第4話 ついそう

 コンビニを離れて星野の帰路を歩く。

 星野はなぜ虐められていた? それが頭をよぎる。強すぎるがゆえにハブられたか。それならあり得るか……。そんなことを考えていると同僚の近藤が見たことある女子高生と座りながらアンパンを食べているのが見える……。


「おい! 近藤!」


 俺は声を上げる。なぜかというとその女子高生は星野だからだ。秘密裏に護衛しているっていうのに、近藤は何をやってんだ。


「何怒ってるのよ木勢さん! 守ってくれたんだから褒めないと!」


「あぁ? 星野はなんでお前……」


 近藤に詰め寄ろうと思ったら星野が割って入ってくる。俺は思わず頭を抱えた。

 ほんと星野はすげぇ。近藤は俺でも怖気づくような恐ろしい顔をしてる。グーニーズという映画に出てきた巨人の子供のような顔だ。まあ、優しい奴なんだけどな。

 星野はそんなやつと初対面で一緒に並んでアンパンを食ってる。コーンポタージュまで一緒に飲んでやがる。尋常じゃねえぞ、こいつ。虐められる玉じゃねえ。


「木勢の兄貴、その」


「あ~、もういい! 少し周りを見張って来い」


 アワアワと焦る近藤、指示を飛ばすと離れていく。近藤が渡してきたアンパンを思いっきり口にほおばる。ってアンパンなんてどこにあったんだ?


「慕われてるんですね」


 アンパンを無言で食べていると星野が嬉しそうに話す。こいつは本当に知らない奴と話をすることのリスクをわかってねぇ。


「星野。一つ忠告してやる。お前は知らない人間と話すことを恐れろ」


 星野の額を人差し指でつついて忠告する。星野は額を抑えて笑う。


「知らない人を知ろうと思うことが危ないのは知ってるよ。でも、知らないともったいないじゃん」


 星野は笑いながらそう言ってくる。こりゃ、何を言っても無駄か。俺はそう思って残りのアンパンを口に放り込む。近藤のやつ、コーンポタージュまでおいて言ってやがる。残すのもなんだ、全部飲むか。

 空き缶になったコーンポタージュ、捨てるために自動販売機の横にゴミ箱に捨てに歩く。星野は無口になっちまったな。少し言い過ぎたか?


「(知ろうと思って木勢さんに会えたんだもん)」


「あぁ? 何か言ったか?」


 離れると星野が何か口ずさんだ。何を言ったのかわからなかったが暗くなってきたっていうのに星野の顔がはっきりと赤くなっているのがわかる。訳も分からずゴミ箱に缶を捨てる。その瞬間、近藤のいるはずの方向から黒いバンが走ってくる。ハイビームで目がくらむ。これはまずい。チャカを脇のホルダーから取り、躊躇なく弾く。


「星野! 逃げろ!」


 車の走る音とチャカの音と共に声を上げる。フロントガラスが割れ、片方のライトが消える。星野に視線を送ってすぐに車が軌道を変える。俺が狙いか。

 間一髪、自動販売機と壁の間に入り込んで難を逃れる。俺を引くことに失敗したバンは走る音と共に遠ざかっていく。


「おいおい、過激だな。星野、大丈夫か?」


 星野のいた方向を見る。するとそこには星野の姿はなかった。さっきまで食べていたアンパンとコーンポタージュの缶だけが置かれてる。俺は焦りながらあたりを見回す。

 

「バイク! 近藤! お前は高田の親分に連絡しろ!」


 バイクの音! 俺は必死に走りこむ。あの黒いライダースーツの男か。徒歩で近づいて攫いやがったな。

 

「ハァハァハァ……」


 なんで奴らは執拗に星野を狙うんだ。星野に何があるっていうんだ。走りこむながら彼女の情報が頭をよぎる。

 普通の学校に通い、普通の高校に入学。気になることはいじめくらいなものだ。そんな普通の高校生がここまで狙われるのには何か理由があるはず。……可愛いからか? ってそんな小さなことなわけがねえ!


「だぁ~! 考えるよりも今は走りに集中しろ竜太!」


 はぁ~、煙草がすいてぇ~。こんなに走ったのは中学校以来だ。

 俺の中学校での生活は褒められたものじゃねえ。センコウに逆らって、罰として運動場を走らされた。一周や二周じゃねえ。二十周だ。

 その二十周のタイムがいいタイムだったらしい。駅伝の選手にしてやると言われたこともあったが、更にセンコウに殴りかかっておじゃんになった。煙草を吸っていてもその足は健在。それでも若いころとは比べ物にならねぇけどな。


「このままじゃ追いつけるわけねえ。高速にいくよな」


 バイクに徒歩で叶うはずもねえ。わざわざバンで襲ってバイクと攫ってやがる。やりなれてる野郎だ。近場ですませるなんてことはしねぇだろ。

 俺は高速に乗ると山を張って速度を上げる。あぁ~、煙草にビールを追加してぇ! 


「ハァハァ」


「おい! 木勢!」


「高田の親分!?」


 高速への近道を走っているとサイドカーを付けたごついバイクが並走してくる。声が聞こえて振り向くと高田の親分がニカッと笑う。金歯が光ってるぜ。相変わらずカッケェ、ハーレーってやつか。バイクはわからねぇんだよな。

 

「高速に向かったんだな? 近藤のやつはGPSはつけたか?」


「た、たぶん……」


 今日中に星野にGPSをつける話をしていた。あれだけ仲良く食事をしていたんだ。近藤のやつはミッションを達成してるだろう。俺はスマホを取り出してアプリを立ち上げる。


「ビンゴ。都内の方向に向かってるようです」


「よっしゃ! 高速の出口にも部下はいる。袋のネズミだ! 高速をドライブと行こうぜ」


 高田の親分は嬉しそうに声を上げてハーレーを飛ばす。この速度じゃ都内につく前に捕まっちまうぜ。でも、もう死に体だった親分が元気になってよかった。これも星野の力か?

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