央分離帯に立ち上がって都内の方向を見据える。


「ここで逃がしたらかなりやべぇ……」


 1、2、3台の車を見送って目を凝らす。ライトが目に染みる。絶対にここは通るはずだ。ここを通らねぇと出口はねえ。星野を担いで出れる出口はな。

 非常はしごで降りることはできる。だが、星野は声も上げていなかった。気絶させているなら絶対に無理だ。


「焦るな。集中しろ!」


 無駄なことに頭を回しすぎだ。声をあげて自分に言い聞かせる。自分の声だけが跳ね返ってくる高速道路、その時見覚えのあるバイクが走ってくる。


「いた!」


 一番左側をのろのろと走ってやがる。蛇行してあぶねぇ。って星野が起きて暴れてるのか。後部座席に寝かせてるだけだったのか。あぶねぇ野郎だ。


「とまれ!」


 バイクの前に躍り出て仁王立ち。黒いライダースーツの男は焦ってハンドルを切る。振り飛ばされる星野を難なく受け止める。縄で縛る時間もなかったみてぇだな。


「大丈夫か星野」


「あ、はい……」


 顔を覗き込んで声をかける。星野は血色のいい顔を見せる。体はどこもいたくないみたいだな。


「さて、こいつはどうするか……」


 バイクの破片とライダースーツの男。奴はナイフを踵から取り出すとくるくる回して見せる。お遊戯か?


「付き合うつもりはねえよ」


 声と共にチャカを取り出す。このあいだ撃った足に再度撃ちこむ。奴はその場に跪く。


「さて、根掘り葉掘り情報を吐いてもらおうか」


 フルヘルメットを脱がせる。顔に傷のある男、モンモンも入れてやがるな。


「星野、こいつ知ってるか?」


 星野に顔を向けさせる。すると彼女は首を横に振ってこたえる。少し間があったようだが。


「気になることがあるなら言えよ」


「あ、その……」


 俺の疑問を聞くとガタガタと震えだす星野。顔に傷のある男はニカッと歯を見せてくる。


「今ならまだ見逃すぜ? なあ、星野」


 男はそう言って余裕を見せる。派手に血を出してるくせに何を言ってやがる。俺は思わず思いっきり拳骨を利かせる。男は気絶しちまったみたいだな。

 親分の手配で同僚の車がたどり着く。男を別の車に乗せ、俺と星野は同じ車に乗り込む。


「あいつはお前のこと知ってるみたいだったな」


「……」


 お喋りな星野らしくない。暗い表情で俯く。それでも俺はいつもみたいに雑談を話しかける。今日の天気はどうだった、明日の天気はこうだ、と。最後にあの男が漏らしていたと言ったらクスクス笑ってくれる。思わず俺も笑うと星野は口を開いてくれる。


「あの人、私と同じ高校の先輩だった人で。その、私虐められてて。助ける代わりに付き合おうって言ってきて、それでおかしいと思って虐めてきた人を問いただしたら指示されていたって……」


 モジモジと手遊びをしながらつらつらと話してくれる。……まさかのかわいかったから標的になってたってことか。付き合うために虐めさせて助ける代わりに……まったく幼稚な。それがどんどんエスカレートして学校にもいられなくなって今日に至ると……。なんてやつだ。

 暗い雰囲気の中、車は星野の家の前に到着。星野の家は明かりがついてるな。


「親御さんにご挨拶した方がいいか」


「ええ!?」


 車から降りて星野の席にまわる。扉を開けて声をかけると彼女は顔を真っ赤にして戸惑いだした。……って! そういう意味じゃねえぞ!


「な、なに誤解してんだ! 俺がお前なんかと付き合えるわけねぇだろ!」


「は、はぁ~? な、なんのことかな~。べ、別に誤解してないし! ってなんかってひどくない! 木勢さんのくせに!」


 真夜中の痴話喧嘩、同僚からしばらく揶揄われるな。俺たちは二人で顔を真っ赤にして言い合いを続ける。

 くそみそに言われるがそれでも楽しくて笑みがこぼれる。


「ふ、ふん! じゃあね。体には気を付けてね!」


「はん! 言われなくても気をつけるっつうの! お前もバイト頑張れよ!」


 星野の家の扉が閉まるまで言い合いを続けて扉が閉まると車の扉を閉める。車の中に近藤が入ってきて運転席の同僚と一緒にコソコソと話すと大笑いをかます。


「おい! 早く帰るぞ!」


「「へ~い」」


 ちぃ、まだにやついてやがる。それでも悪い気はしねぇ。今日は煙草とビールを飲まなくてもぐっすり眠れそうだ……Zzzz

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