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冒険者ギルドでの対応は、主にアンジーが行ってくれた。相手は、いつものあの受付のお姉さん。すっかり、俺達の担当になったらしい。
俺は、その様子を見ておきたいといったルルを、持ち上げていた。
……俺が抱えることに怒っていたあの日が、遠い昔のことのようだ。
「報酬は満額、それとは別に討伐証明部位の数から鑑みて、冒険者組合は殲滅と判断。よって追加報酬も出るわね」
「そちらは、全てルルちゃんに」
「え!? アンジーさん!?」
「私、本当に何もしてないので」
まぁ、たしかに、ネズミ達に魔術を使ったくらいしかしていないな。
「貰えるんだったら、貰っといた方がいいなじゃないか?」
「でもぉ……」
いまいち納得いかない様子のルルを見兼ねてか、受付のお姉さんが俺達に視線を向ける。
「ルルちゃん、お金にガメつく無いのはいいことだけどね、無欲なことを公言するのはオススメしないわよ。良いように使われてしまうわ」
「…………分かりました」
お、ルルが折れた。
「じゃあこっちがルルちゃんの、こっちがアンジーね」
カウンターの上に小さな袋が二つ置かれる。置いたときの音からして、俺たちの方が中身が重いようだ。
「はい、たしかに」
「ありがとうございます」
二人が袋を懐にしまったのを見てから、間を置くことなくお姉さんが口を開く。
「組合長からのお達しよ」
「今か?」
帰って来てすぐに次の依頼?
俺だけならまだしも、ルルとアンジーはキツいだろう。
「出発は明日だから、安心して」
それなら安心か。
「明日、ですか……」
顔にこそ出ないものの、アンジーは訝しんでいるようだった。
「昨日、組合長が西方面の支部を中心に、文書を送ったんだけど、あまりにも依頼が殺到したのよ。どこも、人手不足ってことね」
「何の、実績も無いのにですか?」
アンジーの言いたいことは分かる。
あまりにも早すぎるのだ。
俺達は今日、初めて組合長からの依頼をこなした訳で、実績と云うならコレが唯一。つまり、文書が送られた時点では実績は皆無だった。それなのに?
「うーん……これは謝ることでも無いと思うんだけど、組合長がルルちゃんのことをベタ誉めしててね」
「わたしですか?」
ルルが自分を指差す。
「そう貴方。たぶんだけど、あのテンションで文書を書かれたんじゃない?」
「でもそれだけで、ねぇ、アンジーさん」
「いやヒューガさんからの手紙お墨付きとなると、あり得なくはないかと」
「え? あの爺さんの褒め言葉って、そんな力あんの?」
別に厳格な感じも全然しなかったし、人を褒めることはよくありそうだけど。
「人事評価に厳しいことで有名なのよ、ウチの組合長は。おかげでこの組合には不正もないし、やばい冒険者も即刻切るから、治安はすこぶるいいけど」
「初日の奴らは?」
「あんなの序の口。問答ができるだけマシね」
マジか……そんなこと言われると、他の組合に行きたくない。
「ねぇルルちゃん。ヒューガさんに何話したの? コッソリ教えてくれない?」
「特には何も。強いて言うなら、『北船南馬・冒険譚』についてお話ししたくらいでしょうか?」
「えぇぇ!? ルルちゃん、アレ読んだの!?」
凄い驚きようだな。アンジーから言っていたように、やはりあまりに読まれていないらしい。
お姉さんが「読んでる人、初めて見た」と呟いている辺り、よっぽどなのだろう。
「あのそれで、依頼の内容というのは?」
「あぁそうだったわね。ごめんなさい」
話しが本筋に戻って、一枚の紙が出された。
「今日言ってもらった洞窟を横切って、まっすぐ進むと沼地に出るわ。その先にある村に冒険譚組合の出張所があるから、そこで依頼を受けて」
「依頼を受ける事が依頼ですか?」
「そう。一応、組合からの命令って形にして、地図とかの支給品を渡しやすくするためよ。そして、ここからが重要なことなんだけど」
お姉さんが、沈痛な面持ちで言う。
「その依頼が終わったら、そのまま更に西に向かって別の街に向かってもらうわ」
「分かりました」
苦しげに言い放たれた言葉とは裏腹に、ルルの返事は酷くあっさりとしたものだった。
「あれ? もっと、悲しんでいいのよ?」
「わたし旅をしたいんです。だからどの道、この街は離れる予定でした」
「そ、そう」
この返しには、話しを聞いているだけのアンジーも苦笑いだった。
「だったらいいわ。アンジーも問題無いわね」
「えぇ、もちろん」
「じゃあ、こっちが支給される備品一覧よ。他に必要なものがあったら言いなさい。大抵は、揃えられるわ」
別の紙が出されるが、何やら文字がズラッと書かれている。
「道のりは、約三日。村の方には余裕を持って五日ほどの到着と伝えているから」
こういうことも、自分たちで調べるようにしないといけないんだろうな。持っていった食糧が、途中で足りなくなったら大変だ。
食糧といえば、料理は結局しなかったなぁ。今度は野宿が続きそうだし、一回くらいは挑戦してみたい。
そんなことを俺が考えている間にも、話し合いは進む。
「テントは自前のがあります」
「だとしても、予備として一張は持っていきなさい。自分でも予備は揃えておくことをオススメするわ」
「そうですね。私も一応、予備はありますけど、ルルちゃんも自分で持っておいた方がいいでしょう」
「応急処置用品に関しては、少なめにしてあるから。アンジーがいるんだから問題ないわね」
たしか、光魔術での回復が得意とか言っていたっけ?
「ゾン君に関しては、必要ないですもんね」
「まぁな」
ログと学園長と別れてから、今のところダメージらしいダメージを受けていなかったりする。強いて言うなら、火の番をしているときに、薪が爆ぜて火傷をするくらいだろうか? おのれ焚き火め。
「他には? 旅の服装に関しては、ルルちゃんは問題無いわね。使い魔くんは?」
「食料の中に食材が欲しい」
「野外料理用ね。日持ちするのを見繕っておくわ」
「アンジーは?」
「私はこれで大丈夫です」
「それじゃあ、これで対応するわ。出発は午前中、それまでに組合に来て支給品を受取に来て」
「承知しました」
「はい」
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