第98話 試験後


 朝から始めた、薬師ギルドでの実力テストは、夕方には一通りの薬を作り上げて終わることができた。その間、師匠と兄さんがずっと待っていてくれたので、本当に申し訳ない。


 まあ、二人とも、本を持参していて、それを読んだりして時間を潰していた。私もたまに休憩をするように兄さんから言われ、お茶や食事をとったりもした。



 テストの内容は100種類のうち、2割くらい、とても難しいレシピで成功率がかなり低いものもあったが、なんとか全種類作り上げることができた。

 普段使わないような珍しい素材とかも沢山あって、チャレンジ回数は10回分くらいの量が用意されていた……連続4回失敗とかもあったけどね。1回成功すれば良いので、プレッシャーを感じる前に成功出来てよかった。


 この余った素材とか、貰えないだろうか……いや、まあ……ダメだろうけど。できた薬についても、全て回収されてしまうらしいので、ちょっと残念。


 作りながらメモをしていたけど、メモは持ち帰っていいと言われてホッとした。

 扱ったことのない素材とかあったから、鑑定した内容をメモしてある。メモは大事。あと、魔法を使えないのは不便だった。


 普段、水とか魔法で出して、アルコール消毒や乾燥とかも魔法使っていたから……いや、バレない様に使ったけどね。

 消毒されてないと成功率下がってしまうから、見えない様にアルコール消毒と一緒に、浄化〈プリフィケーション〉を……ちょっとだけ。あとはタオルで水気を取る振りしながら、乾燥〈ドライ〉とかね。



 レシピの内容は、師匠のレシピと違う部分も結構多かった。師匠が素材加工の時にいれている作業のひと手間が無いとか、熱するときの温度管理とか……割と曖昧。

 特に、上級の薬になると前段階の薬の出来が左右されるのに、品質が低くなるような作り方しているのもあった。


 まあ、できる限り師匠のやり方に沿って、ちゃんと丁寧に作ったけどね。



「お疲れさん。思ってたより早いさね……わたしが留守の間も、ちゃんと腕を磨いていたようだね……さて、帰っていいかね?」


 師匠が新しい薬師ギルド長に確認をすると、「少々お待ちください」と言われてしまったので、仕方なく、兄さんの隣の席に座って待つ。


 兄さんが持っていた本を借りて読んでいたら、声をかけられた。


「冒険者ギルドから商業ギルドに移るご予定はありませんか?」

「無いです。まだ、薬師としては半人前なので、研究のために自分の手で素材を手に入れるところからやりたいので……冒険者ギルドのほうが、都合がいいです」


 朝、紹介された、商業ギルド長の誘い。……断る。

 商業ギルドに移る必要が一切ないからね。しかも、登録料とか高い。まあ、割と薬を納品すればそれくらいの金額は稼げるようになったけどね。


 商業ギルドを経由して、素材の購入をして、薬を作って売るよりも、自分で素材とってきて売ったほうが利益率も高いから、メリットがない。



「このひよっこは、これから薬の研究を引き継いでいく段階さ。まだ、レシピ通り作るだけの猿真似しか出来てないよ……素材を一から学ぶためにも、数年は冒険者をさせる予定さね」

「なるほど……しかし、そのような教育方針では、弟子の成り手がいなかったことにも納得ですな」

「言ってくれるじゃないか。……まあ、わたしも年だ。これからの薬の依頼はこっちにしておくれ」


 え? 私がするの?

 師匠は、薬がどうしても少なくなると商業ギルドから依頼があって、薬を納品していたらしいが、そちらを今後対応することになる、らしい?


 毎月一定量納品とかではないらしい。どうしても薬が不足している場合に、市場価格の調整を行うために師匠に大量納品を頼んだりすることがあるらしい。



「ほかにも新製品を出す前の試作品や流行り病など、混乱時には各店での販売はせずに、商業ギルドで一律に行うこともありまして。そういう時に収めていただくことはありますが……冒険者ギルドでも薬は調整をするでしょうから、普段からお願いすることはございません」


 商業ギルド長の言葉に頷いておく。ついでに、お店については、商業ギルドに登録申請をすることになった。よくわらかないが、テイマーギルドにペット達を登録しているのと同じで、店を登録しておくことはできるらしい。


 まだ、薬師ギルドからのOK出てないけどいいの? 私が作ったものに安全性があることを確認出来てからでないと、店の許可出していいのだろうか。

 まあ、店員を雇っているので、登録はしておくけど。


「失礼。メディシーア嬢。王宮薬師となる気はございませんか?」

「えっと……ラズライト様の専属薬師としていただく予定でして……」


 この人は王宮薬師の人。休憩中にも何度か話をしに来ていた……。なんだか、手順とかが気になる部分が多いらしい。師匠のやり方でやっているだけなのだけど。



「この子は、王弟殿下の第三子、ラズライト様とご縁があってな。まだ、爵位の関係もあり、正式な段階ではないが一足先に薬師として専属にしていただいている」

「あ! はい、兄のいう通りで」


 角が立たない様に断ろうとしたところに、兄さんから助け舟がきた。

 まあ、そういうことにしておいてほしい。師匠は無所属だが、私は王弟派。そこはきっちりとしておく必要がある。

 王宮薬師が国王派であるなら、無理だと伝えておいた。


「……そうでしたか。気が変わりましたら、いつでもご連絡ください。私のほうで推薦状を用意いたしますので」

「その際はご助力いただければと……」


 あれ? もう専属になったんだっけ? いや、提案で止まってたと思うのだけど、まあ、そういうことにしておこう。


 断ったけど、王宮薬師の人は満足したみたい。何か必要なことがあれば連絡して欲しいとまで言っている。

 複雑そうなのは王都の薬師ギルドの人。でも、師匠を除名している時点で、私も薬師ギルドには所属しないことが確定している。


 ちなみに、貴族のお抱え薬師については、たいていが王都の薬師ギルドに名前だけ登録しているらしいよ。薬師ギルドからの依頼を受ける必要がなくなるとか……。


 今回のマーレスタットの新薬師ギルド長は、もともとは貴族お抱え薬師であり、王宮薬師の資格も持っていたが、他にこの町のギルド長に立候補する人がいなかったから、この町の薬師ギルド長になったらしい。


 王都の薬師ギルドに人がいないのが知れ渡るとか、不名誉なんだろうな。でも、なり手がいないから、アレを放置してたんだから、そもそも駄目だった。


「さて……今日の結果については、1週間程度かかるので、その時にまた薬師ギルドに顔を出してもらってもいいかな?」


 新しい薬師ギルド長となったレカルストさんは落ち着いている。結果を淡々と確認し、残っている素材数を数えた後、今後について確認された。


 やっぱり、素材の残りも合否に関係があるのかな……。

 駄目だったら、どうしよう?


「あの……冒険者ギルドのほうで、スタンビートの兆候があることから、準備するように言われていまして。今月は、町に不在の期間が多いと思います。出来れば、結果だけ店に届けていただけますか?」

「は? スタンビードに参加するのですか!?」


 驚きの声を上げているのは、商業ギルド長だね。

 するよ。冒険者は、この時期の義務だもん。準備に一週間、その後はスタンビードが起きるといわれる南の領境へ向かう予定だ。


「危険でしょう。それに、若くてこれだけの資質があるのですから、損失するようなことがあれば!」

「それも本人覚悟のうえで、冒険者ギルドに所属しているんだよ。口出し無用さね……そうだろう?」

「大丈夫です! この町の周囲で取れない素材をちゃんと持ち帰ってくるんで」

「ああ。心配はしてないよ、大丈夫さね。お土産は期待しているよ」


 師匠は笑顔だが、周りが引きつっている。いや、ちゃんと準備期間があるし、一人で行くなら危険でも、パーティー組んで仲間もいるのだから危険はないのだけど。


「では、結果は店に届けます。スタンビードでのご活躍、健闘を祈りましょう」

「はい、ありがとうございます。落ち着きましたら、ご連絡いたします。ただ、ここは余り来たくないです……邪魔する人たちもいたので」


 私が薬を作る傍らで、色々とヤジを入れていたりしていたギルド職員。

 すごく邪魔だった。洗っておいた素材に勝手に手を出してきたりと、何したいか知らないけど、邪魔ばかり。


 新しいギルド長が邪魔をしない様にと何回言っても、邪魔をするつもりはないとか……めっちゃ邪魔してるので腹立たしい。

 好きになれないという師匠の言葉に納得した。ちなみに、師匠はついでとばかりにクロウと兄さんも助手として調合は教えているから、上級薬師になった時には伝えると言っていた。

 薬師ギルドの職員がひくひくしていたのが笑えた。



 そして、薬師ギルドから家へ帰宅して、師匠も一緒に夕食となった。兄さんが腕によりをかけて作っていた。美味しかった。




「天才薬師の弟子もまた天才ですかな」

「あの年であれほどの才……冒険者としてレベルを上げているからだけでは、あれほどの作成は出来んでしょうな」

「今すぐに王宮薬師を名乗るだけの腕はあります。まあ、派閥の関係があるので、諦めますが……パメラ薬師の後継者として、問題はないでしょう」



 そんな会話がお偉いさんたちの間であったり、この町の薬師ギルドの職員が色々と顔を青くしていたらしいが、私は知らなかった。



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