第99話 鉱山ダンジョン 二回目
3の月3日。
ようやく7人パーティーでの活動を開始することになった。
今日から一週間、ミリエラ鉱山ダンジョンへと7人で向かう予定。レベル次第ではもう少し早く帰ってくることもあり得る。
ダンジョンにに挑む条件は、Dランク3人とFランク1人と、奴隷3人。Dランク以上推奨なので、本来は半分以上がFの時点で挑むことは出来ないけど……仕様として、許可が出ている。
あと、従魔として、シマオウもいる。モモとライチもいるけど、これは戦力外。キャロとロットはテイマーギルドで留守番している。
事前にクロウについては、防御の底上げなど特訓したけど、アルス君はしていないのがちょっと心配。
「さて、1週間でダンジョン踏破を目指すことと、全員のレベル30まで上げるのが目標だ」
「可能な目標なのかい?」
兄さんの言葉に、クロウが反応するが……不可能ではないと思っている。
このダンジョンは30階まで。キノコの森ダンジョンよりは敵も弱い。その分、この人数で行動していると経験値稼ぎは向いていない。
レベル30からここに潜って、レベル45くらいまではここを起点にする冒険者は多い。キノコの森の上層より、ここの上層でレベル上げをした方が効率的だとは言われている。
「ボス戦以外は、4人と3人+シマオウに分かれての行動のがいいだろうな。最終日までにレベルが上がりきらない場合には、さらに人数を分ける。ヒーラーがクレインだけなんでな、振り分けとしては、クロウとアルスにクレインを付けようと思うが、皆の意見は?」
「はいはい! 俺もそっちがいい!」
兄さんの言葉にレウスが続くが……アルス君はアタッカーということなので、できればここはタンクが欲しい。
私とクロウが魔法系だし、アルス君も一番レベルが低い……まあ、回復魔法で何とかなるといえばなんとかなるけど。
「ナーガかティガにしてくれ。タンク無しで、俺が狙われたらどうしてくれる」
クロウがレウスの言葉を跳ねのける。まあ、そうなるよね。
「私が回復魔法使うよ?」
「攻撃されるのが前提はやめてくれ。ナーガを所望する」
「……わかった」
うん。安定感でいうとナーガ君なのはわかる。ティガさんがダメというわけではないけど、レベル差が硬さに直結している。
それにナーガ君ならさくっと倒せるからね。時間がかかれば後衛が危ない可能性があるなら、正しい選択だと思う。
たしか、20階までは徘徊型ボスも出ないので、問題はないということで、とりあえず10階手前、9階の出口で待ち合わせることになった。
「じゃあ、出発しようか」
入口のボスを7人で倒した後、二手に別れて出発した。兄さん達はさっさと先に向かったけど、一応、お互いの打合せをしてから先に進むことにする。
「まず、アルス君はアタッカーでいいんだよね? ここの魔物は固いけど、攻撃は通ってる?」
「えっと……全然、かな。その……武器も、あまり良いものじゃなくて」
確かに……これは鉄の剣の中でも、かなり粗悪品の出来だった。この剣をどうしたのかと聞いたら、カエシウスという町で貰ったらしい。
誰から? と聞こうかと思ったが、暗い顔をしているので止めた。例の女の子から貰った物だったりしそうで、聞きにくい。
どちらにしろ、これではいつ折れるかわからないので、買い直すことを勧めよう。私が大蛇で武器を折ってしまったみたいに、万全ではない武器は危険すぎる。
「そっか。じゃあ……ナーガ君、武器借りてもいい?」
「……ああ、どっちだ?」
「槍かな……大剣のほうが攻撃力はあるんだけど、火耐性が高い魔物が多いから、槍でいこう。使ったことないだろうけど、基本的な使い方は教えるね」
簡単な槍の使い方を教えて、ナーガ君の槍をアルス君に渡す。
ナーガ君は大盾メインで、攻撃参加はしないつもりのようだ。
「その……理由を聞いてもいいかな?」
「まず、ナーガ君の武器を借りるのは、魔法が付与されている武器だからかな。ここの魔物は、DEFが高い。けど、逆にMDFは低い。少しでも魔法を纏わせれば攻撃が通るはずだから、それでやってみよう」
武器を構えてもらい、雷を纏わせる。うん、出来ている……雷魔法に耐性のある魔物はいないはずだから、これだけでもだいぶ違うはず。
「槍の方が一点集中で攻撃がささるので、ここの魔物とは相性がいい。斬撃しようにも弾かれるから、それなら槍で一突きの方がいいと思う……レベルが上がれば、攻撃が通るようになるから、こっちを使おう。岩石系だと、あの剣は折れる可能性もあるから」
「う、うん」
「魔力を通すのは少しずつ慣れていくと思う。ここの魔石に魔力が込められているから、MPは気にせずに使ってみてくれる?」
「わかったよ、ありがとう」
アルス君が槍の練習をしつつ、ナーガ君がアドバイスをしているようなので、任せておく。
クロウの方は、話が終わるまで待っていたらしい。
「じゃあ、クロウは魔法ね。出来れば、魔法を撃つ前に魔力を溜めると攻撃力が上がるから、それを心がけてみてくれる?」
「いや、もうちょっとわかりやすく頼みたいんだがなぁ」
「こんな感じ」
水〈ウォーター〉を唱え、水をぽたぽたと出すのを見せた後に、魔力をこめて水と勢いよく出すのを見せる。
「器用なもんだなぁ?」
「まあ、MPを込める量とイメージで出来るようになるから、慣れるといろいろできるよ」
「しかし、威力を上げるのはわかるが、こんな風に絞る必要があるとは思えないんだがなぁ」
「器用だね……絞る方が難しいのに。私は調合でよく使うよ」
クロウが水〈ウォーター〉と唱えて、水をぽとぽとと垂らしている。ほぼ私と同じことは出来るようだ。うん、そこまで出来ることに驚きだけどね。
私は調合とかで重宝している。
戦闘には一切使えないのは事実ではあるけど。絞れるなら、溜めるのもできそうだし、こっちは問題が無さそう。
「さて、どう戦うんだ?」
「……俺が基本的には止める。…………上からコウモリとかが襲ってくる、絶対に安全とはならない……」
「上からの奇襲は出来れば、クロウが魔法で撃ち落としていけるといいけど……どう?」
「無茶いいなさんな……とはいえ、空中の敵については、風魔法を放てばいいんだよな? できる限りやってみよう」
「うん。基本は風魔法でいいと思う。できれば、風魔法のレベル上げて欲しい」
クロウは元々風魔法を覚えていたので、そちらを伸ばした方がいい。出来れば、雷魔法を覚えてもらえるとスタンピードで楽になる可能性もある。
そして、4人でダンジョンを進んでいく。
できる限り、魔物とは戦うようにして、二人のレベルを上げるように……でも、危険が無いようにルートは気を付けておく。
前回のティガさんとレウスよりも、防御に難があるため、囲まれないように注意をして……ナーガ君が止めてくれるとはいえ……クロウが私以上の紙装甲。
事前に特訓はしたので、レベルアップ時の上がり幅はよくなっているが……まあ、私も耐性系のアビリティを覚えたのはレベル10超えていたし、成長すればそこまで差はないかな。
あとは、アルス君が思ったよりも、ステータスの上り幅に対して、強くなっていないような気がする……戦闘系3段階目という割に、ステータスのみで戦っている。
きちんとユニークスキルの情報交換していないんだよね……時間が無いのもあるけど、各自手の内を晒したくないという部分があるみたいでね。
今後、仲間同士でも、望むことの違いが大きくなり、別の道へと行くこともありそうで、積極的に能力を公開し辛い。
「あんま無茶しなさんな、大丈夫か?」
「何が?」
「出来る限り有利に、魔物をとり逃さないようにと……そこまで、正確に使えるのもすごいがな」
クロウには〈生命探知〉と〈魔力探知〉と〈気配察知〉を使って、危険がないようにしていたのが、わかるらしい。
3つ同時って、すごく集中力が必要だけど、危険を考えるとね……二人の防御がもう少し上がるまでは安全重視と思っているのだけど。
「見えるの?」
「あんたが、SPとMPを使って何かしているのはなぁ。俺は、察知能力はそこまで高くないんでなぁ……ただ、戦いやすいようにしてもらっている。あんたは戦ってないのに、SPとMPがどんどん減ってるのはおかしいだろう?」
「……レベルが上がってほしいのは二人だからね。極力手を出さない方が、経験値も二人に入る。まあ、取りこぼしが無いようにしてるだけだよ……それと、デリカシーをもって」
ステータスが勝手に見えてしまうというのは聞いてるけど……何とかした方がいいかも。まあ、全体の把握をする分には、良いことなのかもしれないけど……。
人のステータスを常時確認しているのはいい気分ではない。
「ちなみに、あんたの予想では俺が一撃で倒されることはあるのか?」
「う~ん。ボスなら、あり得るかも? ダンジョンは一定のレベルしか魔物は出てこないから、大丈夫だよ」
外の魔物はイレギュラーが有り得る。シマオウみたいな王の個体や、本来は冬眠中の大蛇とか……。
ダンジョンでは魔物が固定化されているから、情報を仕入れれば危険は減る。魔物の危険は……。
罠とか、人為的なミスなどでの危険はダンジョンのが高い。
「基本的な攻撃はタンクが止めてくれるとはいえ、絶対じゃないからね。……正直、レベルが10くらいまで、ほぼ防御上がってなかったのは痛いと思う。そういう育て方をしたのは帝国だろうけど」
これは、ティガさんやレウスもそうだったけど。強くしすぎないようにコントロールするつもりだったのだろう。
わざとアビリティを取得させないように、特に防御とかは低いままにしておきたかったように思う。
「あいつらもだろう?」
「うん。でも、あの二人はそもそも上がりやすいかな。具体的な数値はわからなくても、危険域はすぐに超えたし、ナーガ君と同じで上がりやすい気がする」
これは、種族の違いでもあるとは思う。ハーフのレウス、ティガさん、クォーターのクロウ、混血の兄さん、アルス君では、ステータスの上り幅も変わってくるみたいだ。
私はも多分混血だけど……魔法系だしな。
クロウは魔法職という割には、MPよりSP伸びてる。まあ、兄さんと同じく、鳥人は伸びやすいっぽい。
「なるほどなぁ……しかし、意外と人が多くないか?」
この先には採取ポイントがあるからなのかもしれないが、人が多い。この前4人で来た時より人数は3倍くらいになっている気がする。
でも、採取ポイントの先に出口があるから、迂回もできない。
出来れば、目立たずにレベル上げをしたいので、人が多いのは、本当に厄介だったりする。
「一週間前に来た時よりも多い。理由はわからないけど」
「お前の兄貴と帝国の冒険者のせいだな……よう、おチビ。調子はどうだ?」
「あれ? ノトスさん? こんな低層でどうしたんですか。それに兄さんと帝国のって、どういうことです?」
「低層にいるのは、メンバーが一人怪我したんで、いつもとは違うせいだな。で、さっき、兄貴達のパーティーが珍しい石を採取してな。それを見て、俺も俺もと採取ポイントに群がってるな……あんなレアは、上層でも滅多に出ないんだがな」
なるほど。
顔見知りの冒険者が私を見つけて、説明に来てくれた。しかし、兄さん……というか、レウスが珍しい物を採取したのか。
それを見ていて欲しがっているというのはわかるけど……こんなに混雑するのか。
「帝国の奴ら、国の方でごたごたしているから、こっちに来た奴ばかかりでな……この分だと、帝国のスタンビード、何かあるかもしれない」
「まずいですか?」
「将軍が殺されて、軍部が酷い状態だろ? さらに冒険者がこっちに流れてきてるからな……かといって、この国としては急に来た帝国の冒険者を信用して、この地のスタンビードを任せ、他に人手を回すわけにもいかない」
まあ、他国の人間を頼れないってことはわかる。
そもそも、冒険者って自分の身が大事ということで、無茶な任務を与えると逃げ出してしまうこともあるらしい。村一つより自分……帝国から来たら、さらにその可能性は高いよね。
「なあ、あんた。どれくらい人は増えているのか、教えてくれないかい?」
「おちびの連れか。そうだなぁ……もともとこの町を拠点にしている冒険者を10とした場合に、帝国から5、他の地域から3。あとは、普段はほかの地域で稼いでるがスタンビードの時期だけ、手伝いに戻ってくる奴らが1割くらい。だいたい倍近くに増えてる印象だな」
クロウの顔を見てから、にやりと笑ってから教えてくれた内容……ぎりぎり元の人数を超えてないくらいで、結構人数は増えているらしい。
知らない顔が増えてるとは思っていたけど、そんなに増えてるのか……。
いきなり冒険者増えると治安も悪くなりそうだよね……いや、なんか、素行悪い冒険者が増えた気はしていたんだけど。
「落ち着いてきたとはいえ、一時期、傷薬が品薄だっただろ? 人が増えたのは、商業ギルドからの荷駄護衛依頼が増えてるせいで、こっちにきた冒険者がそのまま留まることも多い。あとは、単純にこの町の討伐報酬はおいしいから、スタンビードの緊急依頼終わるまでは居座る可能性が高いぞ」
「ありがとうございます。これ、お礼でいいですか? 町戻ったら、お酒おごります」
大きめの水筒を一つ、お礼として差し出す。
仲間全員分用意したのに、いらないと言われてしまったため、7本あるので、1本くらい渡しても問題がないだろう。
「おっ、おちびもわかってきたじゃないか。こいつは?」
「疲労回復ドリンク……塩とシロップと傷薬を薄めて混ぜた飲み物です。今、師匠と研究していまして……回復効果は低いですけど、冒険者は水分補給も必要なんで、手軽に飲めるように……ノトスさんたちなら、回復ポーションを飲むことないでしょうし、戦闘後とか、汗かいていたら水飲むよりはいいと思うので。試作品なんで、あとで感想とか教えてください」
いわゆる、スポドリ。こっちの世界では、無いみたいだけど……塩分と糖分補給にはスポドリがいいと思うので、作ってみた。
ちなみに、仲間たちからは不評である……見た目が青汁、味もスポドリに比べ、美味しくないとのこと。回復効果としては、HPとSPが微回復。
薬というよりも、基本的には水分補給用に用意したものだけど……「まずい」と言われた。青汁よりは美味しいけど、ポ○リやアク○リの味に近づけて欲しい。このままでは飲めないと言われてしまった。
美味しい方がいいのはわかるし、疲れてないときには水でいいとも思うけど……受け取り拒否されたので、他の人にあげてしまう。
まあ、これについては、まだまだ改良の余地あるものだからね。そのうち、美味しいスポドリを用意するつもりだ。
「んじゃ、遠慮なく貰っとく。ついでに採取しないなら、出口まで送ってやるよ。絡まれても困るだろう」
「ありがとうございます」
混んでいるところに並んでまで採取はしないので、お礼を言って、出口まで案内してもらう。割り込むわけじゃないと言っても、揉めそうだったので、結構助かった。
「ちびっこが二人いると絡まれやすいから、そっちも注意してやれよ」
クロウとアルス君に向かって保護者だろうと言っているが、残念。
そっちの二人のが新人で、要領がわかってなかったりする。まあ、私とナーガ君……確かに、この町では数少ない若い冒険者ではあるからね。
まあ、さくっと次の階に行ってみよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます