第22話

 二つある部屋の扉の内、奥の扉が廊下側に開いた。

 金糸の四つ桜が煌めく、大将である師団長を始めとした、制服姿の将官や大佐ら。五人の中年男性が入室してくる。

 その中で一人だけ背広姿の男性がいた。知事である。

 五人はそれぞれの座席の横に立った。


「敬礼」


 直立不動の姿勢で待っていた、雷人。美鈴。翔一郎。恵の四人は、翔一郎の号令で一糸乱れぬ敬礼をする。

 白髪の師団長が敬礼し、四人に顔を見せる様に見渡した後、右手を下ろす。


「直れ」


 今回も翔一郎の号令にて四人は右手を下ろす。四人は直立のまま。五人は各々の椅子に腰掛けた。

 師団長が口を開く。


「まあ、楽にしたまえ。特に赤羽伍長と金城伍長。大変な目に遭ったようだが、無事である事を嬉しく思う。ここは懲罰を決める場では無い。今後に不安を感じているのであれば、それは杞憂というものだ……では進めろ」

「はっ」


 師団長の指示を受けて、末席にいた第一特殊作戦連隊の連隊長。精悍な顔つきと眼力を持つ、雷人と翔一郎の上官が進行役を務める。


「師団長が仰った通り、これは査問会では無い。単刀直入に言おう。我々は君たち四人での特殊遊撃隊の創隊を考えている」


 特殊遊撃隊の創隊。

 根掘り葉掘り聞かれると思っていた雷人は、別の意味で身構えた。


「赤羽伍長の先般の戦いの映像は見させて貰った。金城伍長のこれまでの戦功も耳にしている。君ら二人の忠誠を疑ってなどはいない。ただ……」


連隊長の声の調子が変わる。

申し訳無さが含まれたものへと。


「圧倒的な力を手にした君らを、これまで通りに運用していては、現場で支障を来たす恐れが考えられる」

「……」


 連隊長らの懸念は最もだ。

 雷人は他意無くそう思った。

 冷静に考えて、魔族と金属生命体の両軍を壊滅させるほどの力の持ち主と、普通の兵士がまともに連携出来るとは思えない。


 それならばいっその事、人外の力を手にした雷人と美鈴は、独立させて運用した方が何かと都合が良い。

 部隊運用のぶの字も知らない雷人だが、そこは充分に理解出来る。


「特殊遊撃隊の隊長は林大尉。副隊長は千葉少尉に就いてもらう。ここまでで異論があれば聞こう」

「いえ。林大尉以下四名。特殊遊撃隊の創隊に異論等ありません」


 そう答えるしか無いとはいえ、雷人に不服は無かった。美鈴と同じ部隊で戦える事は僥倖であるし、上官についても最高の人選である。

 長所はいくつも思いつくが、短所は頭を捻らないと出て来そうになかった。

 その辺りは流石の上級将校。

 雷人は率直に感服する。


「部隊の詳細については、改めて連絡させてもらう。君らを前にこう言うのは気が引けるが、我々はこの部隊を公にしたくないのだ」


その理由を雷人は誰よりも察知する。


「詳細はどうであれ、竜と金属生命体の力を使うとなると、世論の反発は免れないだろうからな。だからこうして口頭で伝えるべく、この場を設けた。何か質問や、報告したい事などはあるかね?」


 連隊長の言葉に雷人は逡巡する。

 竜の力を手に入れた日に見た、謎の金粒子について、即席に思考を整理した。

 知識の無い自分一人が抱え込むよりも、この場で報告し、然るべき機関で調査してもらう方が絶対に有益だ。

 そう思った雷人は口を開く。


「僭越ながら宜しいでしょうか?」

「……聞こう。伍長」


 師団長が許可を口にする。

 出来るだけ簡潔明瞭に。雷人はその言葉を念頭に置く。


「先般の戦いにおいて私は、正体不明の金色に光る粒子を確認しました」

「正体不明の金粒子?」


雷人の説明に師団長が反応した。


「はい。それを私はこれまで一度たりとも見た事はありませんでしたが、竜の肉を食べてから急に見えるようになったのです」


 全員が黙って雷人を注視していた。若干の居心地の悪さを感じつつ雷人は続ける。


「そしてその金粒子を、魔族及び金属生命体が、自身の体に取り込んでいるのも確認しました……ここからは私の推測になるのですが、地球外生命体の各勢力が地球を侵略しているのは、金粒子が存在している事にあるのかもしれません」


 雷人の説明に動揺が走る。

 未だに地球外生命体が、地球を侵略している理由は不明なままだ。

 その中で齎された、今までに無い根拠を元にした雷人の仮説。

 全員がそれぞれの中で思案する。そんな素振りを見せた。


「だが、赤羽伍長が戦っている映像には、金の粒子など映っていなかったし、私もこれまで一度も見た事がありません」


 雷人の説明に、師団の幕僚長である中将が疑問を呈した。


「……確かに私も、伍長の言う金の粒子を目にした事はありません。ですが、確かに今伍長が言ったような行動を、地球外生命体が取っていた。その報告は今までにも上がって来ています」

「ふむ……」


 連隊長が師団長の顔を見て発言し、師団長は腕組みをして考え込む。


「……分かった。幕僚長。伍長の言う金の粒子を国防研究所などで調べるよう、通達を出せ」

「はっ」

「他に言う事がある者はいるか?」


 師団長の発言に全員が沈黙する。


「……無ければ、この場は終了とする。赤羽伍長に金城伍長」

「「はっ」」

「この先、我々には決して分からない、数多くの苦難が君たち二人には待ち構えていると思う。それでも、地球から地球外生命体を追い出したい気持ちは同じだ。この事はどうか覚えていてほしい。以上だ」


 雷人は師団長直々の激励に胸が熱くなった。建前ではなく、本気の熱意が伝わって来たからだ。

 翔一郎の号令に会わせて雷人は、自らの思いを敬礼に込めた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る