第3話 夜桜ユナ


 翌日学校に行くと、驚くべき事が起こっていた。

「あ、あれだ」クラスメイトが叫んだ。

 健斗は教室に入って首を傾げた。何が起こったんだ。クラスメイトたちが自分を見ている。ここには転校生してきたばかりなので、クラスメイトたちは自分が誰なのか知らないはずだった。

「あの、ケントさんですか」クラスメイトの女子が言った。

「そうだけど?」

 クラスの女子が悲鳴を上げて走り去った。

 意味が分からなかった。

「おい、おまえほんとかよ、あの噂?」

「噂?」

「しらばくれないでくれよ」男子生徒が言った。「夜桜の彼氏って、お前なんだよな?」

 健斗は驚愕した。付き合っているはずがない。なぜなら、彼女とは昨日出会ったばかりだった。首を振る。「付き合ってませんけど」

 クラスメイト達から悲鳴が上がった。「おい、ウソをついたぞ」

「白々しい。このクラスのアイドルに出を出しておきながら」

 そこへ夜桜がやって来た。

「彼は……」夜桜は、涙を浮かべて座り込んだ。 

 クラスメイトから悲鳴が上がった。

 クラスメイト達は心配するように、彼女の取り囲んだ。

 そのうち、クラスの男子生徒が近づいて来て言った。「ひどいじゃないか、彼女と付き合っておきながら、気に入らなくなったら捨てるなんて」

 健斗は意味が分からなくて動転した。「ぼく何もしてなけど」

「嘘つくな、転校生。嘘は見苦しいぞ」

 クラスメイトの視線が突き刺さった。 

 そんな騒ぎの中、クラスの担任がやって来て、ホームルームが始まった。

「では、自己紹介をお願いします」

 健斗は立ち上がって、クラス名たちの前で自己紹介した。なぜか、クラスメイトたちの視線が痛い。夜桜ユナの策略で、彼女をもてあそんで捨てたという設定にすり替わっているようだった。いい訳も出来ないので、自何も言わずに席に座った。

 やがて一時間目が始まり、一時間目が終わった。




 「おい。お前凄いことになったな」

 田中が言った。田中は、同じクラスメイトの仲間だった。そもそも、夜桜の部屋に侵入させるきっかけを作った人物だった。

「君がおかしなことをさせたせいだ」

「おい。俺のせいかよ」

 鈴木がやって来た。「やあ」

「きみも同じクラスだったのか」健斗は言った。

「まあ。そうだな。そう言う訳だ」鈴木は言った。「そう言えば、ぼくたちあの後の記憶がないんだけど、あの後のこと覚えてない?」

 二人には記憶がないらしい。「そうなの?」

「ああ、あのあと気づいたら廊下で倒れていた。夢かと思っていたんだけど、今日の出来事を見て、昨日の出来事が夢じゃないなと直感したよ。僕たちどうなったの? あの後、夜桜と何かあったりした?」

 健斗は事情を話そうと持ったがやめておいた。彼らによけいなことを話して、事情を複雑にしたくなかった。「いや、あの後、すぐ部屋に戻ったから」

「本当なの?」

「うん、本当だよ」健斗は軽く誤魔化した。

「それにしても、驚いたよな」田中は言った。「昨日携帯の端末に、夜桜から、転校生にふられたというメッセージが届いたときには」

 健斗は、詳しく聞いた。すると、全員の端末に同じようなことが送信されたらしい。

「マジか!?」

「マジだ」

「なぜ、そんな真似を」

「それにも分からん」

 田中は体操服を取り出した。「次の授業は、体育だ。支度しないと」

 健斗も体操服を取り出した。

 すでに、学用品は揃えられていて、支度も万全だった。

 教室では、女子が出て行き、教室で男子生徒が体操服に着替えている。女子はこの時間、更衣室に行って、教室は男子生徒の更衣室となる。

 体操服に着替えると、グランドへ向かった。グランドでは、他のクラスの生徒たちも集まって来ていた。体育の授業は、合同だった。

「では、体力テストを実施する」

 生徒たちから悲鳴が上がった。この日の体育は、ランニングだった。ランニングでは、一時間フルで走るので、各自、勝手に休憩しながら、休んだり、走ったりを繰り返しながら、一時間を使用する。

 さっそく走りはじめると、グランドを五周ほどすると、息切れして休憩のため脇に座った。

「いい眺めだねぇ」田中は言った。

 健斗は、グランドの隅の木の下に移動した。

「お、オレも混ぜてくれ」鈴木もやって来た。「ここはベストポジションなんだ」

「何が?」健斗は首を傾げた。

「ほら。ここ、日陰だし、休みながら女子を観察できる!」

 三人は、休憩しながら、女子のランニング姿を観察した。

「おお、塚本さん。ナイス」田中は、揺れる女子生徒の胸を眺めた。

「おお。名倉さんも、なかなか。顔も美人だし、ロリ体形なのに、出るところは出るという、アンバランスな体系の持ち主だ!」

「それを言うなら、やっぱり我がクラスの夜桜も負けていない」

 夜桜を見た。クラスの先頭を走り、女子の群れを率いている。クラスメイトから尊敬を集め、美人で、胸がでかくて、頭脳明晰と来れば、それはみんなの憧れの的になって当然だった。

「彼女って、人気者なの?」

「それは、見ればわかるだろ。非の打ち所がない存在だよ。頭が良くて、あのルックスだからな。お前は、まだ、この学校の事よく知らないんだろ?」

「うん。まぁ」

「なら、知らないかもしれないけど、この学校のカリキュラムの中には、自分の能力を図るための授業や、のばす為の授業も存在する」

「技能実習的な?」

「そうだ。つまり、能力を使った授業だ」

「へぉ」

 田中は言った。「それでな、夜桜は、その技能実習でもトップクラスなんだよ」

「すごいの?」

「それはもう」田中は言った。「この学校、いや学園都市はその能力を伸ばすための場所でもある。言ってしまえば、その能力を伸ばすことが何よりも大切なんだ。夜桜はそこで最強の能力値を誇っている。だから、より一層、みんなから憧れの対象となして、尊敬を勝ち取っているんだ!」

 健斗は気になった。「以前聞いたけど、この学校には特別な能力を持った生徒が集めらえているらしいね」

「お前知らないのか」田中ニヤリと笑った。「俺の能力を見せてやろうか」

「う、うん」

 田中は立ち上がると、指を鳴らした。すると、健斗と、鈴木に手招きすると、校舎の裏に向かって走り出した。その先には、教師が何やら、人目を気にするように歩いていた。そして、人気のない場所へ。

「あれは?」健斗は尋ねた。

「あれは、そう言うことか」田中は頷いた。「あの二人、不倫している!」

「は、本当か?」健斗は疑った。

「いや、本当だって。俺の能力は、直感的にネタを集めてしまう能力だ。ネタって言うのは、人が知りたいと思う秘密や、隠して起きたこと、人がおもしろと興味を引くような出来事を、集めてしまう能力のことだ」

「その能力があれば、特ダネ見つけ放題!」

 田中はにやりと頷いた。「だから、俺は、新聞部に所属している。俺はこの能力を使って、みんなの興味や関心ごとを集めて、記事を書いているんだ」

「なるほど」

「ちなみに」田中は言った。「鈴木の能力だけど、探し物を見つける能力を持っているんだ。こいつは便利だぞ」

 田中の説明によれば、鈴木の能力は万能で、失くしたものを探すことから、恋人探しまで応用ができるらしい。

 健斗は驚いた。「恋人を探せるの?」

「ああ」田中は頷いた。「鈴木はこの能力のことを秘密にしてるけど、俺だけは特別だ。まあ、同じ秘密を共有する仲間だからな」

「ぼくは、聞いてしまってよかったの?」

「ああ、友情の証だ」

 鈴木も頷いた。「ぼくの能力は、結構すごいんだ。いつか、彼女が出来ないと泣いていた友達から、相談を受けて、ぼくの能力使ったら一時間後には、運命の恋人を見つけられたん。ほかのも、悩んでいる生徒の話しを聞いたり、解決策を見つけてあげたり、テストの山を張りたいという生徒には、その辺りを探してあげたりした。だけど、注意点もある。万能ゆえに、あまり多用すると危険だ。僕の能力は一見万能に見えるけど、恋人にしても、本当に意味で運命の人だとは限らない。その場、そのときという意味で、運命の人を見つけてきたりする。つまり、絶対ではない。あとの注意点としては、大雑把に探し物がどの方向にあるかわかる、という程度のものだから、結構あやふやなんだ。。テストの山にしても、当たるときもあるし、当たらないときもあったりする。

 また、多用してばかりいたら、勉強の妨げにしかならないしね」

 健斗は頷いた。

 それから、一しきり話してから、三人はまたグランドを走り始めた。

「なあ。夜桜について教えくれない」

「気になるのか」田中は言った。

「うん。いちよう」

 田中と鈴木は、なぜ彼女に興味があるの気尋ねた。

 健斗は、昨日の一件を放した。彼女の部屋で見たもの。つまり、彼女は人から見たら、人気者で、非の打ち所がない生徒に見えるが、裏では、やばい女という衝撃の事実を知ってしまった。それが、日記の内容だった。

「マジか」

 二人は、震えた。

「でも、信じらない」

 健斗は頷いた。「でも、君たちは昨日の出来事を知っているし、今朝起こったことを考えれば、納得も行くはずだよ」

 二人は考えた。今日の出来事は、転校生が突然、彼女の彼氏になり、振られた悲劇のヒロインになり果てている状況だ。

 それになぜか、彼女が失恋したことが携帯の端末に送られてきている。

「彼女は悪だ!」

「でも、なぜ」

「分からない。でも、何か裏があるんだ」

 二人はそう判断した。転校生は真実を言っている!

「これは大ニュースだぜ」新聞部の記者の田中は燃えがあった。「ああ、これは凄いタになりそうだ」

「しないよね?」健斗は尋ねた。

「大スクープだぞ?」

「ダメだよ」健斗は言った。「だって、彼女の秘密を知ったら、ぼくがどうなったか知っているでしょ。僕はクラスメイトから、白い目で見られている。もし、真実を新聞中に乗せたら、君どうなちゃうか分からないよ?」

「友よ、俺を心配してくれるのか」

 頷いた。

 鈴木は言った。「でも、なぜ、彼女はわざわざ自分が不利になるようなことを?」

「謎だ」

「でも、普通に考えれば、彼女はこのクラス……いや学年のマドンナ的存在だ。その彼女がふられたなどという不名誉なことを」

 健斗には分からなかった。「でも、何か嫌な予感がする」

「だな」田中も頷いた。「何か裏がありそうだ」

「ぼくの能力を使えば、その正体の在りかを探すことも可能だよ」鈴木は言った。「でも、完全ではないけれどもね」

 健斗は首をふった。「それが本当だっととして、すべてのことを能力で解決はしたくないよ」

「そうか」田中は言った。「意外とおもしろかもよ」

「やめておくよ」

 鈴木は肩をすくめた。「それがお勧めだよ。無暗に使うのは、あまり得策じゃないよ」

「そうか?」田中は言った。

「うん。さっきも言ったけど、ぼくの能力は万能じゃない。あまり過信すると、藪蛇やぶへびを突くことになりかねないから」

 健斗と、田中は頷いた。話はそれで終わった。

 ランニングが辛くなってきたので、ここからは黙って走ることにした。

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