第5話

「……にしてもココ、どこなのかねぇ?」

「どこなんですかねぇ? 私と先生しか住んでない未開の地だったらどうします?」

 と、サチが明るい声で暗い予測を言いだした。

「どうもしないよ。それこそ諦めて、二人で協力し合いここで生活しよう。サチの野生の勘で、調味料系も探し当ててくれ」

 トザンはあえて軽く言った。

「んー……。わかりました! 私のシックスセンスを駆使して見つけ出してみせましょう!」

 考えたと思ったら、サチは急に胸を叩いてみせる。

「ハハハ。期待してるよ。マジで、なんで食べられる物が見つけ出せるのか謎だから」

 トザンが笑いながら言うと、サチはずい、とトザンに迫った。

「先生ももっと、心をオープンにしたほうがいいッスよ! 日本にいたときとは性別も常識も違うんですから! 魔法やシックスセンスが使える身体になったんだから、使いまくりましょう!」

「いや、俺、まだそこまで恥じらいを捨てられないんだよ」

 サチの勢いにタジタジになりながらトザンが言った。


 その後も話し合い、しばらくここで様子を見て、それから移動しようということになった。

「勝手がわからないので、当てもなく森をウロウロしたくないからな。どの程度の広さの森かもわからないし」

「ですねー」

 トザンの言葉にサチが同意する。

「じゃ、拠点をここにして、少しずつ探索範囲を広げながらこの場所や自分たちの身体のこと、そしてこの身体の持ち主と自分たちに何が起きたかを探ろう」

「おー!」

 サチが片手を上げた。


 トザンがさて、と手を叩く。

「さて、お次は寝る場所だけど……。最初の地点かな」

「ですね」

 サチがうなずく。

 トザンとサチが最初にいた場所。

 そこは、魔術らしきもので隠蔽されているようなのだ。

 サチはなぜだかそれがわかった。

 トザンはわかっていないが、なんとなくそこを寝床にしていたらしいというのはわかった。

 最初の地点に行き、サチがつぶやく。

「うーん、ココ、寝るだけみたいですけど、あと二人でくっついて寝てたみたいですけど。私と先生って、親子だったんですかねぇ?」

 トザンは首をひねる。

「……なのかなぁ。それよりサチ、どうする?」

 困ったトザンがサチに振った。

 身体は男でも中身は女子高生のサチなのだ。

 二十八歳男性教師と一緒に寝るのは抵抗があるだろう。

 そう思って言ったら、サチがキョトンとして言い返した。

「というか、先生がどうします? 私一応、ガワは男なんですけど」

「俺は中身が男だからなぁ。お前の方こそ中身は女子高生だろ。俺は、お前が気にしないならいいぞ」

 トザンが問いかけたら、サチがキッパリと言い切った。

「気にしませんね!」

 双方気にしない、ということで一緒に寝ることになった。

 横になり、しばらくするとサチがポツリとつぶやいた。

「――先生。抱っこしてもいいですか?」

「は?」

 トザンは戸惑ったが、サチの揺れる瞳を見てハッとしてうなずいた。

「いいぞ」

 サチの腕が伸びて、トザンはサチの腕の中に収まる。

「――先生。ごめんね。巻き込んじゃった」

 サチが涙声で謝る。

 トザンは手を伸ばしてサチをよしよしと撫でた。

「気にするな。俺は気にしていないよ。というか、巻き込まれたなんて思っていない。特にこの状況は、お前のせいじゃないだろう。お前は……なんか一人でもどうにか出来そうだけど、俺がついてやれてよかったと思う。これからどうなるかわからんが、二人でやっていこう。だから、落ち込むな」

「うん」

 サチは明るく振る舞っていたが、ずっと無理をしていたんだとトザンはわかった。

 今、この状況になる以前の日本にいたときからおかしなことが続き、語ったこと以上の事象が起きていたんだろう。元の身体に戻りたくないと言ったのは、もうそんな目に遭いたくないから。

 日本でのトザンは何もしてやれなかっただろう。そうして潰れていくサチを見ているしか出来なかっただろう。

 だから、今、潰れそうな生徒についてやれてよかったと、心からそう思った。

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