第82話 猫質?
師匠はそのまま、私の家に泊ることになった。師匠もいるので、ちゃんと防衛できるように魔法で結界を張ったりと対策はとっておいたのだけど……。
夜、様子を見に来たレオニスさんがわざと結界壊して、もう一度張り直しになった……。より、強固になるように指示もされた。いや、まあ……レオニスさんが入れない程強化したら、私のMPきついからね。ほどほどにさせてもらったけど。
翌日は、師匠が途中になってしまったからという理由で、再度授業をしてくれた。
そして、〈ロディオーラの水薬〉を完成させた。
薬草茶に、ロディオーラの水薬を混ぜることで、毒要素の部分を和らげることを目的としている。もちろん、素材同士が悪影響を与えることもない。
ただ、〈錬金試薬〉と〈ロディオーラの水薬〉のどちらを使うかと言えば、〈錬金試薬〉一択となる。
まず、兄さんについては、錬金試薬でさっさと体外に出してしまう方が確実である。そもそも、薬の成分を取り込んではいけない人なので、ロディオーラの水薬を飲む必要はない。
では、この薬を必要と推定される患者は?
錬金試薬であれば、効果がでる時間をずらすことで、的確に効かせたい部分に届く様になる。
ロディオーラの水薬は、時間をずらすことに加え、一時的な能力の向上および毒成分の抑制。どちらも完全ではないが〈毒草茶〉単体よりは、効果は期待できる。
「師匠、この薬の値段ですけど……」
「ああ。ロディオーラ自体が、出回らない素材で高価さね。難易度としても、上級薬となったから、かなり値段が高くなったね」
そう。師匠と一緒に作った薬、私だと失敗する可能性もあるくらいの難易度となっている。師匠が大家さんと作った薬は、中級中の錬金レベルで作れるので、作成難易度は2段階は低い。
値段について……おおよそ、1か月分の量で、ロディオーラの水薬は70,000~100,000G。夏の時期の場合は、花が咲いているので、より成分が抽出しやすく、秋から冬は成分が抽出しにくいのもあって、お値段は現状でも変動制。
高いよ! と大きな声で言えるお値段。
では、錬金試薬は? 30回分が800Gで作れる。こちらの方が、常備薬としては利用可能だろう。ただ、魔石が含まれているため、そちらの抑制剤についても、週に1回くらいは飲まないといけなくなるらしい。
「これは、わたしの意地さね。実際に実用できる薬を私には作れなかった……それがわかっただけでいいんだよ」
師匠は、ロディオーラの水薬を見ながら、どこかすっきりした顔をしている。
昨日と今日の作業は、私に新薬の作成、素材を変えて同じ薬を作る方法、私に教えるため、すごく丁寧に一つ一つの作業を教えてくれた。ロディオーラの代替品は今のところないので、高額は変わらないけど……。
私のための授業であり、師匠の中では、すでに薬の構想は出来ていたと思う。その場で一から作ったわけではない。
兄さんから届いたあの茶葉を最初に見せた時の苦り切った顔。なんらかの因縁があったのが、少しでも解消されたのかもしれない。レシピの登録については、もう少し調べたあとにするらしい。登録する場合には一緒に連れていってくれることになった。
「おや、また誰か来たようだね」
「師匠は此処にいてくださいね。様子を見てきますけど、いいというまで、来ないでくださいね?」
普通の客の可能性もあるけれど、昨日の今日で、店での方からの物音なので、危険な可能性もあるので、師匠に念押しをしつつ、上にあがる。
一応、昼間、外出していない時は、結界を解いてる。流石にずっと張り続けるのは、MP消費も大きいけど、精神的に疲れてしまうので。二つの作業を同時にって、きつい。
さて、上の部屋の様子を見に来たが、人の姿はなかった。
店のカウンターに置いてあったのは、一通の手紙。
『可愛いペットは預からせてもらったわ。返して欲しければ、パメラのばばぁと一緒に指定の場所に来なさい。 クリスティーナ』
馬鹿かな? 罠だという事はわかる。ただのペットと、国宝級の存在である師匠を秤にかけて、連れていく馬鹿がいると思うのか。
追い詰められたとはいえ、私と師匠の二人呼び出す。これが罠だということもわかるが、それでも馬鹿すぎるだろう。
目的に師匠が入った以上、大事なのは師匠の身だろう。相手方に渡すわけにはいかない。安全な場所にいてもらう必要がある……。
少々悩んだ後、地下室に戻る。手紙は隠しておく。師匠には悪いけど、教えない方がいいと思うから。
「どうしたんだい?」
「えっと……扉をあけた瞬間にモモが出ていっちゃいまして」
「おや……珍しいね。あの子猫は賢い子だと思ったんだが」
「ちょっと、まあ……昨日も師匠に任せて放置したり、今日も師匠と地下に籠ったので、構ってもらえず拗ねたのかと……師匠、ちょっと探しに行ってくるので」
作業はすでに終わっているので、ここで中断を伝えても、問題はないはず。モモを探しに行くということにして、師匠には安全な場所にいてもらいたい。
「そうかい? ……手伝うことはあるかい?」
「………………じゃあ、モモが冒険者ギルドにいるか、見に行ってもらってもいいですか? 私は教会に行ってきます。マリィさんか神父様に構ってもらいに行った気がするので」
「……構わないよ。ついでに、レオ坊の顔でも見てくるさね」
師匠はやれやれと言いながらも、冒険者ギルドへと向かった。それを確認してから、教会の方向へ行く振りをして、町を出る。
指定された場所は、西門から町を出て、人通りが少なく、木が生い茂っていて、目につきにくい場所。
門から出たら相手方から見える可能性がある位置。
まずは、町の中から生命探知と魔力探知で人数だけでも把握しておく。また、20人とかいるようならお手上げなので、増援を頼むことも検討するけど……。
でも、調べたところ、7人……とモモと思われる小動物の反応。
ここに、師匠の元弟子であるクリスティーナがいるとして、相手は6人。
相手のが、間違いなく強いだろうけど……工夫次第では、なんとかなりそうな気もする。兄さんのような視力があれば、相手を確認できるんだけど、それは難しい。
前にぼこぼこにされた時のことを考えるなら……あのリーダーらしきナルシストはいる。あいつが貴族の支援を受けていると言っていたし、師匠と敵対する冒険者なんて、そうそういないので、新しく別の人が薬師ギルドに雇われた線は低いだろう。まあ、他の地域から来た冒険者が増えてはいるから、無くはないけど……。
想定としては、ナルシスト。あと、ナルシストの横にいた女二人もいるかな? 一人はヒーラーっぽい人だから、絶対に側に置きそうだし、もう一人の女性も対抗心から傍にいるとしたら……3人は確定。
あとは、パーティーとして行動しているなら、バランスの関係でタンクと斥候とかになるのかな。
私をぼこぼこにしてきた下っ端っぽいのがいたら、リベンジはしたいけど……。とりあえず、相手を想定をしつつ、すでに敵対している連中だし……猫質を取って脅している時点で、本気で相対するしかない……いこう!
本来は許されてないのだけど、馬車用の裏門から外に出て、西門側を見張っている相手の裏側にまわっていく。
相手に見つかった状態では、奇襲にはならない。
「う~ん?」
気配を消して近づいて様子を見るが、予想通り、初老のわりに厚化粧のおばあさん……クリスティーナ(仮)として……ナルシストにヒーラーに女魔導士、タンクと、私をぼこぼこに殴ってくれた下っ端男、ここまではいい。想定通り。
もう一人がわからない……この前はいなかった。それに……なんか、ヤバい雰囲気がある。あ、目があった……けど、笑ってる。敵意を出さないし、相手に知らせるつもりもないらしい。
逃げるか……そう思った瞬間に、ちょっとだけ直感が発動した。どうやら、このまま仕掛ける方が正解らしい。まって、仕掛ける方が、危険がないってどういう状況?
「……佇まいからも、冒険者じゃなくて、貴族に仕えてる人かな」
あの人は、中立。いや、まあ、あちら側の人間ではあるけど。こちらに気付いても何もしないということは、伯爵家との連絡係とかであり、手出ししないのだろう。
そして、目的としては私を見定めるとかかな? これで仕掛けない方が危険っていうのはそういうことだよね……。
少し悩むが、このままでも何もいい事はない。
よし、行こう!
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