第46話 ゴーレムの奇襲


 文字に触れる。


 と同時に、力が解放され、己の身体に魔力が充填されていくのがわかる。


 さて、行くか。


 ショルツァのナックルが光り輝く。何かのエネルギーが先端に集中しているようだ。


 これでぶん殴ればいいのかな?


 俺は拳を振りかぶると、その場で跳躍する。


 身体能力も強化されたせいで、3メートルはあったオーガの顔面が目前に迫る。


 そして渾身の一撃。


 グアアアアアアン!! と物凄い音がし、一発でオーガは吹っ飛んだ。


「気持ちいいくらいぶっ飛んだな」

『すげーじゃん、オレたち最強だな』


 むっちゃんが感心したように声を上げる。とはいえ、まだ相手を倒したわけではない。


「追撃行くぞ」

『おお!』


 俺たちは、さらに追い討ちで全身をボコボコにする。


 それこそミンチになるような勢いだ。とはいえ、敵は元々の頑丈さがあるのだろう。肉片になるにはこのナックルでは適当ではなかった。


「そりゃ、ただの鉄拳だもんな」


 むっちゃんからのツッコミが入る。


 本体は滅せられなくても、こいつをどうにかすることは可能か。


 俺は、さらに拳に力を込め、大きく振りかぶる。


 脳内で何かよくわからない単語が出てくる。


『KiranEffect』


 これ魔法なのか? と思うが、もうノリでその呪文を選択する。と、ナックルが変形して、一回り大きくなった。


「あはは、これはなんでもアリだな」


 そして、もう動けなくなっているオーガの身体めがけて最大限の力で下からすくい上げるように殴りつける。いわゆるアッパーカットだ。


「行っけぇええええ!!」


 最大級の力で、オーガを天空へと飛ばす。


 ゴルフボールのように斜め上へと飛んで行ったオーガは、途中で光の加減で「キラーン」というような輝いて空の彼方へと消えていく。そう、まるで漫画でよくあるギャグシーンのように。


 たぶん、地球脱出速度を超えていたと思うから、オーガは宇宙の藻屑となっているだろう。


 それくらいの力を加えたってことだから、相当なものだろう。まあ、それで身体がバラバラにならなかったオーガも凄いのだけどな。


「これでひとまず安心かな」


 残量魔力を確認する。といっても数値はでないので、体感でだ。


 前と同じくらいかな。10%を切っているだろう。


 そう思っていると合体が解ける。


「おお、戻った」


 隣にむっちゃんが現れた。


 ちょいと疲れでてきた。少し休みたいな、そう考えていると道世がテンションの高い声で俺に告げる。


「主、さすがです! 合体技はロマンですよね。そして尊いデス」

「尊い?」

「そうです。主と六飼さまのめくるめく愛の結合はとても尊い関係なのデス」


 あー、まあ、いいか。こいつの脳内のことは俺は関知はしない。というか、こいつ、男女だと思考がフリーズするのに、同性同士だとテンションがバカ上がりするんだな。


「まあいいや、少し休ませてくれ、魔力残量がヤバい」

「お疲れさまです。先輩」


 小春が近寄ってきて微笑みかけてくれる。まあ、この子は癒し枠ではあるよな。


 だが、ボス級の化け物を倒して油断していたからだろう。その場にいる誰もがは異変を察知することができなかった。


「おいおい!!」

「なんだ?!」

「ちょっとなにこれ?」


 急に地面が隆起し、おれたちはバラバラに投げ出される。


「え?!」

「シノ!」

「おねえちゃん」


 そして、その隆起から現れたのは岩で出来たゴーレムだった。


 それこそファンタジーの物語に出てきそうなシンプルな大岩の人形だ。


「インフェルノ!」


 真っ先にに道世が攻撃するが、それは弾かれてしまう。まるでゴーレムを囲うバリアがあるかのように。


 むっちゃんがナックルで攻撃するが、大してダメージはないように見えた。そもそも、俺とむっちゃんは魔力残量が少ないので、大した攻撃はできない。


炎球ファイア・ボール


 俺も魔法で攻撃するが、これも弾かれてしまった。


 グリちゃんも突っ込んでいくが、敵を貫くことはできない。


 それを見ていた小春が問いかけてくる。


「先輩! 魔法無効化のスキルかなんかですかね?」

「そうだとしたら厄介だな」


 ゴーレムは一番近い道世がいる場所へと拳を振り下ろす。まずいな、彼女は生身だ。


聖衣蒸着ホーリー・クロス


 寸での所で防御魔法をかけた。彼女が潰されることはなかったが、そのまま後方へと吹っ飛ばされる。


「このままですと、負けはしないけど勝てないという状況に陥りますわよ」


 親帆さんの言うことはもっともだ。そして、そんな状況が長く続けば、魔力の枯渇でこちらが不利である。そもそも、俺とむっちゃんは魔力を大量に消費しているのだから。


 道世と合体して「PerfectInferno」を使うか? いや、魔法が無効化されるのであればあれも使えない。それに俺の魔力残量は少ない。どうすれば?


 3人以上で魔力共有して……といっても、ゴーレムはオレたちを分断するように攻撃をかけてきているので、それは難しい。


 何はともかく、生存率を上げるためにも、全員に聖衣蒸着ホーリー・クロスをかける。だけど、魔力を回復するために、俺はしばらくは何もできない。


「たいてい、こういうモンスターは核があって、それを壊すと活動を停止するんですけどね」


 小春が物語の知識でそんなことを言うが、それが本当である確証はない。そもそも、異世界で見たことがあるゴーレムとは姿が違っていた。


「その核はどこにあるんだよ? 堅い岩で守られているから、むっちゃんのナックルでも砕けないぞ」


 そんな風に言い返した時だった。


「きゃー!」


 信乃ちゃんの悲鳴が聞こえる。


 見ると彼女がゴーレムに両手で掴まれて捕まっていた。聖衣蒸着ホーリー・クロスのおかげで潰されることはないが……。


「信乃!」


 親帆さんが悲痛の叫びを上げる。


 むっちゃんが必死で腕を攻撃するが、まったくダメージを入れられなかった。


「ちくしょう! ダメか」


 そんな時だ。


 風を切るような音がして、ゴーレムの腕が信乃ちゃんごと地面に落ちて砂煙が舞う。


 何があったのか?


 次の瞬間、ゴーレムの首も落ちる。


 さらに間髪入れずに、胴体が真っ二つになった。そこに見えるのは星型の赤い物体。あれがゴーレムの核なのか?


 砂煙が落ち着き、そこには人の姿が見えた。


 仮面を被り、刀を持つ男。


 男は跳躍すると、星型の赤い物体をまっぷたつに切る。すると、ゴーレムの身体は粉々になって崩壊した。


 着地した彼だが、様子がおかしい。跪いたまま身体を震わせている。


 近づくと血を吐いていた。


「おい、だいじょうぶか?!」


 男を寝かせると、口元の血をタオルで拭った。この人は信乃ちゃんと探索していた時に、グールから彼女を助けてくれた人だ。


「ああ、すまないな」

「今、治療する」


 俺は、高等治癒ハイ・ヒールを使う。


 だが、回復魔法は効かなかった。治癒の成功を表す輝きが表れない。


 なんでだ? 神聖魔法が今使えない状態なのか?


 俺は空を仰ぐ。ホードの時のような赤い空ではない。


「親帆さん。あなたのアイテムを使って回復を」

「はい。使い方はこうでしたわね」


 彼女はペンダントを首から外すと、そのチェーンを手に巻き、それを持って男の身体に手をかざす。


「癒やしの風」


 神聖魔法ではなく、特級版の生活魔法だ。3回しか使えないと言われていたが、実際は持ち主の魔力量に応じて一日使える回数に限りがあるだけだ。


 だが、回復する気配が無い。男の顔はどんどん真っ青になっていき、さらに血を吐く。


「サトミくん、魔法が発動しません」

「どうして回復魔法が効かないんだ?」


 冷静な小春がぼそりとアドバイスしてくれる。


「先輩、毒なのでは?」


 そうだったな。少し冷静になった方がいい。


解毒治癒キュア


 だが、それでも魔法はダメだった。もちろん、親帆さんの持つアイテムを使っての解毒でもだ。


「……無駄だよ。私の身体は回復しない。君の魔法であってもね」


 この人、魔法のことを知っている。何者なんだ?


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