第3話 琵琶湖渡船での出来事
卜伝は琵琶湖を渡る船中で、若い兵法者と乗り合わせ、勝負を挑まれた。
兵法者「まことに卒爾ながら、高名な卜伝どのとお見受けする。違いますかな」
卜伝「いかにも卜伝でござる」
兵法者「ならば、一手所望。ぜひにお相手されたし。拙者、いささか腕に覚えがござる」
卜伝「これは迷惑な。それがし、無闇に試合はいたさぬ」
兵法者「ほう。卜伝どのともあろう者が臆されたか。それとも、拙者を軽んじてのことか」
卜伝が相手にしないでいると、兵法者は「いざ」と剣を抜き放った。乗り合わせた女客から悲鳴があがる。卜伝が兵法者の粗暴な振舞いをたしなめる。
卜伝「かような狭い船上で、剣を抜くとは慮外千万。他の客人方も迷惑というものでござろう」
兵法者「つべこべ言わず、いざ、尋常に勝負」
卜伝「ふむ。致し方ない。では、あの川中にある砂洲でいかがかな」
それを聞いた船頭が眼前の砂洲に船を寄せた。兵法者はすぐさま船を飛び降り、素早く抜き身の太刀を構え、卜伝を待ち受けた。
すると卜伝は、すかさず船頭から竿を受け取り、その竿でサッと砂洲を突き、船を離れさせた。砂洲に取り残され、唖然とする兵法者の姿。
(回想終わり)
場面は近江朽木館・義輝仮御所に戻る。
義輝「ふむ、なるほどのう。もしや、それが新当流極意の無手勝流であるか」
卜伝「御意。わが流派の秘奥一ノ太刀以上に大切な極意にございます」
義輝「相わかった.戦わずして勝つこと、わが心にとどめておこう」
そこに、元管領の細川六郎晴元が現れ、義輝の前に片膝をつき、言上する。
◎テロップ 細川六郎晴元
晴元「大樹、一大事にございます」
義輝、卜伝との話の腰を折られて、不興げに眉根を寄せる。
義輝「なんじゃ。いかがした」
晴元「都で大変なことが……我らにひと言の相談もなく、帝が改元なされました」
義輝「なんと! 改元は朝廷と幕府が話し合って決めるもの。して、余を無視して、何という元号に改めたのじゃ」
晴元「永禄と改められましてございまする」
義輝「ううむ。陰でこそこそと公卿どもが蠢いたに相違ない。余を虚仮にしおって」
晴元「それに、憎き三好長慶めが、朝廷を誑かすべく策動したものと思われまする。いかがなされますか」
義輝「余は永禄などという元号を認めぬ。無視じゃ。こちらも無視して、今までどおり、幕府書面には弘治の年号を使うがよい」
晴元「し、しかし、帝がお決めになった以上、永禄の元号を使わぬと、朝廷に対する謀叛、叛逆とみなされましょうぞ」
義輝「かまうものか。どうせ虚仮にされておるのじゃ。それよりも、こんな近江くんだりでくすぶっておる場合でないわ。ただちに挙兵すべし。三好筑前めに、一矢報い、禁裏に泡を吹かせてやる」
晴元「ははっ」
ナレーション「かくして、将軍義輝は近江から出陣した。従うは、細川晴元、六角義賢ら三千の兵であったが、三好軍はこれを一万五千の大軍で迎え撃ち、京都・北白川で両軍が激突した。このとき、義輝の傍らには、塚原卜伝が付き従っていた。 ていた。
●つづく
次回は、京都白川口・足利義輝の陣に、場面展開。
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