第27話 ■最強の魔法 +■ another episode『魔王城』
「先輩?」
頭の中で小春の声がする。
「
道世の声も同じ頭の中に響き渡す。姿が見えないのにどういうことだ?
その時、隣にビルにいたもう一匹ののグリフォンがこちらに向かって飛んで来る。だが、到達する直前で魔法回路が生成される。
『ExtremeDefense』
自動で魔法の盾が生成された。これはヴァジュラの指輪に3人の魔力が流れたゆえの上位防御魔法だ。
グリフォンは魔法の盾に触れた瞬間、電撃が走ったように痙攣し、そして屋上の床に倒れる。
「死んだか?」
いや、まだ生きてるか? 身体が僅かに上下している。呼吸をしている証拠だ。
ならばトドメを刺してやるか。
「先輩!」
また頭の中で小春が話しかけてくる。
「どうした?」
「なんとなくですけど、先輩と繋がったおかげで、魔法の知識が共有されつつあるんですけど」
「そうなのか?」
「我も魔法のことがわかってきたぞ。あのマジックアイテムも、もっとうまく使えるだろう」
なんだろう。俺の知っている魔力共有と違うような……。
「あ、それから先輩。ヴァジュラの指輪って、テイム機能ありましたよね?」
「あったけど、あれは下等魔物じゃないとテイムできない……いや、今は魔力共有中か」
「そうです。より上位のテイム魔法が使えるはずです」
「おいおい、まさかとは思うが、このグリフォンをテイムしようっていうのか?」
「できますよね?」
そう問われて、たしかに否定する要素が見つからなかった。
「そうだな。グリフォンは昏睡状態だ。今ならテイムの成功確率も高いだろう」
「じゃあ、お願いします」
「しかたねえな」
俺は別の魔法回路を探し出す。そこに見えたのは次のイメージ。
『ExtremeTame』
それに触れる。
「エクストリームテイム」
小春の声が頭の中で響く。これ、どういう仕組みになっているんだろう。必殺技みたいな、叫ぶことで発動するタイプか?
魔法が発動すると、鎖のようなものが倒れているグリフォンに巻き付いて金色に発光する。
「やったー、これでわたしの眷属ゲットです」
頭の中で小春がはしゃいでいる声が聞こえてくる。
まあいいか。戦力増強にはなるだろう。
そういや、さっき放った『ExtremeInferno』の魔法はかなり絶大であった。今のうちにゾンビを処理しておくか。
ガソリンの
俺は屋上から、マンションに入り切れていないゾンビの集団へとダイブする。
落下の瞬間に『ExtremeDefense』が発動し、周囲のゾンビが麻痺状態となった。
「ここで一気に片付けるか」
『ExtremeInferno』を発動させる。
空気中を舞う炎の筋が、ゾンビたちを貫いていく。それは一体も逃すことなく、すべてを灰に変えていった。
もちろん、マンションの中で階段になだれ込んでいたゾンビたちもである。
いつの間にか紅い月は通常の色に戻っていた。
これで平和な夜が取り戻される。
まだ夜更けには早い。マンションも無事だし(当初はゾンビごと燃やすつもりだった)部屋に戻って寝るかな。
とはいえ、この合体みたいな現象はどうやって元に戻すんだろう?
そもそも、異世界ではこんな合体技にはならなかったはずだが……。
とりあえず魔力共有の解除だ。
「合体のきっかけは魔力共有だったな。だったら、共有をやめるイメージに変えれば……」
ふっと身体が軽くなり、両脇には俺にしがみついている二人の少女が現れた。もちろん、小春と道世である。
「戻ったぁ」
「あ、主さまと。が、がった……」
道世がそこで言葉を止め、急に赤くなる。
「先輩。合体技って、まるで巨大ロボットじゃないですか」
なるほど。道世は中二病ながらも、そこらへんお恥じらいはあったか。逆に小春はあっけらかんとしてる。一歩間違えば下ネタになりかねないってのに。
「たぶん、その指輪が関連しているんだろうな」
「これって、先輩の異世界での忘れ物ですよね」
「忘れ物っていうか、こちらに持ち込めなかっただけだよ。けど、合体機能なんて向こうじゃなかったぞ。それこそ、『プランZ』でやりたかった魔力共有で、ほどほどに魔法をパワーアップさせるくらいだよ」
「先輩にもわからないんじゃ、どうしようもないですね」
「わからないことが多すぎだよ。そもそも、あのグリフォンはなんだよ?」
「わたしだって初めて見たんですから、知りませんよ」
そう言ってたら、テイムに成功したグリフォンが降りてくる。
「そういや一匹テイムに成功してたな」
「これ、わたしがもらっていいんですよね。先輩」
「まあ、今の指輪の持ち主は小春だしな。それはかまわないが、このままだとデカすぎて目立つから小さくしておけよ」
「小さくですか?」
「テイムの基本魔法で、普段連れ歩くときはサイズを小さくするものがあるんだよ。トリガーとなる呪文は適当にイメージのしやすい言葉を選んどけ」
小春は「うーん」と考えると、グリフォンの方を見ながらこう唱える。
「スモール」
そのまんまだな。まあ、人の事はいえないけど。
小春の呪文でグリフォンは30センチほどに小さくなる。
グリフォンは一度羽ばたいて空中を旋回し、小春の肩に止まる。
「うん、遠目に見れば
グリフォンは4本足で身体が獅子だからなぁ。
「人が居るときは空を飛んでてもらいますよ」
それで誤魔化すしかない。
さてと、部屋に戻るか。
「一度部屋に戻って休憩しよう。寝不足で歩くのはつらいからな」
「はい。あれ? ミッチー?」
道世がフリーズしている。
「……あるじさまとがったい……がったい」
「ミッチー、さっきの合体発言でフリーズしちゃってますね」
おまえは平気なんだよな。というか、そもそも俺って、男として見られてない?
■another chapter(別章)
□魔王城
沼地に一夜で建てられたとされる城。
場所は茨城県の鬼越山の麓にある。
全体的に黒で統一された巨大でトゲトゲとした外観の異様な城。それはゴシック建築の特徴と相まって、悪魔が棲む城を彷彿させる形状となっていた。
城内には王の間が設けられ、一人の少女が鎮座する。彼女の名は
「眷属のグリフォンが消えたわ」
まだあどけなさを持つ黒髪の10代前半くらいの少女がそう呟く。視線はどこか、中空を見ているように定まらない。
数日前、彼女は特異な魔力を関知し、眷属として召喚したグリフォンを斥候として送り込んだのだった。
「魔力の使用者は特定できましたか?」
白衣を着た白髪の老人が少女にそう問いかける。彼の名前は
「いえ、赤い月が邪魔をして、眷属の目で覗くこともできなかった。しかも、一体は消滅、もう一体は眷属から外れたわ」
少女が座っているのは玉座。座具は一段高い壇上に設置され、その上には天蓋がある。
「それは残念ですな」
千谷は、自分よりも五十歳以上は年下であろう少女にひざまづいている。
「でも、あの魔法痕跡は記憶にある」
少女は耳元の髪を指でくるくるとまわしながら、気怠そうな表情でそう呟いた。
「つまり、次元を超えてこちらへとやってきた者がいると?」
「確信はできないわ。でも、この世界の者たちはそもそも魔法を使えないのでしょ?」
少女がそこでようやく、千谷の顔を真っ直ぐ見る。
「ええ、もちろんです」
「ならば、この世界の者ではない。異世界から来た者たちと見るべきじゃない?」
「脅威であれば排除いたしますが」
「うふふ。あなたごときに倒せる相手じゃないわ。わらわの眷属がやられたのよ」
「そうでございましたね」
「あなたに期待するのは、この世界の人間の管理よ。想定外のことはあたしに任せなさい。そのための『記憶』なのだから」
少女は、指に嵌められた黒い石のついた指輪を愛おしそうに触れる。
「報告があります!」
入り口から、一匹の魔物が現れる。その者は小柄で犬に似た頭部を持つ姿をしていた。
オーソドックスなファンタジーの物語を知っている人なら、その生物について『コボルト』と名付けられていることに気付くだろう。
「騒がしいな。どうした?」
少女が怪訝な顔で魔物に視線を送る。
「転移陣にレッドドラゴンが召喚されたのですが、我らを仲間と認めず、暴れております」
「そうか、わらわの出番じゃな」
少女は立ち上がり、椅子に立てかけてあった大きな儀式用の杖を持つ。
「どうぞ、お気を付けください」
千谷は頭を下げながらそう告げた。
「気をつける? わらわの前には、誰もが平等にひれ伏すのじゃ。心配などいらぬ」
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