第14話
五本の爪が、四足歩行の金属生命体を切り裂くも、肝心の爪の長さが足りない。
爪が長かったとしても、重くて硬い金属生命体が相手では、途中で折れてしまう事だろう。
一対一ならともかく、万の軍勢を相手にした上で、素手の攻撃のみで殲滅させる。それが不可能であるのは、火を見るより明らかだ。
地球を傷つけずに、まとめて敵を葬る。適度な威力の技が必要だ。戦いながら雷人は、その必要性に迫られた。
参考にしたのは金属生命体の光線だ。
動体視力の高さで回避しつつ、雷人はそれを
戦闘と観察への集中が怒りを鎮め、冷静さを取り戻させていた。
脳裏に刻みつけた光線を再現する。
球電による攻撃が出来たのだ。
やってやれない事は無いはず。
光線を手から放つ光景を思い浮かべる。
「やった!出、た……」
出るには出たが、光線は紐の様な細さだった。命中した人型の金属生命体は、気がついてすらいない。
威力も推して知るべし。
「……なに!出る事は出たんだ。後は威力を上げていけば良い。美鈴が言っていた通りにな」
雷人は昔、美鈴から聞かされた、魔法についての説明を思い出す。
(魔法は想像と、それを補う言葉が大事なの。魔法を使う上で、想像はとても大事だけど、どうしても漠然としたものになる。それを補助するのが言葉なの。この二つを組み合わせた完成度が、高ければ高いほど強力な魔法になるのよ)
美鈴の教えを忠実に守りながら雷人は、その後も実戦の中で、光線技の強化に挑み続けた。
「これではまだ駄目だ。もっとだ。もっと強く太くっ!」
生死を懸けた極限の集中の最中で、何十発と試行錯誤する。その末に、ようやく金属生命体を沈黙させられるまでに、威力を高められた。
射線上にいる金属生命体を貫通し、撃破するには充分な威力を備えている。連射も容易だ。赤球電より威力は劣るものの、実用的な光線技を雷人は会得した。
(赤雷波……)
白い雷を纏い放たれる、真紅の光線。
雷人は脳内でぽつりと呟く。
「これなら何とかなりそうだ……ありがとうな、美鈴」
美鈴への感謝は口で唱えながら雷人は、特訓の結果に納得する。
しかし、懸念は一つだけあった。美鈴も語っていたが、魔法には魔力切れがある。
見た目は攻撃魔法と同じ。
もしかすると、無限に撃てないのかもしれない。
赤雷波の使用を抑えるべきかどうか。
戦いながら真剣に考えていた雷人は、無数に浮かぶ金色の粒を再び目にする。
「さっきも見たよな、これ……一体何なんだ?」
周囲の警戒も兼ねて雷人は、この姿になってから初めて目にする、金の粒子にも意識を向ける。
「あれは……」
動体視力だけではなく、遠く離れた物も良く見える様になった雷人の目は、一魔族の行動を捉える。
その魔族は、漂う金の粒子を口から吸い込んでいたのだ。
他の魔族も同様の事をしている。
魔族だけでなく、金属生命体もまた、開口部から金の粒子を取り込んでいる。
「毒では無いのか?これは……」
気になった雷人は、試しに少量の粒を吸い込んでみる……傷んだ物を食べた時の様な拒絶反応は無い。
地球に存在しているという事は、雷人は知らず知らずの内に、金の粒子を取り込んでいた可能性が極めて高い。
なのに今も生きている。
毒では無い事の、何よりの証拠と言えるだろう。
攻撃を回避しながら今度は、大量に口から吸い込む。
今度は明確に効果を実感出来た。
水を飲むと体が潤う。火に当たると温かい。風が吹くと寒さか涼さを感じる。
ごく自然な営みであるかの様に、体が満たされていく。どんな疲れも一瞬で分解される、とでも言えば良いのか。
「なんだこれは?こんな物が今まで地球にあったのか……」
まだ予感の域を出ないけれど、この金の粒子を取り入れられる環境にいる限り、幾らでも戦える。そんな気がする。
謎の粒子の効能に、目を見張っていた雷人だったが、魔族軍が炎の大規模合体魔法を構築している事に気づく。
あれをまともに食らえば、竜とて骨も残らない。
「検証は後回し。今はあいつらを殲滅するのが先だ」
数が減った金属生命体ごと、雷人を葬り去る事で、この戦場の勝利を決定づけるつもりのなのだろう。
地球にも相当な損傷を与える魔法だ。
回避している内に、飛び方を体で覚えた雷人は、一直線に魔族の元へ飛ぶ。
「地球人としてこれ以上、お前らの好き勝手にさせてたまるかよっ!」
街一つを灼熱地獄に変える、破局的な破壊力の魔法だが、欠点は発動に時間を要する事にある。
敵の接近を防ぐべく、魔族の高度な攻撃魔法が多数、標的の雷人に迫る。
それらを掻い潜りながら雷人も、両手で赤雷波を撃つ。
「俺はまだ、心は人間だーーーーーっ!」
魂からの叫びを口にして雷人は、敵の懐に飛び込んでいった。
※
敵軍は全て滅ぼした。戦場をねじ伏せ、魔族の大規模合体魔法も阻止した。
戦場跡に一人佇む雷人を夕日が照らす。
あれだけ大量にあった金粒子は、ほとんどが目の前から消え失せた。今はごく少量が残っているだけだ。
両軍の増援もそれを機に、全く送られて来なくなった。
雷人の体にも劇的な変化が現れる。
金粒子が無くなると同時に、雷人の変異も解けたのだ。
偶然の一致の一言で片づけるには、腑に落ちない事が多い。
わずかに残った金粒子を眺める。
「訳が分からねえよ……」
思案に耽っている雷人の間近に、ずっと戦場を監視していたであろう、日本国防軍の無人偵察機三機が飛来する。
しばらく遠目で監視していたが、もっと詳細な情報を得ようと思って、接近して来たのだろう。
竜を模した人型で突如戦場に現れ。両軍を壊滅に追いやり。その後で赤羽雷人の姿を取り戻した。その一部始終は録画もされているはずだ。
下手な言い逃れはすべきでないだろう。
心の準備は出来ているつもりだったが、軍の仲間たちに今の自分の現状を見せてしまった。雷人は言い知れぬ不安を覚える。
それでも国防軍に向かって、無抵抗の意思を示さなくてはならない。
雷人は即席の白旗を作り、立てた。
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