幕間 その時黒江亜久里は(1)

 アレナちゃんと出会う3日くらい前。火災で死んだナニワギャルことウチ黒江亜久里は、知らん世界の知らん街の知らん道の隅っこで目を覚ました。


 (……ん?あれ?ウチは死んだんやなかったっけ……?)


「そうかー……ここが天国かぁ……お釈迦様も庶民的な趣味でおられて……」


「オシャカサマ……?この子、何を言ってるんだ……?」


「なんかよくわかんないが、目ぇ覚ましたぞ……嬢ちゃん大丈夫か?いきなり降ってきたと思ったらずっと横たわったままで……!」


 ……え?てことはここ、天国やない……?


「お……おおきに……」


「お、おう……」


 ウチが身振り手振りで謝礼を表現するが、なんか向こうの屈強なサイの獣人さんには通じとった。ケモ耳が生えとる人……恐らく獣人族とかエルフとかがおるなぁ…


(どーやらここは、噂の異世界っちゅーとこやんな……)


 理解が追いつかないが、理解する他なかった。んでもってその頃には世話焼きのサイの獣人さんくらいしか人がおらんなっとった……まぁみんな忙しいんやろな。


「……そーいやなんか足がモコモコしとるな……」


 そう思いウチが自分の足を見た途端。


「な……ぬゎ……に……に"ゃ……



にゃんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁっ!?」


 なんとウチの足が猫の毛に覆われとった!当然、それを見た周囲の人達はちょっと引いとった……ほんますんません…


「てことは……」


 恐る恐る、他の部位に変化が無いか触れてみる。


「耳ヨシ!」


「しっぽヨシ!」


「肉球ヨシ!」


 よくない!!役満やんけ!うせやろ!?ウチ、猫の獣人に転生してもうたってこと!?


 ……いや、もう1個疑問点がある…


なんで知らん世界の人達と意思疎通ができるんや……!!


(普通異世界の人の言語は理解できないのがラノベのセオリーなはず…どういうことや、ウチがぐーすこ寝とる間に『チート』とやらを授かったんや……!?)


 すると、どこからか『ピロン♪』と聞き覚えのある音……SNSアプリのメッセージが届いた時の音が、どこからか聞こえてきた。


「まさかスマホに関係あるんか……?」


「んぉ、この後魔物討伐か……」


 どうやらサイの獣人さんの方に届いたメッセージやった。


……いやなんでやねん!なんで異世界なのにガッツリスマホみたいなもんがあんねん!しかもそこはウチのスマホにやろ!


「……はぁ……」


 アカンアカン……浪速の血が騒いで、つい1人ツッコミをしてもうた…


「すまんな嬢ちゃん、俺は今から用事があるんだ……なんかよく分からんが、頑張れよ……」


「お、おおきに……ほなさいなら……」


 せっせこと走り出すサイの獣人さんに別れを告げ、念の為ポケットの中身を確認する。


(……いや、待て)


 ここでウチは大事な事を思い出した。確か調理実習の時スマホは持ってってなかったはずや……


「なのになんで、ポケットにスマホと思わしき物が入ってるんや……!」


 もしかしたらスマホやないかもしれん、ポケットに入るくらいのはんぺんかもしれへん……


「……だなんて思ってた時期が私にもありました……」


 はい、ポケットから出てきたのは生前愛用してたスマホでした。あまりの突然さに標準語になってしまいました。


「……どうしろっちゅーねん」


 情報量が多すぎて思わず座り込み、塞ぎ込む……何がなんだかわからんで……


『……

アグリア・クローネヲ契約者ト承認、ソロモニア・コードNo.01『知識の蜘蛛バエル』、インストール開始シマス』


 ……今なんか聞こえたような気がしたけど……まぁ多分幻聴や……他の人にも聞こえとらんのや……てことはウチ、疲れとるんや……


「この世界のウチの名前、アグリア・クローネっちゅうんか……」


 唯一聞こえとったのはそこだけやった。


そして、後にエグい大冒険をすることになろうだなんて、その時のウチは考えもせぇへんかった……

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