第14話
スパイを疑ったセレネだが、トザンから語られた内容は、もっと奇想天外で運命的だった。
セレネは驚きのあまり目を見開き、口を開けて自失してしまった。
「先生、やっぱ頭がいいですねー! 私はぜんぜん思いつかなかったッス!」
サチが感心して叫んだので、セレネがハッとして気を取り直した。
「そんな……。私が死ななかったせいで……」
申し訳なさで声が震える。
とたんにトザンとサチが、同じしぐさで手を横に振る。
「むしろ生きててありがとうございます、ですよ! 嫌ですよ、そんなろくでもない国の聖女になるなんて! また最悪の人生じゃないすか!」
「それに、もしかしたら死体は二つ必要だったかもしれないんで。たまたま条件が合致したのがこの二人だったのかもしれないですが、それにしたって国中で一人も死んでないというのもあり得ないし、二つ揃っていないとダメだった可能性が高いです」
他にも条件があるのかもしれないが、召喚陣から喚び出され、バラバラにならずにこの死体に取り憑いたのはその可能性が非常に高いだろう、と、トザンは語った。
サチが腕を組んでしみじみと言った。
「寿命だったんですかねぇ。仲良しの爺さん婆さんが、ピクニックを気取って、なんかポックリ逝っちゃって、それを見たもう一人もたまげてポックリ逝っちゃって、それを私と先生が若い身体だって勘違いして取り憑いちゃった、っつー感じなんスかね」
「言い方! あと、なんか俺のシックスセンスが怒ってるみたいだからその推論は却下で!」
トザンが即ツッコんだ。
トザンは、自分の推論は間違っていないと思っているが、それにしても……サチにしろトザンにしろ、身体の持ち主の気配がするのだ。サチとトザンが憑依したことで生き返ったのかもしれない。いや、身体的には生き返っているのだが。
セレネがサチを残念な子を見るような目で見たのに、トザンは気がついた。
トザンは、見た目が見た目だもんなぁ、元の見た目でも残念な子には違いないと思うけど、と、考えていたらセレネがトザンを見て、頭を下げた。
「そう言っていただけると助かります、聖女様」
サチとトザンが目をパチクリさせる。
「トザン様は、聖女として召喚されましたから」
と、セレネが続けると、トザンが失敗した、というように頭をかいた。
確かに、今の見た目ではトザンが聖女として召喚され、サチが巻き込まれたと思われてもしかたがない。
「いや、違うんです。聖女として召喚されたのは、こっち、サチの方なんです」
「は?」
セレネが、らしくない声をあげた。
まぁ、確かに美しいけどどう見ても男にしか見えないサチだからなぁ、とトザンは苦笑する。
セレネがサチを見ると、サチは満面の笑みでピースサインをした。
「サチでーす! 元の身体は十五歳の女子でした! 今はジジイになってまーす!」
セレネは絶句し、口を開けてサチを凝視する。
トザンは笑いをこらえながら咳払いすると、
「……トザンです。元の身体は二十八歳成人男性で、教鞭を執っていました。彼女は教え子です」
セレネは驚きのあまりか、口を開けっ放しのまま放心していた。
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