第3話
せめて容姿が逆だったら良かったのにと思わなくない。トザンは切実にそう思った。
この頼りなさげな小さい手では、教え子を守りきれる自信が無いし、そして教え子は、たいそうな美形なのに女子高生が中身なもんだから、たいそう残念なことになっている。
内容だけ聞けば容姿を真逆にとらえそうだ。
そんなことを考えつつ、トザンが火打ち石を取り出そうとしたら。
「小さき火よ、出でよ」
と、サチがイケメンの外見で手をかざしつつ高校生らしい言葉を発したので、トザンは思わず、悲しみのこもった目でサチを見てしまった。
夢だと思ってるからだろうが、そんな恥ずかしいことを口にしてダメージを負わないのか、と言いたくなってしまった。
……が、パチパチと爆ぜる音が聴こえてきたので驚いて枝に目をやったら、本当に火が出て枯れ枝を燃やしていた。
「マジか……」
絶句するトザンにサチが胸を張って言った。
「厨二っぽいけど、やっぱやって正解でした! なんか出来るような気がしたんですよ!」
ちょっとうらやましいその勇気、とトザンが思った。
トザンはたき火を見つつ考えた。
これが夢と割り切れたなら、つじつまが合う。
だが……非現実的だが夢にしてはあまりにリアル過ぎて、こんな明晰夢は絶対にないと言い切れる。
だから、これは憑依なのではないかと思った。
この身体を動かす意思は自分のものだが、実際に身体を動かすときに自分の知らないことが、いとも簡単に出来たりするのだ。
それは、この身体の持ち主が動かしているのではないかと考えた。
もしかしたらと考えて、
『この身体の持ち主さん、意識はありますか?』
と、そっと自分の中に語りかけてみたりしたが反応がない。なので、この身体の持ち主は、意識がないか話せない状態だと考えた。
(これ以上は今のところ無理だな……誰かここの現地人に会いたいところだが、そもそもここに人がいるかもわからないしな)
あの時死んで、この誰かわからない人物に憑依したのなら、この身体を無事に返してやりたい。
――サチには悪いことをするが、今話した限りは明るくていい子だ。わかってくれるだろう。
気が重くなりながらもトザンが密かに決意していたら、お湯を飲んだ後しばらくどこかに消えていたサチが戻ってきた。
摘んできた木の実を見せながら、
「私のシックスセンスが『コレが美味い』って囁いてるんで、もいできましたよー」
深刻に考えていたのが台無しになるような、のんびりした声で言った。
木の実を食べたら、よりおなかが空いてしまった。
サチとトザンの腹が鳴る。
「食べたらおなかが空くとは、これいかに?」
と、おどけた口調でサチが言ったので、トザンが返した。
「ちょっとだけ食べると胃が動くから、よりおなかが空くこともあるんだよ。……うーん、川で魚でも捕まえるか」
やったことはないが、トザンはなんとなく感覚で「魚を捕まえられる」と思ったのだ。
サチと川に入り、魚を捕る。
やはり容易に捕まえられた。
「きゃっほーい!」
サチも雄叫びをあげながら魚を捕まえている。
「食べる分だけ捕まえろ!」
トザンはサチに怒鳴ると、鍋に水を入れてそこに魚を入れた。
数匹捕まえると川から出て、たき火のあるほうへ戻る。
サチも戻り、手ぬぐいで濡れた箇所を拭いていた。
トザンはそれよりも調理を先に済まそうと、バッグを漁る。
そして、腰につけている小刀で魚を捌くと内臓を取って洗い、串を打ち、調味料を振った。
「おぉー! 先生、すごいね、手慣れてる」
サチが拍手した。
「見た目幼女だけど、スペックがいいみたいなんだよな」
子どもの身体は筋力が発達していないし頭も大きいので転びやすい。
だが、この身体は意外としっかりしている感覚があるのだ。
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