第30話
宝石魔将ローゼベルフ。
地球人類の中で、名の知れた魔族の内の一人である。
二つ名の通り宝石を用いた魔法の使い手であり、これまで確認されている中で、海鐘島のような人類圏を少なくとも三つは滅亡させている。
赤玉を思わせる赤い瞳に緑色の短髪。濃紺の鎧から僅かに覗く、鍛え上げられた肉体など。戦士然とした見た目も、目撃情報と一致する。
そんな危険極まりない魔族が、海鐘島に現れたのだ。
理由は海鐘島を壊滅させる為。
雷人の思考は当たり前の様に、そこに行き着く。
日本語が通じるのは驚きだが、それは雷人が成すべき事と関係が無い事である。言葉が通じようが通じまいが、侵略者を殲滅させる事が雷人の任務だからだ。
全力で後ろに飛翔し、ローゼベルフと距離を取りつつ雷人は、現時点で最強技である雷爆球を右手に練り上げようとした。
「一旦様子見をした後で、攻撃を仕掛けるか。大分場馴れもしているようだ。ますます面白い」
「……お前は何が目的だ」
単に雷人を抹殺したり、島を攻撃するのであれば、とっくにそうしているはずだ。なのにローゼベルフは、わざわざ敵の目前に姿を現しただけでなく、こうして話し掛けてもいる。
強大で危険な相手だけに、雷人は一層の慎重さで真意を測ろうとした。
集中を削がれぬよう雷人は、無線の電源を手探りで切る。
「目的と言われれば、強い奴に会いに来たと言うのが正解だな。お前だろ?この前、お前たちの言う金属生命体と魔族の戦争に介入し、両軍を壊滅させたのは。それを聞いてやって来た」
「なるほど。納得だ。間接的とはいえ俺はお前を呼び寄せてしまったという訳か」
過去に何度も人類圏を滅ぼしている奴なのだから、海鐘島に現れても不思議では無いが、説明を聞いて雷人は納得した。
現れた理由にこそ納得はしたが、無論、招かれざる客である。
歓迎する気は更々無い。
「素直に帰ってくれるはずが無いよな」
「面白いが変な事を言う。俺が強い奴を前に何もせずに帰る様に見えるか?」
「強い奴……」
ローゼベルフの実力が本物であるのは、対峙していれば嫌でも分かった。
佇まいは元より、一言一句に至るまで隙が感じられない。
自惚れる気はないが、今の海鐘島にある戦力でこの男を止められるのは、雷人を除けば美鈴くらいだろう。
少なくとも、人間の肉体で太刀打ち出来るとは到底思えない。
相手の実力は未知数だが、覚悟を決めるしか無かった。
「分かった。言葉で帰ってくれそうにない以上、強制退去させるしか無い」
練り上げ維持している雷爆球を雷人は、ローゼベルフに向かってかざす。
「ようやくその気になったか……」
敵は好戦的な笑みを浮かべる。
背後の魔族軍が集中攻撃を受けているというのに、振り向く事すらしない。
「というか、お仲間が壊滅寸前だが、手助けしないのか?」
「お仲間?……ああ、あの連中の事か。あいつらは同じ魔族というだけで、俺とはなんの関係もない。ただお前をおびき寄せるための撒き餌だ」
吐き捨てる様にローゼベルフは言った。
何も知らないまま駆逐される魔族に、雷人はほんの僅かの同情を覚える。
「そういえばまだ名前を聞いていなかったな。俺は名乗ったぞ。お前も名乗れよ」
ローゼベルフは自らの胸元を、右手の親指で指し示しながら言った。
一瞬迷ったものの雷人は口を開いた。
「……赤羽雷人だ」
まさか、極悪非道を地で行く魔族に礼儀を説かれるとは。
一戦交える前に負けた様な気分になったものの、雷人は息を吐いて切り替える。
同胞ですら餌と同等に見るような奴である。最初からそうだが、魔族以上にこいつとは、なんの呵責もなく戦えそうだ。
「話はここまでだ。人類の未来の為にもお前はここで倒す」
「いいぜ。やれるものならな。ここからは拳と拳。技と技で語ろうか」
一気に場の空気が張り詰める。
数少ない目撃情報によると、ローゼベルフは剣術と遠距離魔法攻撃の両方をこなすという。
魔族戦のほとんど全てが、遠距離攻撃の撃ち合いに終始する。なので今の雷人の近接武器は短刀一本だけだった。
近接戦闘は分が悪い。
雷人は遠距離攻撃を主体とした戦い方を選んだ。
一拍間をおいてから雷人は、後ろに全力で飛ぶと同時に、雷爆球をローゼベルフに投げつけた。
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