第29話
迂回して魔族軍の側面を突く。
敵がまだ上陸していない戦況に雷人は、出来るだけ敵を混乱させつつ、攻撃する作戦を立てた。
氷漬けの四輪車や、電撃を受けたと思しき、燃えていない部分まで黒焦げの戦車など。
魔族軍の攻撃の多彩さを物語る、味方の被害状況を遠目に目の当たりにするも、雷人は何とか怒りを飲み込む。
仇は絶対にとってやる。
固く誓いを立てながら雷人は、敵味方の目を出来るだけ避けて飛行を続けた。
初めて戦闘形態になった時に見た、謎の金粒子はほとんど見えない。雨にも豪雨と小雨がある様に、金粒子にも多寡があるのかもしれない。
「やっぱり、戦闘形態でないと金粒子は見えないみたいだな」
雷人は確信に至った。
人間の姿をしている時は、一粒も見えなかった金粒子が今は見えている。
その理由は不明だが、変身に余裕が出てきた午後からは、金粒子の研究観測も雷人は行っていた。
その過程を経ての結論だった。
(そろそろだな……)
冬の日本海では珍しい、凪いだ夜の海をしばらく飛んだ雷人は、金粒子の分析を止め右に大きく進路を変えた。
眼前には浮遊魔法で海の上を移動する、魔族軍の横腹があった。
相当な大軍であり、縦横に長い隊列を組んで進軍している。
「海の上なら、雷爆球も使えるか」
最初から全力で行く。
魔族軍から離れた位置で雷人は、空中で停止した。最初に使った赤雷竜の技の記憶を呼び覚ます。
味方の前線までの距離は充分にあった。
攻撃範囲が以前と同じであるならば、攻撃に巻き込まれないが、今回は前回より威力が上がっているかもしれない。
まだ未知の方が圧倒的に多い力だ。
初弾は殿に撃ち込み、威力の程を見てから先頭にも撃ち込む。その後で赤雷波を用い、敵戦力を削り続ける。
一先ずの計画を雷人は立てた。
発動に不安があった雷爆球だが、二発共に見た目は以前と同じように再現出来た。
魔族も雷人の出現に気がつく。
多種多様な魔法で迎撃してくるも、夜間でも変わらない動体視力が、回避の難易度を大幅に低下させてくれている。
敵の攻撃を避けつつ雷人は、一発の雷爆球を予定通り殿に撃った。数瞬の後に命中し、巨大な水柱が雷人から見て左手に、爆音を伴って発生する。
威力と攻撃範囲は同じに思えた。
これなら味方を巻き込む恐れは無い。
残る右手の一発を雷人は、敵の先頭に向かって撃ち、命中した雷爆球は敵軍の一角を吹き飛ばした。
巻き上げられた海水が遅れて降り注ぐ。
どう見ても魔族軍は、天災の様な二つの攻撃に恐慌していた。もちろんこの混乱を見逃す手は無い。
国防軍側から見れば、敵が盛大に自爆した様にも見えるからだろう。味方の攻撃も停止する。
どこまで混乱が続くか分からないが、誤射される危険は大幅に減った。
「消え失せろーーーーーっ」
雷人は空中停止した状態で赤雷波を、二発の被害を免れた敵軍全体に向かって、的を絞らずに連射する。
絶え間ない雷人の波状攻撃に、魔族軍は総崩れの様相を呈し、落ち着きを取り戻した国防軍から攻撃を再開させる。
誰の目にも戦いの決着がついたかに見えた。
「ほう。地球の言葉で言うところの、聞きしに勝るとはこの事か」
「!?」
赤雷波を乱射する雷人の頭上から男の声で、聞こえる筈の無い日本語が届く。
無論、翔一郎の無線連絡では無い。
異変を察知した雷人は、攻撃を中止。後ろに引いた。
声のした場所を雷人が見上げる。
そこには魔族の特徴の一つである、山羊の様な曲がった角に鎧を纏った、一人の男が不敵な笑みを浮かべて静止していた。
こいつは危険だ。
本能で察した雷人は全力で身構えた。
声の主は開いた右手を、自身の胸元に当てながら名乗る。
「俺の名はローゼベルフ。さぁ、殺し合おうぜ」
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