第7話 探索で物資をゲット!
それから数十分歩き、ショッピングモールに着く。ところが、入り口付近にはゾンビたちが数十体たむろしていた。
「この分だと中にもいそうだな」
「そうですね。わたし、ビッグブリッチにいたときにモールの物資調達部隊に参加したことあったんですけど、ゾンビが多すぎて大して漁れずに引き返したこともあるんです」
「やっぱり商業施設はゾンビが集まりやすいのか?」
「食品売り場があるところは集まりやすいですね。腐敗臭がゾンビを引き寄せるとも言われています。まあ、全部が全部そうじゃないんで、道でばったり出くわすこともあるんですけど」
となると、安心して物資を漁ることはできないか。
「仕方がない。高ランク魔法、
「なんですか? サンクチュアリって。あ、もしかしてアンデッドをやっつけるやつとか!」
「いや、残念ながら
「なーんだ」
「それでも、ちまちまとゾンビをやっつけるよりは効率はいい」
「そのサンクチュアリの『効果時間』と『使用マジックポイント』はどれくらいなんですか?」
マジックポイントって……ゲームじゃないんだから。
「一度
「えー? じゃあ、どうやって残りの魔力を見るんですか?」
「魔法にはランクがあって、初等魔法なら1日30回、中等なら15回、高等なら5回くらいって目安はあるんだ。
「めちゃくちゃ大雑把な回数制限ですね?」
「そもそも魔力は魔法によって消費されるけど、しばらくすれば回復していく。体力と同じだよ。きっちり何回魔法が使えるとはいえない」
「へぇー、なるほど」
俺は、両手を前に掲げ集中する。高等ランクの魔法は、呪文は単純でも集中力を必要とする。
「
これで魔法を発動した半径500m以内のゾンビを退散させることになる。
建物の入り口からはゾンビがわらわらと出てくる。もちろん、俺たちも範囲内に入っているので襲われることはない。アンデッド=ゾンビは魔法から逃げることを最優先とする行動をとることになるのだ。
しばらく待ってから中に突入する。
「逃げ遅れたゾンビがいるかもしれないから、俺から離れるなよ」
魔法の効果があるとはいえ、安全確認ができるまで単独行動はさけるべきだろう。
「じゃあ、ここの店に付き合ってもらえます」
小春は壁に設置してある案内板を指差す。そこは海外のアパレルメーカーの店舗だ。日本でもファストファッションの店として有名でもある。
すぐに終わるだろうと思っていた小春の服選びは、なかなか終わらない。すでに店に着いてから1時間くらいは経つだろう。
「おい、小春。いい加減にしろよ。俺たちの目的は食糧品の調達なんだが」
「待ってくださいよぉ。こういうお店にくるの久々なんですから」
「服なんてどれも同じだろ?」
「欲しい服がいっぱいありすぎて……」
小春は目移りしているかのように、あちらこちらを行ったりきたりしていた。。
俺は改めて辺りを確認する。
すでに1時間近くこのフロアにいてゾンビを見かけていない。建物にいるゾンビは全て退散させたと思って間違いないだろう。
そういや食糧品を調達するにしても、俺たち手ぶらだよな……。何か入れ物というか、大きめのバッグが必要か。それと他に必要な物もあったはず。
歩きでの移動がメインなら地図が必要だな。
「小春。俺も他の店を見てくる」
「先輩も新しい服ですか?」
「いや、地図とバックパックと……他にも何か便利な物があれば手に入れたいだけだ」
「あー、なるほど」
小春と別れて本屋へと行くと、ポケットサイズの地図帳を探す。茨城までの道のりだから、日本地図じゃなく関東限定でいいかもな。
「あった」
地図はわりと簡単に見つかったので、次はスポーツ用品店へと入る。そして俺が向かうのはアウトドアグッズが置いてある場所。
そこには登山用のバックパックが数十種類置いてある。機能や容量はそれぞれ違っていて甲乙付けがたい。
「これは目移りするなぁ……って、小春のこと文句言えないか」
熟考して大容量のバックパックを選ぶ。そして、小春用にと少し小さめのデイパックを選んでやる。彼女にあまり重い物を持たせるのもよくないだろう。
あとは調理用にガスコンロや固形燃料があれば……。
「……すでに持っていかれてる」
アイテムがあった棚は空だった。世界がこんな状況なんだ。最優先で持って行かれたのだろう。人間が考えることは一緒である。
ならば、火を使うには原始的方法しかない。異世界での俺は、それを日常的に行っていたのだ。
「だとしたら、アレが必要かもしれない」
売り場を回っていると、いい物を見つける。
それは折りたたみのナタだった。薪割り用と書いてある。
手に持って振ったさいの感触を確かめてみた。。
「うん、使い心地は異世界で使っていたバトルアックスよりも、ショートソードみたいな感じだな。木を切るだけじゃなくて、これでゾンビに対抗するってのもアリか」
見つけたアイテムを先ほどのバックパックに入れると、それを背負って小春のところに戻る。
「小春。服は決まったか?」
そこには、先ほどのまったく変わらない彼女がいた。鏡の前でいろいろな服に目移りしている楽しそうな小春だ。
「まだかよ……」
俺は大きくため息を吐く。
**
腐敗臭のキツい食品売り場で10キロの米と、売り場の奥の倉庫で見つけたラップや缶詰をいくつか入手してモールを出る。
2キロや5キロの小容量の米袋はなくなっていたのはたぶん、重い10キロを背負ってゾンビのいる中を歩くのはかなり危険だったからだろう。
小春も小春で、いろいろと調味料類を物色していた。
外に出ると、もう日暮れ間近。今日はかなり疲労したし、どこかで休めるところはないだろうか?
ふと目についた高層マンションの前で、立ち止まる。
「今日はここに泊まるか」
しばらく待ってから、悠々とマンション内に入っていく。
「先輩。いいんですか? そんなに連続で魔法を使って」
小春には『高等魔法は1日5回までしか使えない』って説明していたっけ。
「今日はここに一泊する予定だし、一晩寝ればかなり回復するよ」
「それならよいですけど」
「
「あー……まあ、ゾンビ以外にもいますよ」
「え?」
その話は聞いていない。
「人間ですよ。生き残った全ての人が善人ではないですから。そのせいで、わたしはあのシェルターを逃げ出してきたんだす」
小春の顔が真顔になる。そりゃそうだな、平和だった頃でも、人間の最大の敵は『人間』だったのだから。
「その話はあとで聞くよ。今は拠点の確保だな」
「どこかの部屋に入るんですか?」
「この分だとマンション内は無人だろ? 今日はいろいろあったから、ゆっくり休みたい」
「そうですね」
「ゾンビが入り口から入ってくるかもしれないし、できれば最上階で部屋が確保できればいいんだけど」
「あ、そうか。逃げるときに部屋の鍵をかけて出る人の方が多いですよね。わたしもシェルターに移動する時に家の鍵はかけてきましたし」
「できればドアは壊したくないからな」
俺はバックパックに入っていたバールを念のために取り出す。
「ドア壊しちゃったら、誰か入って来られますしね。シェルターに属さない半グレ集団もいるみたいですから」
平和な時代でも厄介な連中が、無法地帯で好き放題やるのは簡単に想像がつく。
俺たちは最上階へと階段を上っていった。といっても、超高層マンションではないので、8階程度の高さである。
「はぁ、はぁ……疲れましたよ。先輩は大丈夫なんですか?」
「俺は
そう。回復魔法である
無限にかけられるわけではないが、一般人も使える初級の基本魔法だ。一晩寝なくても、ある程度時間をおけば魔力も回復する。なので、出し惜しみをしないことにしていた。
というか、治癒魔法がこちらの世界でも同等の効果を持つのか試したかったのもある。
「ずるいですよぉ。わたしにも、かけてください」
ぜぇぜぇと息を切らせながら小春が付いてくる。
「しかたねぇな。
「あ、すごい。お風呂入ったみたいに、疲れがすーっと消えてく」
まあ、これで第三者の人間にも治癒魔法が使えることがわかったのだ。何かあってから『使えませんでした』とならなくて良かったのかもしれない。
「異世界で風呂に入れるのは貴族くらいだからな」
「でも魔法がそれだけ発達してるのなら、ここよりも快適じゃないですか?」
「その代わり、一つ間違えば命を落とす世界だぞ」
「あははは、それは厳しいですね」
8階の踊り場から、マンションの居住区へと続く扉を開ける。
そして、端の部屋から玄関の扉を開けていくことにする。住める部屋を探すためだ。
「平時なら不法侵入だけど、法治国家としてはもう滅亡したようなもんだ。俺たちが雨風を凌ぐ場所を借りるくらいなら誰も文句は言わないだろう」
「そうですね。持ち主はどこかのシェルターにいるか、すでにゾンビになっているかもしれません」
といっても、一つ目の部屋は鍵が掛かっていて開かなかった。二つ目の部屋もダメで、三つ目でようやく開いた。
「おじゃまします。どなたかいらっしゃいますか?」
いちおう声を描けてみる。しかし、反応はない。ゾンビのような魔物の気配もなかった。
いちおう靴を脱いで上がる。スリッパがあったのでそれに履き替えた。
「おじゃましまーす」
後ろから小春も上がってくる。
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