123

 冒険者ギルドでの対応は、主にアンジーが行ってくれた。相手は、いつものあの受付のお姉さん。すっかり、俺達の担当になったらしい。

 俺は、その様子を見ておきたいといったルルを、持ち上げていた。

 ……俺が抱えることに怒っていたあの日が、遠い昔のことのようだ。


「報酬は満額、それとは別に討伐証明部位の数から鑑みて、冒険者組合は殲滅と判断。よって追加報酬も出るわね」

「そちらは、全てルルちゃんに」

「え!? アンジーさん!?」

「私、本当に何もしてないので」


 まぁ、たしかに、ネズミ達に魔術を使ったくらいしかしていないな。


「貰えるんだったら、貰っといた方がいいなじゃないか?」

「でもぉ……」


 いまいち納得いかない様子のルルを見兼ねてか、受付のお姉さんが俺達に視線を向ける。

 

「ルルちゃん、お金にガメつく無いのはいいことだけどね、無欲なことを公言するのはオススメしないわよ。良いように使われてしまうわ」

「…………分かりました」


 お、ルルが折れた。


「じゃあこっちがルルちゃんの、こっちがアンジーね」


 カウンターの上に小さな袋が二つ置かれる。置いたときの音からして、俺たちの方が中身が重いようだ。


「はい、たしかに」

「ありがとうございます」


 二人が袋を懐にしまったのを見てから、間を置くことなくお姉さんが口を開く。


「組合長からのお達しよ」

「今か?」


 帰って来てすぐに次の依頼?

 俺だけならまだしも、ルルとアンジーはキツいだろう。

 

「出発は明日だから、安心して」


 それなら安心か。


「明日、ですか……」


 顔にこそ出ないものの、アンジーは訝しんでいるようだった。


「昨日、組合長が西方面の支部を中心に、文書を送ったんだけど、あまりにも依頼が殺到したのよ。どこも、人手不足ってことね」

「何の、実績も無いのにですか?」


 アンジーの言いたいことは分かる。

 あまりにも早すぎるのだ。

 俺達は今日、初めて組合長からの依頼をこなした訳で、実績と云うならコレが唯一。つまり、文書が送られた時点では実績は皆無だった。それなのに?


「うーん……これは謝ることでも無いと思うんだけど、組合長がルルちゃんのことをベタ誉めしててね」

「わたしですか?」


 ルルが自分を指差す。


「そう貴方。たぶんだけど、あのテンションで文書を書かれたんじゃない?」

「でもそれだけで、ねぇ、アンジーさん」

「いやヒューガさんからの手紙お墨付きとなると、あり得なくはないかと」

「え? あの爺さんの褒め言葉って、そんな力あんの?」


 別に厳格な感じも全然しなかったし、人を褒めることはよくありそうだけど。


「人事評価に厳しいことで有名なのよ、ウチの組合長は。おかげでこの組合には不正もないし、やばい冒険者も即刻切るから、治安はすこぶるいいけど」

「初日の奴らは?」

「あんなの序の口。問答ができるだけマシね」


 マジか……そんなこと言われると、他の組合に行きたくない。


「ねぇルルちゃん。ヒューガさんに何話したの? コッソリ教えてくれない?」

「特には何も。強いて言うなら、『北船南馬・冒険譚』についてお話ししたくらいでしょうか?」

「えぇぇ!? ルルちゃん、アレ読んだの!?」


 凄い驚きようだな。アンジーから言っていたように、やはりあまりに読まれていないらしい。

 お姉さんが「読んでる人、初めて見た」と呟いている辺り、よっぽどなのだろう。


「あのそれで、依頼の内容というのは?」

「あぁそうだったわね。ごめんなさい」


 話しが本筋に戻って、一枚の紙が出された。


「今日言ってもらった洞窟を横切って、まっすぐ進むと沼地に出るわ。その先にある村に冒険譚組合の出張所があるから、そこで依頼を受けて」

「依頼を受ける事が依頼ですか?」

「そう。一応、組合からの命令って形にして、地図とかの支給品を渡しやすくするためよ。そして、ここからが重要なことなんだけど」


 お姉さんが、沈痛な面持ちで言う。

 

「その依頼が終わったら、そのまま更に西に向かって別の街に向かってもらうわ」

「分かりました」


 苦しげに言い放たれた言葉とは裏腹に、ルルの返事は酷くあっさりとしたものだった。

 

「あれ? もっと、悲しんでいいのよ?」

「わたし旅をしたいんです。だからどの道、この街は離れる予定でした」

「そ、そう」


 この返しには、話しを聞いているだけのアンジーも苦笑いだった。


「だったらいいわ。アンジーも問題無いわね」

「えぇ、もちろん」

「じゃあ、こっちが支給される備品一覧よ。他に必要なものがあったら言いなさい。大抵は、揃えられるわ」


 別の紙が出されるが、何やら文字がズラッと書かれている。


「道のりは、約三日。村の方には余裕を持って五日ほどの到着と伝えているから」


 こういうことも、自分たちで調べるようにしないといけないんだろうな。持っていった食糧が、途中で足りなくなったら大変だ。

 食糧といえば、料理は結局しなかったなぁ。今度は野宿が続きそうだし、一回くらいは挑戦してみたい。

 そんなことを俺が考えている間にも、話し合いは進む。


「テントは自前のがあります」

「だとしても、予備として一張は持っていきなさい。自分でも予備は揃えておくことをオススメするわ」

「そうですね。私も一応、予備はありますけど、ルルちゃんも自分で持っておいた方がいいでしょう」

「応急処置用品に関しては、少なめにしてあるから。アンジーがいるんだから問題ないわね」


 たしか、光魔術での回復が得意とか言っていたっけ?


「ゾン君に関しては、必要ないですもんね」

「まぁな」

 

 ログと学園長と別れてから、今のところダメージらしいダメージを受けていなかったりする。強いて言うなら、火の番をしているときに、薪が爆ぜて火傷をするくらいだろうか? おのれ焚き火め。


「他には? 旅の服装に関しては、ルルちゃんは問題無いわね。使い魔くんは?」

「食料の中に食材が欲しい」

「野外料理用ね。日持ちするのを見繕っておくわ」

「アンジーは?」

「私はこれで大丈夫です」

「それじゃあ、これで対応するわ。出発は午前中、それまでに組合に来て支給品を受取に来て」

「承知しました」

「はい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る