20 〜side ルル〜

「冒険者じゃなくてもよかったんです、どこか遠いところに行ければ、それで」

 

 自分の口から転がりでた言葉には、驚きよりも納得のほうが強かったです。

 

 ずっと、諦めてきました。

 

 お母さんと、お父さんに見てもらいたくて、魔術の勉強を頑張りました。でも、わたしの魔力は魔術を使いこなすには不十分でした。

 黒髪でも馬鹿にされないように、礼儀作法を必死で覚えました。でも、社交界には一度も連れて行ってもらえませんでした。

 弟にお姉ちゃんと呼んでもらえるように、魔術以外の勉強も頑張りました。でも、弟が生まれるより前に、わたしはこの学園に入ることになりました。

 

 もう、無理。

 もう、疲れた。

 

 お風呂にも入ったのに、ずっと手のひらが血で濡れているような気がします。自分の体温なのか、わたしが殺した魔物の血の温度なのかわかりません。どっちもな気がします。

 諦める理由が欲しかった訳じゃないんです。でも、少しホッとしている自分がいることにも、気がついています。

 

 できないと分かれば、諦められる。

 もう頑張る理由が無くなる。

 わたしに魔物は殺せない。だから、冒険者にはなれない。

 

「やっぱり、無理なんですよ」

 

 自分に言い聞かせるように口にする。

 何度もしてきた。

 もう慣れた。

 

(無理じゃない)

 

 でも、そこに言葉が返ってきたのは、初めてでした。

 ハッとして顔をあげると、そこにはゾンさんがいました。

 怖い顔というか、もしかして、怒ってる?

 

(俺がいるのに、無理だとか言わないでくれ)

 

 そうは言っても、ゾンさんができることはゾンさんができることでしかない。わたしにできることは、以前増えていない。

 

(ルルでできないんだったら、俺がやるから。諦めないで、俺を信じて欲しい)

 

 信じる? あぁ、そうです。今のわたしには、ゾンさんがいました。

 わたしができないなら、ゾンさんにやってもらって、ゾンさんができないことをわたしがやればいいんです。

 

「でも、わたし、冒険者には」

 

 でも、それって冒険者として正しい姿なのでしょうか?

 よく物語になるような冒険者はみなさん、こんな他力本願な考え方ではなかった気がします。

 

(冒険がしたくて、遠くに行ってみてたくて、冒険者になるのは変なことなのか?)

 

 変ではないです。

 冒険者は、冒険する職業です。

 遠くに行きたい。ここではない、どこか遠くに。

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