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「ないですね」

 

 うんざりといった様子でルルが言う。

 途中から、俺も教えて貰って探しているが、成果はない。ちなみに、探している植物というのは木の実らしく、桃色の硬い殻で包まれたものだそうだ。

 

(それって採ったらどうするんだ? 持って帰るのか?)

 

「好きにしていいそうです。捨てるのはもったいないので、食べようかと」

 

(え? でも食べたら、採ったって証明はどうするんだよ?)

 

「あぁ、それはご安心を。コレが証明してくれます」

 

 そういうと、ルルは課題の書かれた小冊子を取り出す。

 

「コレには、課題の進捗が自動で記録されていくようになっているんです。例えば今だと、木の実を採取したら、記録されます」

 

(へぇ~、便利だなぁ)

 

「冒険者の持つ冒険者証にも、同じ仕組みが施されているそうです」

 

 俺の知らないことがたくさんだな。

 

 探している間、他にもいろいろなことを教えてくれた。


 

 

「魔術の適性というのは、持っている魔力の属性の量と割合で決まります」

 

(量と、割合?)

 

「はい。例えばですが、召喚魔術は闇属性と土属性の魔力が同じくらいの割合で、少しでも持っていれば使えます。ですが、闇属性や土属性の魔力が一定量以上ないと、それぞれの属性を魔術として使うことはできません」

 

(ふむふむ)

 

「他にも、土と水が半分ずつだと木魔術が使えます。風と火で爆裂魔術が使えるようになります」

 

 たくさん魔力の属性を持っているほどいいってことか。全部持っていれば、全部使える。

 

「ただし、持っている魔力の属性が多ければいいというわけではありません」

 

 あら、違った。

 

「人が持てる魔力の量には、どんなに多くとも限界があります。実際にはありえませんが、全属性の魔力の適性を持っていた場合、何の魔術も使えないなんてこともありえるようです」


 

 

「この学園は、六年制で、最初の二年間でいろいろなことを広く浅く学び、次の二年間でより専門的に学びます」

 

(最後の二年間は?)

 

「専門的に学んだことをどう使うのかを学びます」

 

 どう、使うか?


「戦闘に使うのか、物づくりに使うのか。他にも流通、商売、探求などですかね」

 

(どうして、そこまで決める必要があるんだ。別に、学園を出てから決めたって)

 

 あんまり先のことまで決めさせるのは、酷じゃないのか?

 そんなことを思っていると、ルルが真面目な顔になる。

 

「これは学園長の教えなのですが、『力には在り方が必要になる。それがない者は、力に飲まれてしまう』。この教えがあるから、与えた力には、責任を持って使い方まで用意するのが、学園としての方針らしいです」

 

(難しいことを教えるんだな)

 

 よく分からなかったので濁した。ルルにはそれがバレていたようで、「そうですね」と笑われてしまった。


 

 話しをしていると、やっぱりルルには教えたがりの気があるのだなと思う。まぁ、今までは楽しく話せる相手なんていなかっただろうし、喜んでくれるならそれでいい。

 もっと言えば、俺は知らないことを知れて、尚且つ喜んだルルが見れることも加味すれば、一石三鳥の丸儲けとも言える。

 

「それでですね、ドラゴンが魔石を集める習性があるというのは間違いじゃないですけど、人間が集めるような大きさの魔石ではなく、ダンジョンコアのような一般活用が難しいレベルの大きさじゃないと、どれだけ集めたって見向きもしないらしいです。だから人間が魔石を貯蔵したところで、そこがドラゴンに襲われるというのは、教会が寄付に回すお金を増やしてもらうための迷信で、」

 

(ちょっと待てルル)

 

「はい?」

 

 だが俺は、ドラゴンの生態について語っていたルルの話しを中断せざる終えないものを目撃してしまう。

 

(あった……)

 

 森の屋。木々の葉と枝の隙間から、チラリと見えるそれは桃色をしていた。

 

「え!? どこですか!?」

 

(ほら、あれ!)


「…………どれですか?」

 

(あれだって)

 

 高さが足りないのだろうか?

 脇に手を入れて持ち上げる。今日は周りに人が、いないこともあって、抵抗することはなかった。

 

「遠すぎて見えないです」

 

(そ、そっか)

 

 一度、ルルを地面に降ろしてから、木の実が見えた方に歩いていく。

 

「あった!! 本当に、ありましたよ!」

 

 ピョンピョン飛び跳ねながら、全身で喜びを表現するルル。うんうん、見つけられてよかった。

 

「ゾンさんは、目がいいんですね」

 

 ひとしきりはしゃいだあと、そんなことを言われた。そうなのだろうか?

 

(そうなのか?)

 

「はい、あんなに遠くのもの、わたしでは見つけられませんよ」

 

(そりゃあ、)

 

 ルルじゃ身長が足りないからしょうがない、と言いかけて踏みとどまる。

 

(ルルが見つけたいって言ったから、頑張った)

 

「フフフ、ありがとうございます」

 

 よしよし、セーフ。

 再びルルを持ち上げて、木の実を採らせる。

 

(届くか?)

 

「もう少し左です……はい! 採れました!」

 

(やったな!)

 

 ルルを抱えたまま、くるくると回る。いやぁー、良かった良かった。

 ん?

 ふと、誰かが近づいてくる気配があることに、気が付いた。回ったおかげで、気づけたほどに薄い気配だ。

 隠れているのか? さっきの三人だろうか?

 

(誰かいる)

 

「え⁉ ど、どこに」

 

(あっちだ。ただ、隠れているみたいだ)

 

 ルルを後ろに下がらせてジリジリと、隠れているだろうと思う草むらに近づく。

 

「ぐるるるるるぅぅぅ……」

 

 っ⁉ 唸り声⁉

 魔物か。背後のルルが一瞬、息を呑むのが聞こえた。

 戦闘になる。ルルから魔力をもらい、拳を構えて腕闘硬化を行った。

 昨日の今日だ。なるべく、殺したりはせず、追い払えるならそれで……

 

「だ、だれか……」

 

 あと一歩で俺の間合いに入る距離まで近づいたところで、草むらから弱々しい声が聞こえた。

 その声に、自分の顔がしかめっ面になったのが分かった。

 豚ガキだ。

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