第6話
翌朝。
気持ちを切り換えたのか夜になって情緒不安定になったのかはわからないが、サチは元気になっていた。
内心ホッとしたトザンに向かって、
「思いついた詠唱があって、試してみたいんスよ」
いきなりそんなことを言い出した。
イキイキした顔のサチを見て、切り替え早すぎじゃなかろうかと思ったが、明るいサチの方がいいな、と思い直した。
「いいけど……。大魔術とかじゃないよな?」
「違いますー」
サチは唇をとがらせて否定すると、キリッと顔を引き締めた。
そして、腕を横に振ってポージングしながら唱える。
「ステータスオープン!」
そんなサチを、哀しみの籠もった目でトザンは見た。
「……お前、確かに今の見た目でやったらかっこいいけどな、痛々しさも倍増……」
「あ、なんか出た」
「マジかよ!?」
トザンが驚愕する。
確かに何か出ているらしい。サチの目の前が何かで覆われているように見えなくなっている。
サチは顎に手を当て、目の前に現れた何かを読み始めた。
「うーん、ところどころ現地語だぁ。読めそうなところは……えーと何々? 種族がエルフ、年齢が……は!?」
サチは読み続けて絶句した。
トザンは気になり、サチの後ろに回ってぴょんぴょん跳ね、それでも見えないので背中に飛び乗った。
およそ教師のすることではないが、見た目幼女なので違和感がない。
「……えーと、名前……読めないな、飛ばそう。年齢……千五百七歳だと!?」
サチと顔を見合わせた。
「私、おじいちゃんらしいですよ?」
「待て。エルフが異常に長命なだけかもしれないぞ。見た目は大学生くらいだ。小ジワすらない」
その後もいろいろ書いてある。ゲームのステータスウインドウのようだ。
この数字がいいのか悪いのか、二人には判断がつかない。
サチはステータスウインドウを消すと、トザンに催促した。
「先生もやってみてくださいよ」
「おう」
サチの背から下りると、トザンは咳払いし、赤くなりつつ小声で唱える。
「す……。……ステータスオープン」
「声ちっちゃ!」
サチがツッコんだ。
すると、トザンの目の前にもステータスウインドウ広がった。
「おぉ!」
トザンが感動して、目を見開く。
何しろ初の魔術だ。興奮しないわけがない。
高校生のサチは抵抗ないのだろうが、いい歳をした教師が魔術を使おうとするなんて、恥ずかしすぎるのだ。
だが、これでふっきれた。
「よーし、俺もこれから魔術を使うぞ! ――どれどれ、俺の種族は……ドワーフか! 年齢は…………千四百九十三歳」
愕然としつつ、かがんでステータスウインドウを覗き込んでいたサチと顔を見合わせる。
「先生、ロリババアだったんですね……」
「その言い方やめろ」
サチに言って再度ステータスウインドウを表示してもらい、数値を見比べた。
意外にも、体力はトザンの方がわずかに高い。敏しょう性もトザンが高い。魔力はダントツでサチが高かった。
「あと、グレーアウトしているのが気になりますねえ」
「たぶん、元の身体は使えたけど俺らはまだ使えないってことかな」
サチは火魔術のみが使え、トザンは全滅だ。
「使えば使えるようになるのかな。お前、昨日火魔術を使ってたもんな」
「あ、それなら簡単ですね。……とは言っても、思い出せないんですけど」
サチは感覚派なので「なんとなく出来そうな気がする」となったらバンバン試すが、その代わりその感覚がないと出来ない。
トザンはどちらかというと理論派だ。
うーんうーんとうなるサチをポンポンと叩いてなだめる。
「ま、焦る必要はないし、いつかそのうち徐々に使えるようになればいいんじゃないか」
サチは、天に向かって叫んだ。
「こんなん見たら、全部使えるようにしたくなるじゃないですかー!」
「わかる」
サチの叫びにトザンは即座に同意する。
トザンだって、こんなのを見たら使えるようにしたいって思うに決まっている。
「よし、今日はグレーアウトの解除に勤しもう」
「賛成ッス!」
と、初日から予定を変更し、周囲の探索はやめて魔術やスキルを試すことになった。
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