第45話 オーガとの戦い
シェルターを出ると国道51号を北東へと向かう。次の目的地は佐原だ。ここにもシェルターがあることを教えてくれたので、食糧補給と休憩を行う予定である。
三好さんが、俺たちが出発する前に最新情報を教えてくれた。
「佐原の調達部隊が巨大な化け物の襲撃を受けて、うちのシェルターに逃げ込んできたの」
「巨大な化け物?」
真っ先に思い付くのはグリフォン。ホードの日に、俺たちの拠点にやってきたあいつらだ。
「命からがら逃げてきたみたいで、化け物の詳細はわからないのだけど、5メートルほどの巨大な岩の塊のような化け物と言っていたわ」
「巨大な岩……ゴーレムかなんかですかね」
「そうね。ここがファンタジー世界ならありえるわね。でも、ここは現代社会と地続きの終末世界よ」
「こんな世界になったのだから、そんな化け物がいてもおかしくはないのでは?」
「ゾンビは寄生体による死体の乗っ取り、グールは薬害による人災よ」
「その二つは、まあぎりぎりありえるか、くらいの状況ですね」
「けど、本当にゴーレムだったとしたら説明がつかないのよ」
何か巨大な生物と見間違えない限り、岩の塊が動くなんてことはありえないのだから。
「本当にファンタジーの世界の出来事ですよね」
「それに、そんな巨大な化け物がこの世界にいるのなら、今までにも目撃されていると思うの」
「たしかに……」
ゾンビがはびこるようになって1年。ゴーレムがうろついているなんて話は聞いたことがない。そういや、小春のテイムしたグリフォンも、そんな化け物は今までに見たことはないと彼女は言っていたもんなぁ……。
モヤモヤした気分のまま、俺たちは佐原を目指している。
ということは、途中でゴーレムに出会っても仕方がないだろう。
いちおう仲間達にもそのことは告げ、情報を共有した。
それでもルートを変えないのは、俺たちが最強だという自負があるからだろう。
こちらには魔法があるし、いざという時には合体技の力技で乗り切ればいい。
隊列としては、前衛がむっちゃん。その後ろに道世。真ん中に信乃ちゃんと、それを守るように隣に小春がいる。そのさらに後ろが第二の回復役である親帆さん。
オールラウンダーな俺は後衛にいる。
「ふせっち! 奇妙な死体がある。来てくれ」
先頭を歩いていたむっちゃんがそう叫ぶ。
全員が彼の元に集まる。といっても、信乃ちゃんは目を逸らし、親帆さんに抱きついている。まあ、グロいからな。
「先輩。下半身が食いちぎられてるみたいなんですけど」
小春は顔を歪めるだけで、しっかりと死体の状況を確認している。わりと肝が据わってるな、こいつは。
「こ、これは人食い巨人による犯行でしょうか」
道世は、やや顔を逸らしながらも、目の前にあるものを分析しようとしていた。というか、人食い巨人の喩えはいいんだけど、犯行とかいうと、殺人犯とかミステリの類を想像してしまう。
「ふせっちはどう思う」
むっちゃんに問いかけられる。
「俺たちは前にグリフォンを見たことがあるんだ」
「グリフォン? アニメに出てくるデカい鳥か?」
今は小春がテイムしていて、小型化しているから気付いていないのかもしれないが。
「せめて神話の中の幻獣と言ってほしかったな」
そんなこだわりは昔に捨てたから、むっちゃんを責める気にはなれない。
「あ!」
死体から目を逸らしていた信乃ちゃんが小さな声を上げ、前方を指差す。
「どうしたの信乃?」
俺はそちらの方に振り返り、その方向にある大きな足跡を見つける。
「巨人の足跡だな。道世の推理も的外れってわけでもなさそうだ」
俺は足跡に近づいてしゃがむとじっくりと観察をする。
大きさは約50センチほど。2種類の足跡が交互に付いているので二足歩行と思っていいだろう。
そうなると大きさは3メートルほどか。
足の指は人間と同じ数か。
変異したゾンビ、またはグールか。いや、他の化け物という可能性もある。
「先輩。佐原の調達部隊が見たっていうゴーレムじゃないんですかね」
俺の隣に来た小春も足跡を覗き込む。
「人形のような物体を作りだして、それをゴーレムと呼ぶこともあるからな。なんともいえないが」
その時だった。上空を警戒していたグリちゃんが「ぴぃいいいいい!!」と鳴いて異変を知らせる。
同時に。遠くの方から獣の咆吼のようなものが聞こえてきた。そして、ドシドシとこちらへと走ってくる化け物の姿が見える。
全身緑がかった皮膚に、牙の生えた大きな口。ギョロリとした恐怖を感じる目。大きさは3メートル以上はあるだろう。
この手の魔物は、異世界では見慣れたもの。だが、現実世界で見るのは初めてだった。
「オーガだ!」
**
「
現喜の身体に金の輝きを持つ透明な鎧が装着される。
「むっちゃん行っけー!」
前衛である彼に突撃の合図をする。
まず、前衛であるむっちゃんが真っ先に攻撃。
「おりゃあああ!!」
オーガの左足を鉄拳で殴りつけることで、バランスを崩し倒れていく。
さらに道世が倒れたオーガに魔法攻撃をする。
「インフェルノ!」
致命的なダメージにはなっていないが、頭に当てているので撹乱には役立っていた。
とはいえ、イマイチ決め手にかけるな。
さて、どうするか?
ゾンビのように動きがトロいわけでもないし、グールみたいにただの超回復があるだけのメンドクサイ敵というわけでもない。
異世界で苦戦したこともある生粋の魔物だ。とはいえ、今の俺にはそこまで強敵でもない。
このさい、戦いに余裕があるうちに、いろいろ試してみよう。
俺は今まで使っていなかった魔法を試す。
「
これはよくある相手を眠らせる魔法だ。カトリナから教えてもらって習得した魔法の一つである。
今までは敵がゾンビやグールだったので、使い勝手が悪くて魔法の発動をためらっていたが、相手が魔物なら動きを止められれば戦いやすくなる。
魔法が発動し、オーガを包み込む。だが、一瞬停止したかのように思えたが、すぐに動き出してしまう。
俺の魔法は、
ならば、前のように道世と合体して、PerfectInfernoでやっつけるか、それともまだ試したことのないむっちゃんとの合体で新技を決めるか。
オーガもそこまで強敵ではなさそうだ。
「道世。しばらく敵を引きつけてくれ。小春は道世のフォローを。親帆さんは信乃ちゃんを守っててください」
「御意」
「はい」
「わかったわ」
俺はむっちゃんのところへ近づく。
「むっちゃん! 試したいことがある。左手を上げて、超合体ヒーロー『バロスワン』の変身ポーズをしてくれ」
オレたちが小学校の時に観ていた特撮ヒーローものの番組だ。
「おう。なんだかしらんが、いいぞ」
男の合体技なんて微妙な感じと思っていたが、昔のヒーローもののノリであれば、違和感どころかこんなに熱い展開はないだろう。
むっちゃんの隣に立つと、俺たちは腕をクロスさせる。
「バロス」
むっちゃんがノリノリで戦隊ヒーローものの決め台詞を言うが、別にそこまでは望んでなかったんだけど、まあいいか。
だが、俺も懐かしさもあって、一緒になって決め台詞を言ってしまう。
「クロス!」
基本的に身体を触れて魔力を共有するだけだからな。手を繋がなくても身体の一部が触れてればいいのだ。ヒーローものをなぞるのは、イメージを具現化するには、最適な方法なのかもしれない。
キーンという高音とともに、またあの時のような金色の光に俺たちは包まれ、視界はホワイトアウトする。
気付いた時には、隣にいたむっちゃんはいなくなっていた。
『おい、これどういうことなんだ? オレたちほんとにバロスクロスしたのか?』
頭の中にむっちゃんの声が響き渡る。
「まあ、そんなようなもんだ」
説明が面倒になったので適当に答えた。
そして、目の前の仮想空間には『PerfectRelease』の文字が。これが新しい魔法か?
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