第13話
「……これなら奴らに一泡吹かせられそうだ。上から食らわせてやる……おわっ」
怒りに任せて羽ばたくものの、ぶっつけ本番で自由自在に飛べる訳が無かった。膝上の高さまでは上昇したが、急に
無様な想像にため息が一つ溢れた。
「……仕方が無い。今は走って行くか」
空から急襲する作戦を変更し、地面を走って戦場に向かう。
飢餓状態から脱している事に雷人は気づいた。力が漲る。走る速度は、明らかに人間の能力を凌いでいる。
ならば、跳躍力はどうだろう。試してみたくなった。
爆発音や地響といった、戦場特有の喧騒が大きくなっていく。
川から戦場までおよそ五百メートルあった距離を、二十五秒ほどで走破する。その速度を保ったまま雷人は、右脚で地面を踏みつけた。
一瞬で、戦場の端の真上に躍り出た。高さと距離ともに、十メートルは軽く跳んでいる。足元には、憎き金属生命体が群れを成していた。
ここ数十年でようやく人類は、地球外勢力と何とか戦えるまでになった。
防戦がやっとであるとはいえ、大きな一歩である。
現代人の戦果は、数知れぬ先祖の犠牲の上に成り立っている。そんな道半ばで果てた人々の無念。一言で言い表せるはずが無い、積年に積年を重ね続けた恨みを、ここで少しでも晴らす。
雷人は空中で投げる動作を取った。
「これが今までの人類の恨みだっ!」
それを自分がやる。
正直、胸のすく思いがした。
とはいえ、赤い球電の威力が不明である以上、巻き添えは御免だ。遠く離れた密集箇所を狙って投げつけた……命中する。
着弾した瞬間、真紅に爆ぜた球電が、地面ごと双方の敵を飲み込んでいく。
「な……」
知らなかったとはいえ、投げた張本人すら、あ然とするしかない威力。半径百メートルは確実に吹き飛んだ。
「地球が……」
敵がいない場所に着地した雷人は、言葉を失ってしまう。
隕石が落ちた規模で大地が抉れ、そこにいた魔族と金属生命体は、ほとんどが死体すら残らなかった。消滅したのだ。
雷人は竜の戦闘力の高さを恐れた。
同時に、この力を正しく使えば、ここにいる奴らを殲滅出来るとも思った。
その後で飛び方を覚えるなり、発光信号を送れば島への帰還が叶う。
この姿で帰れば、まず間違いなく大騒動になるだろうが、じっくりと時間を掛けて説明するしかない。
そんなに遠くない、不透明な未来を雷人は思い浮かべる。
「だが、それをするにはまず、こいつらを片づけないとな」
戦場に突如介入し、凄まじい攻撃で多大な被害を与えた雷人は、敵からすれば敵そのものだ。魔族と金属生命体の両軍が、雷人を目標に遠距離攻撃を開始する。
これまでの行動で、おおよその見当はついていたが、動体視力など。雷人の目もまた、機能が段違いに強化されていた。
全ての攻撃が
雷人は真上に跳んだ。
ただ敵を殲滅するだけなら、赤球電が現時点で最も効率が良い。いや、良過ぎる。
隕石が落下した跡の様な、赤球電の攻撃痕を雷人は、一瞬だけ見た。
地球人として、地球を傷つける技を出来るだけ使いたくなかった。
平気でそれが出来る様になれば、地球外生命体と同類になってしまうからだ。
姿や能力はどうであれ、雷人は地球人類として、今後も戦い続けるつもりである。その為には、この体で何がどこまで出来るのか。それを詳しく知る必要があった。
「……今は、近接格闘の能力を確かめるとするか」
ちょっとした飛行訓練のつもりで、翼で方向転換し、金属生命体の部隊の一つに雷人は突撃した。
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