21

 合宿一日目。

 

 俺とルルは学園内の森の中にいた。

 簡単な説明があったあとすぐに、全員が森の各所に転移させられた。魔術陣に見覚えがあったので転移させられるのは分かっていたが、行き先が分からないのは恐かった。

 

「えぇと、今日は目的の植物の採取から行いましょう」

 

 支給された荷物の中から引っ張り出した、小冊子を読みながらルルが言う。

 

(なぁ、この合宿って大丈夫なのか?)

 

「大丈夫? ですか?」

 

 質問の意味が分からないのか、ルルが首を傾げる。落ち込んでいた気分も良くなったようで、今はどこか楽しげだ。

 

「安全のことなら、ナユタ先生が魔法で見ているので問題ないですよ」

 

(魔法? 魔術じゃなくて?)

 

 歩きながら、ルルが魔法について教えてくれた。

 魔法とは、魔術のようなことを魔力を使わずにできる能力のことで、『スキル』とも呼ばれるらしい。

 

(ルル、それ覚えよう!)

 

 魔力が少なくても、使えるだって!?

 ルルのためにあるようなものじゃないか!

 

「あはは……それができたら一番なんですけどね。魔法、もといスキルは、生まれつき有しているか、ダンジョンを攻略したときに稀に入手できるかの、二択でしかないんです」

 

 あー、そういうこと。

 ままならないなぁ。

 

(じゃあ、そのダンジョンとやらに行けるようになるまで、スキルはお預けだな)

 

「それまでは、これで頑張ります!」

 

 懐から取り出した術符をぴらぴらとする。

 うーむ、心もとない。

 効果やできることについてはある程度聞いてはいる。だが、直接見たわけではないので未知数だ。

 何はともあれ、元気になったようでよかったな、と……。

 

(ルル)

 

「はい」

 

 気付いたらしい。

 木の影から、話し声が聞こえてくる。

 数は2、いや3人いる。あちらはまだ、こちらに気づいていないらしい。

 

 漏れ聞こえてくる内容からして、協力しないかという提案をしている二人組男子と、それを拒んでいる一人の女子といった構図らしい。チラリと覗き見れば、たしかに見覚えのある顔だった。というか、拒んでいる一人の足元には、よく魔物厩舎で遊んでやっている小狼がいる。

 

「ディールくんとレオルドくん、ムンナさんですね」

 

 ディールと呼ばれたそばかすのある男子の傍らには、蠢く粘液、スライムがいる。そして少しガタイの良いレオルド少年は、石でできた甲羅を背負った亀の魔物が足元に控えていた。

 

 二匹とも目当ての植物を探したりといった、索敵が得意な魔物には到底思えない。反対に、小狼はそういうのは得意そうだ。

 植物採取以外の課題は知らないが、現状、メリットが片方にしかないので、交渉はかなり難航している。

 

(ルル、どうする?)

 

 人がいる場所で探しても、取り合いになったら面倒だから別の場所に行くか?

 

「そうですね。多分ですけど、これから戦闘になります。そして、ディールくんとレオルドくんが勝つと思うので、その後をつけましょう」

 

 ん?

 

「課題の植物を採取したところで、奇襲をかけて奪います」

 

(る、ルルさん……)

 

「どうされました?」

 

 いつも通り、小首を傾げるルル。

 え、えげつない。

 あれ? ルルってこんな性格だったっけ?

 

「わたし、頑張るって決めたんです。早く遠くに行きたので」

 

 うーん…まぁ、ルルが頑張るっていうならそれでいっか。無理だけはさせないようにするけど。

 

「始まりますよ」

 

 3人の方に視線を戻せば、ちょうど交渉が決裂したところだった。

 亀の魔物が土の塊を打ち出し、スライムが近づこうとする小狼を牽制。そして、少年二人は執拗に少女を魔術で狙う。主人が攻撃にさらされて気が散って、なかなか攻勢に転じることができない、小狼は実に歯がゆそうだ。

 

「こーさん、こーさん」

 

 緩い声で、少女が隠れていた木の影から、両手を上げて出てくる。

 

「一緒、行ってあげる」

 

「助かる」

 

「ふんっ」

 

 何故か、降参したはずの少女が、お願いを飲んだかのような形で、二人組と一人は、三人組になった。

 

(思ったよりも、消耗しなかったな)

 

「そうですね。ムンナさんの判断の速さは、ナユタ先生も褒めてました」

 

 勝てないと思えば、すぐに退く。

 それができるのか、あの年で。

 三人組は何やら話し合いをしたのち、動き出した。

 

「追いかけるの、やっぱりやめにしてもいいですか?」

 

(あんまり弱ってないからか?)

 

「はい。三対一では分が悪すぎます」

 

(ルルがそういうなら)

 

 俺としては、相手の数が何であろうと負ける気は無い。でも、ルルが嫌というなら止めはしない。

 

「ちょっと時間はかかりますけど、ありそうなところをしらみつぶしにさがしましょう」

 

(おう!)

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