第5話 堺の三好館(海船館)

 堺の三好館に、三好の主だった者が集結した。

 上座に三好長慶、その左右に兄弟の三好義賢、安宅冬康、十河一存に加え、長老格の三好長逸、三好康長(笑岩と号す)、さらに重臣の松永久秀らが居流れる。


 ◎各人の名前テロップ(三好義賢、安宅冬康、十河一存、三好長逸、三好康長、松永久秀ら登場場面でテロップ)


長慶「此度、近江の六角どのが和議を申し込んで参った。さて、いかがすべきか。各々の存念を聞きたい。腹蔵なく申されよ」


長逸「と申しても、これまで義輝公は度々、我らとの和議を反古にしておる。ったく変節きわまりない。そのような御仁を相手に和議を結んでも、またもや裏切られること、必定と思わぬか」


康長「そうよ。そうともよ。そもそも和議など不要のこと。今や我ら三好軍は、阿波、淡路、讃岐より兵を集め、総軍二万に膨らんでおる。対する幕府軍はたかが二千と聞き及ぶ。ならば楽勝ではないか。そんな相手と何故に和議を結ばねばならぬ。叩きつぶせば、よいだけのことよ」


久秀「笑岩さまの仰せ、ごもっともと存じます。義輝公が我らとの和議を破り、戦うこと、これにて三度。仏の顔も三度までが限度。もはや堪忍できませぬ。この際、いっそのこと、公方を討ち果たし、我らの手で新しい幕府を開きましょうぞ」


一存「おうっ。今すぐ総攻撃をかけ、義輝公の御首級を貰い受けるべし。三好幕府を皆の手で開こうぞ」


 一同、深くうなずく。

 長慶、自分の意に反して、主戦論に傾きかけた状況に待ったをかける。


長慶「義輝公の御首級を得るのは容易なこと。ただし、問題がある」


一存「ほう、兄者。問題とはいかなることか」


長慶「ならば改めて皆に申しておく。畏れ多くも、将軍職は朝廷から授けられたもの。つまり、義輝公を討てば、幕府への謀叛というだけでなく、朝廷への反逆となり、天下の大罪となる。逆臣となるのよ。そのような大逆人、謀叛人が天下をとった例があろうか。かつて一度もないわ。第一、朝廷が大逆の罪を犯した三好家などお認めになるはずがなかろう。まして、我らは源氏直系でも、平氏直系でもない。三好幕府など夢のまた夢。よくよく考えてものを言うがよい」


 一同、長慶の筋の通った話に、押し黙る。

 その静寂を阿波の実質的支配者である長弟の三好義賢が破る。


義賢「では、兄者は和議をお考えか」


長慶「うむ。聞くところによると、義輝公は毛利、上杉、織田らの大名に三好討伐の御内書を送り、さらに武田、今川、朝倉などにも檄を飛ばしているという」


 長老格の長逸、腕組みをして「うーむ」と沈思黙考る

 他の一同も黙り込む。

 このとき、淡路の次弟、安宅冬康が静かな声で意見を述べる。


冬康「いかに我らとて、日ノ本六十余州を敵にまわすわけにはいかぬ。ここは一旦、和議を結んで、様子を見てはいかがか」


 長老格の長逸、無念そうな表情で「やむを得ぬ」と同意する。

 長慶、長逸に向き直り、口を開く。


長慶「叔父御、和議ということでよろしゅうござるか」


長逸「うむ。無念じゃが、よかろう。ただし、和議のあとは、義輝公を傀儡として、我らの手で京の都を牛耳り、まつりごとを行うべし。名を捨てて、実をとろうぞ。ええいっ、くやしいが和議じゃ、和議じゃ」


 一同、長逸の言葉に不承不承の体でうなずく。


●つづく。

次回は京・都大路に、場面展開。

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