第2話

 しばらく、二人で現状確認をした。

 まずは互いの容姿を教え合う。性別は完全に逆転していて、山川東生はかわいらしい幼女に、雨水幸は背の高い美青年になっていることが判明した。

 ついでに言うなら、雨水幸の耳は尖って横に飛び出していた。


 次に着ている服装、持っている荷物についても確認する。

 山川東生はなぜか幼女に似つかわしくないハンマーを背負っていた。あとは小さくて細いナイフをかなりの量、腰に巻いている。

 バッグは二つあり、一つの中身をちょっと確認してみたら、小さめの砥石や動物の皮、調理器具、着替えなどがたくさん詰め込まれている。

 雨水幸は弓を背負っていた。更に、細身の剣を腰に佩いている。

 バッグはやはり二つあり、山川東生と同じく調理器具や着替えが詰められている。

 服装は、お互いに登山靴のようながっちりとした靴と肘当て、胸当てのついた服にマントを羽織っていた。


 山川東生はファンタジー感が漂っているな、と思いつつ言った。

「お互い夢かと思いたいが、夢じゃなかったら大変なのでとりあえずここから先のことを考えよう」

 キリッとして言う山川東生だが、見た目は幼女なので背伸びしているようにしか見えない。

 端から見ると笑ってしまいそうだが、雨水幸は真面目な顔で拝聴した。


 山川東生はさらに続ける。

「とにかく、ここがどこなのかを探りながら食料を調達していこう。夢じゃないなら飲食は重要だ。最低でも飲み水は確保したい。雨水は――」

「あ、先生。私のことはサチと呼んでください」

 遮って言った。

「見た目変わったんで、サチって呼ばれたいんですよ。雨水幸は元の身体に戻るまで封印します」

 山川東生は雨水幸改めサチを見て、うなずいた。

「そうだな。俺はトザンって呼んでくれ」

「わかりました! 先生!」

「いきなり違ってるよな。わかってないよな」

 山川東生改め、トザンと呼ばれたい先生がぼやいた。


「で、先生。飲み水ですが、あっちのほうにある気がします」

 サチが指さす。

「トザンって呼んでほしいけど、違和感ないからいいや。なんでわかる?」

「水の音が聴こえるんですよねぇ。あと水の匂いとか」

 トザンも耳を澄ませた。

 そういえば、そんな気がする。

「じゃあ、行ってみようか」

 二人はバッグを持って立ち上がると歩き出すが、サチは急にくるりとトザンを振り向いた。

 そして、からかうように尋ねる。

「先生、おんぶしてあげようか?」

「結構だ!」

 トザンは怒鳴り、憤然としてサチを抜かして先導した。

 見た目は幼女だろうが中身は成人男性なのだ。女子高生におんぶされるなど沽券に関わる。


 トザンは見た目幼女だが、なかなかのパワーがあった。

 足場の悪さも特に問題なく、疲れもせずにヒョイヒョイと歩けている。

 身軽でもあるし、巨大ハンマーを背負っているわりにはバランス良く歩く。

 サチも危なげない足取りでトザンの後ろをついて歩いた。


 さほどかからず、浅瀬の川に出た。

「うーん、絶景だ」

 トザンは腰に手を当て、景観を楽しんだ。

 サチも周りを見渡し、万歳した。

「大自然ー! キャンプっぽいッスね!」

 トザンは苦笑してうなずく。トザンもそう思ったからだ。

 そして気を取り直し、川を眺める。

「飲み水は確保したな」

「生水って飲んじゃいけないんじゃなかったでしたっけ? 山……トザン先生」

 サチが疑問を投げかけた。

 トザンは考えた。

 この透き通った水ならたぶん大丈夫だろうが、何せここがどこかがわからない。

 自分が誰かさえもだ。

 こんなところでおなかを壊したら、大変なことになりそうだ。

「とりあえず、汲んで沸かすか」

 トザンは鍋を出して汲み、手早く石を組んで炉を作った。


 トザンは、アウトドア経験がある。

 学生時代はバイクでキャンプ場に行き、テントを楽しんだ。

 だからこういうのは昔取った杵柄なのだが……それにしても手慣れすぎていた。

 まるで、身体が勝手に動くかのように組んだ。


 気付いたら、サチが枯れ枝を抱えてきた。

「おう。すごいなサチ。お前もアウトドア経験があるのか?」

「一切ないですね! なんか、身体が勝手に動きましたー」

 キッパリ言い切ると、枯れ枝を組み、上から何かをかけている。

「なんか、これが発火剤になるって、私のシックスセンスが言ってるんですよ」

「ナニ言ってんだ、って言いたかったけど、俺もその気持ちが理解出来るんだよな……」

 トザンがぼやいた。

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