第23話

「自分の事とはいえ、こうして見ると凄まじい戦闘力だな」


 部隊員が四人と少ないからか。第一特殊遊撃隊は、わずか二週間で正式に運用開始となった。

 隊の分屯地は、海鐘島の南西の海岸線から少し内陸部に進んだ、人目につきにくい森の中を選んで建設されていた。


 遊撃隊の名称の通り、極少人数による奇襲や、背後からの攻撃を想定している。


 引っ越しなどの、部隊立ち上げの準備は昨日までに済ませた。

 今日は任務初日。

 初任務は、雷人が魔族と金属生命体の軍を滅ぼした時の映像を、四人で見る事から始まった。


 万の軍勢を滅ぼしたのだから、一騎当万と言うべき雷人の戦闘形態の力は、圧巻の一言だった。


「うん。この映像を見れば、師団長たちが期待するのも分かるよ。雷人が圧倒的だもん」

「確かにそうだが、問題は俺が自在に変身出来るかどうかだ」

「私の問題は、雷人の様な戦闘形態が、私にもあるのかどうかね」

「これが俺たちの初任務か……」


 以前は夢にも見なかった任務の最中、どこか浮世離れした気持ちて雷人は呟いた。


「二人に怪物になれと言っているのだからな。我ながら酷い任務だと思っている」


 殴られるのを覚悟しているかの様な、やや強張っている表情で翔一郎は言った。


「隊長。それは言いっこなしです」

「そうですよ。私と雷人はもう、この事を受け入れてますから。その気遣いは不要ですよ」


 見るからに重厚な、脚が箱型の椅子に座る美鈴が雷人の言葉を補足する。


「そう言ってもらえると助かる」

「……戦闘後、雷人は人間の姿に戻ったと聞いているけど、あれは自分の意思で戻ったの?」

「いえ、少尉。あれは気がついたら戻っていたんです。俺の意思ではありません」

「そう……なら、本当に一からこの部隊を作りあげていく訳ね。面白いわ」


 そう言って恵は、自分の世界へと入って行った。

 傍目で見ても集中力の高さが窺える。


「恵さんてもしかして、難しければ難しいほど燃える質?」

「うん。恵さんが編み出した魔法は幾つもあるの。雷人も知っての通り、人類の魔法は魔族の魔法を元にしているわ」

「だけど、魔族の魔法の大半は攻撃魔法ばかり。防御とかの補助魔法は、ほとんど人類が編み出したんだろ?」


「その通りよ。そんなに数がある訳じゃないけど、今ある人類が開発した魔法の内、三分の一は恵さんが編み出したの」

「へぇ」

「今の恵さん。新しい魔法の開発に取り組んでいる時の顔と同じ顔をしているわ。こうなると、他人の言葉はあまり耳に入らなくなるの」

「ちょっと待て。だったら、少尉が一魔連から他部隊に移ったのは、人類にとって痛手なんじゃ」


「そこは問題無いと思うよ。別に一魔連でないと、魔法を研究してはいけない規則は無いし。そもそも魔法の開発で、恵さんに頼りきりの方が問題だと思う」

「それはそうだな。個人の力に頼る軍事組織が健全とは言えない」

「……ところで雷人。一つ気になる点があるんだけど」


 恵が流れる映像に目を向けたまま、画面を指差す。


「何でしょう?」

「雷人が途中から使い出した光線技。段々と威力が上がっているけど、どうやって上げていったの?」

「ああはい……美鈴が魔法についてのコツを教えてくれた事がありまして。それをそのまま実践していたら、段々と出来る様になりました」


「なるほど……だとすると、戦闘形態への変身も、その応用で出来る可能性があるわね」

「なるほどな」


 固い食べ物を口にした時の如く、一言一句を噛み締める様に恵は言った。

 翔一郎が納得した素振りを見せる。


「そうなんですか、少尉」

「あくまで可能性があるってだけよ。過度な期待はしないで……ただ、魔法のやり方が通用するかもしれないのは、ありがたいわね……よし!」


 恵は柏手を打った。


「ずっと座学をしていても変わらない。後は実践あるのみよ」



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