第78話 パーティー離脱?


 とりあえず、ある程度の薬の値段を考えたので、さくっと〈調合〉をして、納品に行こう。

 前回、冒険者ギルドに納品したのが6日前、だいぶ余裕があると聞いてるので、安定供給できる体制になっているはずだけど。不足も出ているかもしれないし……そろそろ、また動きがあったかもしれない。

 冒険者ギルドとは足並み揃えておきたいところでもある。ついでに、レオニスさんの顔を見てこよう。なんだかんだと、国境山脈へ向かうときから会ってない。

 


「おう。元気そうだな」

「はい。納品に来たんですけど、なにかあったんです?」

「ああ。少しばたばたとしているな……まあいい、ちょっとこい」


 ギルドでは慌ただしそうに、マリィさんが色々と書類をまとめていて、エルルさんが急ぎの対応で指示を出していた。受付嬢はヴィオラさん一人で対応……が、大変なためか、レオニスさんも受付をしていた。でも、みんなレオニスさんの方に並んでない。…………いる意味ある?


 そして、私を見つけると「後を任せた」と連れて奥に行く……仕事中だろうにいいのだろうか。



「レオニスさん、何があったんです?」

「お前を呼んだことか? ギルドのことか?」

「先にギルドですかね?」

「ギルドは、少々珍しい魔物が目撃されたせいだな」

「へぇ……危険な魔物なんですか?」

「そうだな。それなりに危険で、警戒を呼び掛けるためにバタバタしている。目撃情報だけで、被害が出ていないのが逆に面倒でな。お前も町の外に出るなら警戒をしとけよ……お前の実力的には厳しい」


 あれ? 本当に危険な魔物ということだ。ソロであることを踏まえても、近場の魔物相手なら負けないくらい、それなりの実力はついてきたと思ってたんだけど。

 それでも、厳しいということは相当厄介な魔物とかかな。


 どうやら、冒険者ギルドでは、魔物に襲われたという情報があれば、簡単に討伐依頼を出せる。

 しかし、今回は遠くから見かけたという話だけで、襲われたという情報はない。生息地域を考えると人里近くまで来ることは珍しく、見間違いの可能性も大きい。

 ギルドとしては、現段階では、注意を呼びかけて、被害を防ぐしかないらしい。



「それで、裏に呼ばれた理由はなんでしょう?」

「……お前の冒険者証、確認してみろ」

「はぁ? …………ん? ……あれ?」 


 言われた通りに、冒険者証を確認すると、パーティーに加入していないことになっている。

 マリィさんに頼んで、勝手に所属を変えられない様に、兄さんの許可なしでは動かせない様にしたはず……だけど、今、私は、本当の意味でソロになっている。


「……いつから?」

「マリィが気づいたのは、今朝だそうだ。何があったかは調べているが、グラノスが隣の領、カエシウス街にてパーティーから離脱させたという記録は確認できた」

「兄さんに何かありましたかね……」

「普通に考えて、あいつがお前を外すことはあり得んだろう。それで、ここからが問題だ。お前がフリーだと、勝手に組み込まれる可能性があると以前に説明したな。すでに、グラノスの方から外されているので、手立てとしては、お前自身がパーティーリーダーになるくらいだな。これは、パーティーを解散させない限り新しく組み込むことは難しいので、手段としては有りだ。他のパーティーに入ることもできるがな」


 う~ん。これは、間違いなく、隣の伯爵家が仕掛けてきたという認識だろうか。

 貴族での動きが読めないが、ソロ、フリーにしておくことは危険というのはわかるのだけど。


「まず、私がまた、兄さん達とパーティーを組むことは可能ですか?」


 そう。ここが一番大きいと思うんだよね。

 私が加入届を出したとして、受理をされるのか。


「難しいな。少なくとも、グラノスがカエシウスにて手続きをしている以上、この町で加入手続きをさせることは出来ない。少なくともあいつが向こうで再加入の手続きをするか、ここに戻ってきてからだな」

「そして、その間に仕掛けてくるんですかね……。はぁ…………面倒くさい」

「だが、手を打たないわけにもいかない。お前が例の治療で忙しく、ギルドが希少魔物で混乱中のタイミングで、グラノスがパーティーを外す……どこまで仕込みかわからないが」

「わぉ……綺麗な詰み筋……意外とガチで狙われてる?」


 う~ん。でも、〈直感〉がいまだに動いていない。

 死ぬわけじゃないってこと? いや、もう少し働いてよ。危険がないと動かないのではなく、もう少し使いこなせないものか。


「兄さんが戻ってくる前に、加入させられるのは避けたいので、パーティーを組むのが一番早そう…………ちなみに、パーティーの合併はどうなります?」

「ふむ……お前が新しくパーティーを作り、グラノスのパーティーと合併するのは……まあ、問題ない。10人を超えない限りな」

「わかりました。ちなみに、脱退して、すぐに他のパーティーに加入できるんですか?」

「…………不審な点があるので、ギルドが調べるという名目で他パーティーへの加入を止めるとしても、5日程度だな」

「5日?」


 5日間は稼げるのか……。

 それなら、その間に仮パーティーを立ち上げるか。レウスを説得して。

 その後、レウスをパーティーに入れたままなら、兄さんに預けやすい。クロウとティガさんについては、意思確認してからかな。

 そもそも、冒険者登録してるのはレウスとクロウ? そこも、本人達からきちんと聞いてなかったな。



「ここから、カエシウスまでは、おおよそ4~5日かかる。パーティーの脱退を連絡するのは、向こうのギルドだから、その知らせがお前に届くまでは、本人が知らなかったということで、他のパーティーに勝手に組み込まれたことの抗議が可能ということだ。だが……」

「すでに聞いているのと……真偽を確認しようにも、貴族案件だと後手に回ってるので、厳しいんですかね? 兄さんとナーガ君の安否も不明ですよね」

「一応、二人とも所属はこの町のままだから、受付嬢なら記録を確認できるんだが……グラノスとナーガは4人パーティーになってるな。ついでに、お前が抜けた後にパーティー内の口座の金が半分近く降ろされているので、マリィの方でこれ以上動かせない様にロックをかけたそうだ。少なくとも、お前が稼いだお金を脱退させたから、自分の物にするのは筋が通らない。この件も含め、ギルドでは抗議をする予定だが……」


 マジか……。

 兄さん達には、ライチに持たせた手紙で、ラズ様に防具代を返すのにパーティーのお金使うとは伝えたんだけどな。その予定のお金が無くなってるのか。

 とりあえず、レシピ代に用意している私のお金使うか……


「この話、どこまで共有されてます?」

「ギルド長には報告したいところだが……今日は不在でな」

「タイミングが悪すぎる……ラズ様は?」

「一応使いは出してあるが……あいつも不在だ」

「うわぁ~……そこまで仕込んでるとしたら、すごく優秀」


 狙ってやったのか、偶然の産物か。

 少なくとも、見事に隙を突かれた形になってる。


「とりあえず、仮のパーティー申請出します。その上で、私が稼いだお金を分けることなく、勝手に離脱させたことへの抗議。兄さん以外が手続きを取ったことの確認を求めます」

「わかった……一応、パーティー名を付けてくれ。今回、パーティー名保留のせいで、かなり調べにくいとヴィオラから不評だったんでな」


 割と、冒険者でも名前が通ってくると異名が付くと聞いたので、その異名とか考慮して、そのうちパーティー名を考えようとか思ってたんだけど。

 兄さんとナーガ君っぽい名前か……白と赤……紅白?

 なんか違うな。う~ん。白い炎とか? 二人とも武器は炎だし、炎はナーガ君っぽい。



「え~……じゃあ、〈白炎の獅子〉で」

「……なんだ、それ?」

「白は私と兄さんで、炎はナーガ君です。獅子はレオニスさんの異名から」

「おい! 俺をいれるな」

「兄さんやナーガ君はレオニスさんを目指しているってことにしときます。〈暁の獅子〉のようになると願いを込めるってことで、獅子の名前借ります」

「……勝手に決めて、あいつらが嫌と言ったらどうするんだ?」

「レオニスさんが本気で嫌ならやめますよ? でも、二人が嫌がるのはあんまり考えられないような……」


 二人とも、多分、レオニスさんのことは慕ってる……慕ってるよね?

 師匠の事は二人とも好きだし、多分、レオニスさんも好き、じゃないかな? いや、でも正直、慕っていても、言わなそうな気がする。


「……パーティーメンバーは、レウスか。もう一人は? あと、治療してる奴もいるんだろう?」

「とりあえず、やり方が分からないんですけど、彼ら3人は私の奴隷にする予定です。今回の治療費が払えないので。ただ、クロウは冒険者をやる元気はないみたいな発言があったので、メンバーに入れる必要ないかなと。ティガさんは、目覚めたばかり……いや、もう結構時間は経ったんですけど、明日、本人と話をしてからかなと」

「ふむ…………借金奴隷か。ディアナに聞いてみるか? 家に居ると思うぞ」

「詳しいんですか?」

「ヒーラーだったからな。多少、頼まれて回復魔法をかけて欲しいと依頼があった時に、その手の契約を結んでいたはずだ」


 なるほど。

 確かに、冒険者やっていれば、他の人を治療することも出てくるのか。ちょっと話を聞いてみようかな。


「えっと。じゃあ、お邪魔します?」

「ああ。問題ない。俺はまだ業務があるから、適当に家に行っててくれ。俺も少し話があるから、勝手に帰るなよ?」

「は~い。じゃあ、お邪魔してます。……パーティー申請と兄さん達の安否確認、お願いしますね?」

「お前も気を付けろ。気は抜くな」


 わかってます。流石に、自分の身を狙われていることも……ここまで綺麗な道筋で追い立てる貴族の力を侮ることは出来ない。

 自分の身は、自分で守る。兄さん達も……多分、平気だと信じる。後は……一人にならないとか? うん、対策が難しいな。

 

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