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(どうする?)

 

 見なかったふりをするか?

 

「け、怪我をしているかもしれません」

 

 ちっ。ルルがそういうなら。

 草むらを乱暴にかき分けたら、豚ガキの服が見えたのでそれを掴んで引っ張る。

 

「ぶぅぇ~」

 

 無様な声だ。イラつく。

 引きずりだした豚ガキは、明らかに元気がない様子だった。

 

「ギークくん!? 大丈夫⁉」

 

「る、ルルか……たすけ、て」

 

「どこか、怪我を」

 

 ルルが言い切る前に、切り裂くような腹の音が響いた。

 

「えぇと……」

 

「なんでも、いい。食い物を、」

 

「支給されたリュックに携帯食はいってたよ?」

 

「食いき、った……」

 

 ハハハ、ざまぁ。

 俺は内心、愉快でたまらなかった。あれだけ、ルルに偉そうな態度をとっていた豚ガキが、這いつくばってルルに助けを求めている。惨めなやつだなぁ。

 しかし、そんなことを考えていたからか、ルルから目を離してしまった。

 

「はい、コレ食べて」

 

 ごっそりと、自分の背負っているリュックから携帯食を取り出すルル。

 え? ちょ、ルルさん!?

 

(何、やってんだよ!)

 

「え? だって、困ってるようだったので」

 

 きょとん、と小首を傾げられた。

 

(なんで、豚ガキなんかにルルの食糧をやるんだって聞いてる!)

 

「困ってるようですし、それに、」

 

 ルルがしゃがみこんで、豚ガキに諭すように言った。

 

「もう、わたしに掃除押し付けない?」

 

「押し付けない」

 

 豚ガキが弱々しい声で答える。

 

「急に押したりもしない?」

 

「しない。だから、早く、それを……」

 

「他の人に言って、わたしにやらせたりもしない?」

 

「……しない」

 

 おい。何だよ、今の間は。

 絶対、ルルが言わなければ、取り巻きに指示して押し付けていたぞ。

 しかし、ルルはそれで満足したようで、食糧とさっき採った木の実も、地面に置く。

 

「ゆっくり食べてね。わたしたちはもう行くから」

 

「お、おう」

 

 ルルが振り返って歩き出したので、俺もそのあとを追う。すぐに背後から貪り食うような、音が聞こえだしたが、無視した。

 

(あれで、よかったのか?)

 

 少し距離ができてから、ルルに聞く。

 細やかな復讐というのであれば、あれでよかったかもだが、だとしてもわざわざ自分の食糧をわけてもやる必要は無かったように思える。

 

「どうせ、わたし一人では食べ切れない量でしたので。それに、木の実もホラ」

 

 小冊子を差し出される。だから、読めないって。

 

「ちゃんとカウントされています」

 

 満足そうなルル。

 うーん……ルルがそれでいいなら、いいか。


「それに……もしかしたら……」


(ん? なんて?)

 

「いえ。それより、野営の準備をしましょう」

 

(早くないか?)

 

 空を見上げれば、木々の間から覗く空はまだ十分な明るさを保っている。

 

「野営はトラブルに備えて早めに準備をして置くのが定石、らしいです!」

 

 あぁ、授業で習ったのね。


 

 場所を見つけて、テントを張って、薪を集めて、火を起こして、と存外やることが多かった。終わる頃には、日が暮れ始めていた。

 

(早めに始めて、本当に良かったんだな)

 

「そうですね」

 

 火起こしに使った魔道具をリュックにしまいながら、ルルが言う。

 そして今度は、携帯食を取り出す。あの豚ガキにやったやつの余りだ。それと、水筒。

 

(まだ、入っているの? ソレ)

 

 今日一日、歩きながらちょくちょく飲んでいたはずだ。大きさ的に、そんなにたくさん入っているようには思えないんだが。

 

「これも、魔道具なんですよ。魔力を流すと、水が出てきます」

 

(はぇ~、魔道具って便利なんだな)

 

「そうですね。使う魔力も、中に内蔵されている魔石を反応させるだけでいいので、極めて微量で済みます。術符も魔道具の一つです」

 

 袖から、術符を取り出して構えるルル。そんなところにも忍ばせていたのか。

 今日は、幸か不幸か使う機会がなかったので、どんなものかを見ることができなかった。

 

(なぁ、ルル、一回くらい見せてくれないか? 実際に、見ておきたいんだ)

 

「いいですよ。……『術符:土柱』」

 

 魔力を込めて、発動に必要な言葉を唱えうると、少し離れたところに術符を投げる。

 術符はまっすぐとんでいくと、地面に貼りついた。

 

「来ますよ」

 

 その言葉通り、少し遅れて術符が淡く黄色に輝く。そして、術符から円柱の柱が飛び出した。

 おぉ! なんか生えた!

 

「こんな感じで、術式構築の時間が必要なかったり、魔力消費が皆無に等しいというメリットもありますが、設置から発動までわずかに間が空く、事前に準備したものしか使えないなどのデメリットもあります」

 

(いやいや、十分すぎる。これなら、盾にもできるし、うまく使えば足場にだって)

 

 土でできた柱をコンコンと叩きながら見ていると、突如、ボロボロと崩れてしまった。

 

「術符を作る段階で、発動する術の規模、発動時間、射程などが決まってしまうので対応力に難有り、ってところです」

 

(そこの対策も、考えているんだろ?)


 ルルが自信ありげな笑みを浮かべて、何枚もの術符を取りだした。

 

「今の術符だけでも、大きさと発動時間を変えたものを複数用意しています」

 

 なるほど。様々な状況に対応できるように、準備していると。

 いいんじゃないか。

 

「最適な割合は、これから探っていこうかと」

 

(よし、ガンガン使っていこう!)

 

「はい!」

 

 ルルなりに、考えていろいろと試そうとしているようだ。

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