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「進化と一概に言っても、様々な形がありますが、もっともポピュラーなのは『成長進化』と『適応進化』の二つです。成長進化は魔物が他の魔物を倒すことで魂が成長し、それが肉体に反映されることです。適応進化は、本来なら生存しえない環境下で魂の成長が肉体に反映されると起こります。適応進化を遂げた場合は、より強い魔物になりやすくはありますが歪な進化を遂げることも多く、殆どの場合極端な弱点を抱えます。欠陥生物という評価もありますが、わたしはそうは思いません。必死に生きようとした結果ですから。もっと言えば、使い魔を複数使役する召喚魔術師の多くは、適応進化を目指して育成を行い、それぞれが補いを合えるような形をとることが最適解。ただし、成長進化にしろ、適応進化にしろ、進化をするのは魔物自身なので、本魔物の意志の尊重を軽んじれば、進化後に関係性が悪化することもあるのだとか。ですので、もちろんゾンさんの意志を尊重しますし、……」
街に戻るまでの道中で、昨晩アンジーと話しているときに出てきた、進化についてルルに聞いた。
その結果、いつも通り、いや、いつも以上の熱量での答えが返ってきた。
けっこう、人生? 使い魔生? を左右する重要なことらしいし、俺もよく考えておこう。
「俺はどういう進化をするんだろうな?」
ルルの話しが一段落した頃、そんなことをなんと無しに聞いた。
「もしかしたら、既に進化しているかもしれませんよ」
そんなことをルルが、こともなげに言う。
アンジーの方を見ても、俺と同じように不思議そうな顔していた。
「どういうことですか?」
「うーん……例えばですけど、武器を扱うゴブリンがいましたよね」
「いたな。少し、体格がいい奴ら」
昨日のゴブリン殲滅戦を思い出す。戦闘というよりは、流れ作業の掃討に近かったけど。
「はい。あれはゴブリンソルジャーと言って、刃物の扱いに長けたゴブリンです。そして、ゴブリンは武器を使えても、作ることはできません。精々が棍棒です」
「…………あぁ、そういうことですか」
アンジーはなにか分かったようだが、俺には分からない。こうして考えるとコイツも大概、頭の回転が早いよな。
「彼等にとっては、武器は略奪でしか手に入らない貴重品なんです。だから、体格が大きい者に持たせます。でもコレって逆に考えたら、武器を持てば、ゴブリンソルジャーになるわけです」
「ん? どういうこと?」
いまいち、要領を得ない。
体がデカくて強い。だから、ソイツを強くするために、武器を持たせる。それは分かるし、効率的だと思う。
でもそれはつまり、武器を持てばゴブリンソルジャーになるというわけで……ますます分からなくなってきた。
「例えばですけど、使い魔のゴブリンがいたとします。そして、武器を持たせたとしましょう。これでしばらく戦って適応させれば、ゴブリンソルジャーの完成です」
「あぁ、分かってきた」
謂わば、ゴブリンソルジャーの、ゴブリンじゃなくてゾンビで、ソルジャーじゃなくて体術の扱いに長けている版ってことか。
「その通りです。ゾンビモンクといったところでしょうか」
ゾンビモンクか……語呂が悪いな。
「それはどうやって見分けるんですか?」
「見分け方とかは無いです。野生のゴブリンソルジャーの話で言えば、武器を取り上げたら剣の扱いを知っている体の大きなゴブリンに戻ります」
「えぇ……」
「けっこう、適当なんだな」
もっとこう、「学術的には……」みたいなのって、カッチリ決まっている事が多いと思っていた。
「生き物に関してはどうしても、個体差がありますから。しょうがないですよ」
「それもそうか」
個体差の極致みたいなもんだしな、俺って。
そんな話しをしながら歩き、そろそろ街壁が見えそうなくらいで、一度、ルルが疲れていそうだったので抱えた。休憩をしても良かったのだが、街に戻ってから、ゆっくりしようといいことになった。
「っぷは。すみません」
「気にしないでください」
水筒から口を離したルルが、アンジーに謝る。
俺が抱えると少し目線が高くなるため、フード丿中を覗かれないように、やや俯きがちになっていた。
「暑かったら、フードも取った方がいいのでは?」
「その……外したく、ないです」
「……そうですか」
笑ってそう言うだけのアンジー。深くは追求しないでくれるようだ。
ルルも顔に傷があるという嘘をつかない辺り、良いか悪いかは別として、懐いている証拠なのかもしれない。
チラッとアンジーが俺から視線を寄越した。目を瞑って、沈黙の意志を示しておいた。
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