第10話

 セレネは、聖女だった。

 幼少期、魔力判定で聖属性を持つことがわかり、教会に放り込まれた。そして聖女候補にされた。

 そして聖女候補筆頭にさせられた。他にも候補がいたが、セレネが一番魔力が多かったためだ。

 それは、セレネの不幸の始まりだった。


 毎日の勤めと称し、祈りや魔力上げの訓練等、厳しい修行をさせられた。

 修行は他の聖女候補もさせられていたのだが、特にセレネはひどかった。『筆頭だから』という理由で倍ほどやらされている。


 そして……セレネは平民でしかも孤児。

 他の聖女候補も平民が多かったのだが孤児はセレネだけだった。

 それゆえか、もともと要領が悪かったせいか、交代でやらねばならない汚れ仕事がセレネに押しつけられた。


 聖女になれば、栄華が与えられる。王族との婚姻も夢ではない。

 聖女候補筆頭のセレネは他の候補からただでさえ目の敵にされるのに、さらに出自も加わって、他の聖女候補から嫌がらせを受けた。

 さんざん虐げられ、エスカレートしてくる。

 修行と仕事で寝る暇もほとんどないほど忙しく、さらには食べ物はひどく粗末だったり腐っていたり毒が入っていたりという嫌がらせが果てしなく続き――だがそれが逆にセレネの聖属性の魔力を上げることになっていった。

 ほとんど聖魔術で自身を生かしていたセレネは、他の聖女候補と比較にならないほど魔力を伸ばし聖魔術の力も強くなり、とうとう聖女に選ばれた。


 ……それは、もっと不幸になることだった。


 聖女とは――召喚の儀式の生贄として選ばれる人間を指したのだ。

 直前にそれを知らされたセレネは逃げようとしたが、しょせん無駄な抵抗で、屈強な騎士たちに取り押さえられ、笑いながらそれを告げた大神官長に、無理やり毒を飲まされた。


 神よ、答えてください。私の人生はいったいなんだったのですか――それが毒を飲まされ意識を手放す前に思ったセレネの思いだった。


          *


 ――セレネは、身体に伝わる衝撃で目を覚ました。

 だが真っ暗闇だ。何が起きたのかわからない。

 自分の身に起きたことを思い出す前に、布越しのようにくぐもった男の声がそばで聞こえてきた。


「ここに捨てときゃ魔物がエサにしてくれるだろ」

「儀式に失敗したのは、平民の孤児を使ったからだってな」

「次からは、貴族のみにするらしいが、人身御供を差し出すのは下位貴族とは言え無料じゃ難しいだろうな」

「その点、平民、特に孤児なら金がかからなかったんだけどなぁ」

「どんな目に遭わせようが足もつかないしな」

 そう言って下卑た笑い声をあげていた。


 その会話を聞いたセレネは意識を取り戻す前に遭ったことを思い出し、さらに、儀式が失敗したことを理解した。

 儀式が失敗したのはセレネが死んでなかったからだとも悟った。


 聖属性の魔力を持つ器に召喚した魂を封じ込めるとその威力は増し、国を支える聖女となる――それが大神官長の語った内容だ。

 この世に未練がないように、清貧で人間関係も最悪にしむけたのは、教会の仕業だったのだ。

 聖女になれば、栄華を誇れる……そんな噂を撒き、聖女候補筆頭に嫉妬を集めて嫌がらせをさせ、死んだ方がマシ、という暮らしをさせ、召喚の際には未練なく死んでもらうという筋書きだ。

 そのせいで、セレネは教会に引き取られてから地獄のような毎日を送らされていたのだった。

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