第29話 幼なじみ
「ミッチーってさ、ポニーテールじゃなくて、髪はストレートの方がいいんじゃない?」
道中で小春が道世のことを弄り出す。
「な、なぜだ? コハル」
「ミッチーって美人な顔立ちだし、髪がぼさぼさに見える雑なポニーテールよりいいんじゃない」
「そ、そうなのか?」
「髪も毎朝梳かしなよ。あと、
「けど、我は、その……似合わないから」
「似合わないことないでしょ。言ったじゃん、ミッチー美人だって」
「でも、モテたことないし」
「それは、性格のせいだと思うけど」
それは俺も同意する。
「わ、我は孤高を目指してるのだ」
「今は3人で旅をしてるんだし、楽しいでしょ?」
「……た、楽しいかもしれぬ」
「そうだなぁ。今度、服をコーディネートしてあげるよ。わたし、裁縫も得意だから、手直しもできるよ」
「悪いし……」
「えー、でも、そしたら先輩が喜ぶと思うよ」
女の子同士の話にほっこりしていたところで、容赦なく俺に話を振る小春。
「おい! そこで俺がなんで出てくるんだよ」
「だって、先輩、ミッチーのご主人さまなんでしょ?」
「『ご主人さま』って言い方、間違ってはいないけど悪意ないか? ほら、道世も反論しろよ」
「……」
赤くなって黙り込む道世。これはたぶん、下ネタに反応してフリーズしているのだが。というか、これは知識があるゆえに反応しちゃっているパターンなんだよなぁ。
「俺には、そういう趣味はないからな」
「えー、先輩、美人な子好きじゃないの?」
これは罠だ。
「美人が好きなのはおまえじゃないのか?」
小春の誘導に引っかからずに返したつもりだが、彼女は飄々と語る。
「まあ、顔が良い子は好きですよ。目の保養になります」
「そうか。まあ、俺は、うん。そんな小春でも普通に接してやるぞ」
「あー、なんか。今、わたしのこと勝手に百合認定しましたね? 先輩、ちょっとキモいんですけど」
なんだよ。LGBTQに配慮してやったのに。
「キモいはないだろ?」
「わたしは芸術的な観点から女の子を見ているだけですよ」
「本当かぁ?」
俺はうがって疑ってしまう。
「整ったものが好きなのは人間の本能です。先輩だってそうでしょ?」
「俺はそんなに顔にこだわらないよ」
「えー、ほんとですかぁ?」
「嘘吐いてどうすんだよ」
「どうせ、本音はわたしみたいな普通の子より、ミッチーみたいな美人さんが好きに決まってます」
「普通って……そんなのは人によって違うだろうが」
「先輩は『普通』って言いましたよ」
「言ったっけ?」
過去の彼女との会話を思い出すが、そんな細かい所まで覚えていなかった。
「わたしは忘れませんから」
「おまえ、根に持つタイプなんだな」
**
30分くらい歩いた頃だろうか、道世が急に立ち止まりこんなことを言い出す。
「主、気配を感じました」
「気配?」
「敵ではありませぬ。これは、同志かと」
えーと、こういう場合はどう対応すればいいんだ。中二病初心者の俺に教えてくれという意味で、小春の顔を見る。
「先輩。ミッチーのその感覚、わたしと同じだと思います」
「どういうこと?」
「わかりません。ただ、前回、わたしが感じた先にはミッチーがいましたよね?」
そうだ。小春と道世に共通すること。それは、手の甲に文字が浮かび上がり、俺の持っていたマジックアイテムを引き寄せたということだ。
ということは、この先にもそれと同じ人間がいるのか?
「主。生体反応が弱まっています。急がないと」
道世がそう言って駆け足となる。
「待てよ。生体反応って、どういうこと?」
中二病の台詞を翻訳するのは大変なんだから。
「ケガしてるんじゃないですかね? わたしも反応がだんだんと弱まっているのを感じます」
「ケガ? まあ、俺の治癒魔法でなんとかなればいいけど」
感染していたらどうしよう? そうだな……
数百メートルほど走って行くと、道端に人が倒れているのが見える。ヘルメットを被っているので顔は見えない。その近くには、事故を起こしたかのように大型のバイクが転倒している。
「大丈夫か?」
全身皮のライダースーツ。身長は俺よりも大きいくらい、体つきからして男かな? 右足が変な方向に折れ曲がっている。さらに、左肩に咬傷があった。
ゾンビに噛まれて感染しているかもしれない。ヘルメットを被っているので年齢はわからないが、若ければ確率は低くなるだろう。
「小春、道世。近づくな、感染している可能性がある」
「そんなぁ。先輩の魔法でなんとかならないんですか?」
「この方は我々の同志である。なんとか助けられぬか、主よ」
二人から懇願される。まあ、言われなくてもやるけど。
「
まずは感染源となる毒素の排除だな。俺が寄生体と呼んでいるだけで、本当にそうなのかもわからない。
魔法が発動したことで、肩口の傷から血が溢れてくる。俺が前に見たスライム状のものではないな。うねうねと動いて逃げ出すこともなかった。
「その血に触れるなよ。たぶんゾンビの体液だ」
本当に体液かどうかはわからないが、念には念を入れて近づかせない方がいいだろう。
「……」
「……」
見ていた二人が恐怖で震え上がり、お互いに抱きつく。まあ、その場を動かなければ大事にはならないだろう。
「
止血だけの
ビクリと男の身体が動く。呼吸も安定してきているようだ。
「ヘルメットを外そう。回復したら話が聞きたい」
俺はヘルメットを脱がす。が、そこには見覚えのある顔があった。といっても、俺が知っている顔はもうちょっと幼い感じだが。
「むっちゃん?」
思わず昔馴染みのあだ名が口からこぼれる。
「お知り合いですか?」
小春がそう聞いてきた。
「たぶん、幼馴染みだ」
名前は、
中学に上がる前に俺が引っ越して、それっきりになってしまった幼馴染み。
小春と道世のようなただのクラスメイトではなく、俺とむっちゃんともう一人でよく遊んだ記憶がある。そういう意味では親友でもあったのかな。
「……ごほっ……」
むせ返るかのように咳をしたむっちゃんの目が開く。
「ここはどこだ?」
「気がついたか?」
「チカホ……チカホは?」
ばさっと彼は上半身だけ起き上がる。少し混乱しているようだ。
「落ち着け。とりあえず、何があったか聞いていいか?」
「え? おまえ、フセっちか?」
ようやく俺の存在に気付いたらしい。
「ああ、久しぶりだな。小学校以来だもんな」
「ああ、おまえが生きていて良かったよ。キッチもどっか行っちまうし」
「キッチか。懐かしいな。まあ、こんな世界だから仕方ないだろ」
キッチこと鬼頭竜一と俺とむっちゃんは三人でよく遊んでいた。むっちゃんの場合は、最近までキッチと付き合いがあったのだろう。
「ゾンビが現れてから散々だったんだよ。そんなことより、オレはどうなったんだ? ゾンビの集団に襲われてなんとか逃げられたと思ったら事故ったんだが……ここは天国か何かじゃないよな?」
「あー、説明はしにくいが、おまえは助かったんだよ」
「ならいい。そうだ、オレは行かなきゃいけないところがあるんだ」
むっちゃんは無理に立ち上がろうとする。
「待て、まだ完全に回復してない」
魔法は一瞬で傷を治せるわけではない。止血はできるが、内部の損傷した細胞は、時間をかけて戻るのだから。
「だけど、それでも行かなきゃならないんだ。オレの大切な人が
「カノジョか何かか?」
「ああ。だから行かせてくれ」
「場合によっては俺も手伝うよ。だから、あと少し安静にしてくれ。ケガが完治してないおまえが一人で行くのと、もうしばらく待って二人で行くのと、どちらがいい?」
俺はなんとか現喜を落ち着かせようと試みる。
「おまえ、昔と変わらないな。わかったよ。チカホを助けてくれ」
現喜は頭を下げる。必死さが伝わってきた。
「チカホさんってどんな人なんだ? あと、
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