第13話

 サチとトザンはオロオロして、泣き出したセレネを囲んだ。

 二人には、泣き出した理由が皆目わからない。

「スープ、まずかったですか?」

「熱かったのかもしれない。胃に水しか入ってなかったから、しみたのか」

「えええ。おおおお水飲んでください!」

 わぁわぁ騒いでいる間中、セレネはずっと首を横に振っていた。


 しばらくして泣き止んだセレネは、二人をなだめるように泣いた理由として身の上話をした。

「……というわけで、今まで親切にされたことなど一度もなく、温かいスープを飲んだのはいつぶりか……。すみません、取り乱してしまって。お二人の親切が本当にうれしくて……お二人に出会えたのは、私にとって神のもたらした奇跡でしかありません」

 と言ってセレネはまた泣いた。


 トザンとサチはむっつりと黙った。

 サチは、「私の境遇よりひどいッス!」と憤り、トザンはサチの境遇に似ていると感じたのだ。

 トザンはさらに思うことがあり、セレネに尋ねた。

「……その、聖女召喚というのは、死体でなければならないんですね?」

 セレネは思案しながらもうなずく。

「恐らくは……。もしも生きている身体でもいいのなら私を殺す必要はありませんでしたし、そして私が生きていたことで失敗することもありませんでしたから」

 それを聞いたトザンは考え込んだ。


 この世に未練がないように、孤独に仕向け、そして、二人が喚ばれたのとほぼ同時期に召喚の儀式があった。

 ……サチは、聖女召喚でセレネの身体に封じ込められるハズだったのでは?

 サチの周りで連続して起きていた不幸は、その国の連中が召喚するために呪いをかけたのでは?

 現にサチは、前の身体に未練を残していない。この身体の持ち主に返し元の身体に戻りたいなどと、みじんも考えていないのだ。


 そして、もう一つ重要な言葉があった。

 召喚された魂は、死体にしか封じ込められない。

 トザンとサチは、喚ばれてたまたま近くにあった死んだばかりの死体に取り憑いたということだ。

 つまり、この身体の持ち主は、二人とも亡くなっている。


 トザンは思考をまとめ、セレネに頭を下げた。

「セレネさん、重要な情報をありがとうございます」


 泣いていたセレネが驚いて目をパチクリさせた。

 身の上話をして、情報をありがとうございますとお礼を言われたのだから当然だ。

 そういえば……聖女召喚は秘事だったのかもしれないと思い出した。


 だが。

 それがどうした。


 セレネは教会から悲惨な目にしか遭わせられていない。そんな連中に義理立てしてもしかたがない。

 セレネはそう開き直った。

「……何か参考になったのでしょうか?」

 一応セレネは尋ねたが、返してくれなくてもいいと思っていた。

 彼女たちは隣国のスパイだとしても、まったく構わないから。

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