第11話
遠ざかる足音を聞きながら、これで自由だ、と安堵した。
現在の窮地を脱しなければならないが、あの教会に閉じ込められて監視されていた状況に比べればぜんぜんマシだ。
足音が聞こえなくなってから行動しよう――そう考えてじっとしていたら、
「うあぁっ!」
「くるなっ!」
先ほどの男たちの悲鳴が聞こえた。
「あっちに死体があるから、行け!」
「俺たちじゃない! あっちを食えって!」
叫びながらこちらに引き返してきたかのように足音が近づいてくる。
セレネは息をひそめて成り行きを伺った。
男たちが近づいてきて――
ドンッ! という音と、何かにぶつかり、折れ潰れる音。
「ひぃ……」
一人やられたようで、もうひとりは座り込んだようだ。動く気配がない。
だが、魔物がやられたほうに近寄ろうとしたので、慌てて逃げようとしたようだ。
途端に魔物が走り、再びドンッ! という音と、ぶつかり折れ潰れる音。
魔物は、しばらくウロウロしていたが、やがて去っていった。
……どうやら、動く者に向かっていく習性のある魔物だったみたい。
気が気でないまましばらく固まっていたセレネは、そろそろと手を動かした。
とにかく。この死体袋から抜け出さなくては。
今の魔物はそういう習性だったのかもしれないけれど、他の魔物もそうだとは限らない。
必死に暴れ回り、ようやく結び目から布が取れ、セレネは這うように袋から出た。
辺りを見回した。
セレネが捨てられた場所は、森のようだった。
「森となると……」
必死で地理を思い出す。
「……死体の処理に最適なのは、魔の森しかない」
確か、おとぎ話の舞台にもなった土地。
凶悪な魔物が出没するので、人はほとんど訪れないのだ。
その凶悪な魔物が町にまで出ないのは、聖女のおかげだと言うが……。
「……召喚に失敗したとなると、どうするのかしら?」
また生贄を使うのだろうか。
だがもう、セレネにはどうしようもない話だった。
セレネは、チラ、と、恐らく自分をここに捨てたであろう二人の死体に目を向けるが、すぐに背を向けた。
「あちらに死体があるということは、遠ざかる方向は反対側ですね。なんとか無事に隣国までたどりついてみせましょう」
セレネは気合いを入れ、歩き出した。
そして、一昼夜、ほとんど飲まず食わずで歩いた。
魔物の気配がしたら、聖魔術で祈り、結界を張る。
それだけで魔物は遠ざかった。あえてそれを破ってまで、襲う手間をかけようとは思わないのだろう。
時折、食べられそうな木の実を見つけては食べる。
セレネは、国境を越えるよりまず水辺を見つけなくてはと思った。
教会は、ほとんど食べるものが出なかったが水はあった。微熱と目眩がするのは脱水症状かもしれない。水のほうが生きるためには重要だとわかった。
そうして、水を求めて朦朧と歩いていたとき。
なぜか匂いがした。いい匂い。
なんだろうと引き寄せられるまま歩き……、そこで食事真っ最中の二人連れに出くわした。
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