第7話 京・二条御所
◎テロップ 永禄二年(1559)春、二条御所
新しく造営が進む二条御所。その謁見の間、上段に将軍義輝が座す。
下段の間には、細川藤孝らの側近が居並び、その下座中央に長尾景虎が平伏する。
テロップ 長尾景虎(のちの上杉謙信)
義輝「景虎、此度の上洛、大儀である」
景虎、義輝から声をかけられ、さらに身を低くする。
景虎「ははっ、かたじけなきお言葉。公方さまにはご機嫌うるわしく祝着至極に存じ奉りまする」
義輝「それが……いろいろあってのう。頭の痛いことがあれこれ山積しておる」
景虎「と申されますと」
義輝「当今は、何にしても銭金の世よ。銭がなくては、万事思いどおりには動かぬ。その最たるものが、正親町天皇の即位式の費用じゃ。皇位に就かれたとはいうものの、かれこれ3年近く、即位式が挙げられておらぬ。おいたわしくも嘆かわしいことよ。そなた、何とかならぬか」
景虎「して、いかほどの費用が入り用でございましょうや」
義輝、脇息にもたれ、溜息をついて言う。
義輝「ざっと二千貫文ほどはかかろう。それでも足りぬやもしれぬ」
景虎「それは……なかなかの大金にございますな」
景虎、眉根を寄せ、黙す。
その困惑の様子を見て、義輝が妥協案を出す。
義輝「ならば、内裏の修繕費だけでも出してくれぬか。尾張の織田上総介にも頼んでおるのじゃが、いまだ色よい返事が来ておらぬ」
景虎、平伏し、応諾する。
景虎「畏まりました。この長尾景虎、謹んでお引き受けいたします」
義輝「ときに、いつまで京の都に滞在できるのじゃ?」
景虎「京に平穏をもたらし、大樹、さらには帝のご宸襟を安んじ奉るために上洛してまいりました。よって、所定の目的を達成するまで滞在するつもりでおります」
義輝「ふむ。それは頼もしいことよ」
義輝ここで一拍の間を置き、声をひそめる。
義輝「せっかく兵を率いて越後から上洛してきたのじゃ。この機会に、いっそ、そちの手で三好を討てぬか」
それを聞き景虎、狼狽の様子を見せる。
景虎「それは……大樹のご命令とあらば、この景虎、いつでも仰せに従いまするが、残念ながら、いまだ天の時、地の利、人の和を得ておりませぬ」
義輝「時期尚早とな」
景虎「御意。現下、三好どのは、正親町天皇のご信任篤く、しかも幕府の侍所に任じられております。となれば、即位式の警護を朝廷から仰せつかる立場。現段階で、そのような立場の者を大義名分もなく討ち果たさば、いかがかと。まして、兵を挙げ、京の平穏を乱しては、帝に対し奉り、誠に畏れ多いことと存じまする」
義輝、脇息を不興げに指の先で叩く。
義輝「なるほどのう。今の状況では無理か。状況が許さぬか」
景虎「ははっ」
平伏する長尾景虎。
それを見て義輝、唇を歪め、鼻白む。
●つづく。
次回は、三好長慶の居城・芥川山城に場面展開。
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