第73話 治療
クロウと共に、教会のベッドに寝ているティガさんを〈観察〉、〈診療〉してみるが、朝の様子と変わっていない……しかし、状態異常回復〈リフレッシュ〉をかけながら、魔力を流して、通りが悪い場所を探すが増えていた。
悪化しているということだろう。
「3か所……」
「ん? 6か所だろう?」
「え?」
「ここと、ここと…………」
私が滞りの箇所を数えて、口にすると……横でクロウが訂正をいれた。私が魔力を流して、滞っている箇所を確認していたのが、わかるらしい。
一つひとつ、場所を指で指定していく。……〈鑑定〉をかけてみるが、私には分からない。魔力を通して、僅かに違和感があるのが3か所を最初に指差し、その後に私がわからなかった箇所を指さす。
クロウには他にもあるように見えるらしい。
「見えてるの?」
私には魔力を流しても違和感がなく、はっきりとした滞りがあるわけではないが……クロウは確信している。解毒することに必要なのは、腫瘍となってしまった箇所の把握。腫瘍部分を魔力でこじ開けて、薬が通るようにするのが、治せる可能性を上げる。
「なんで……」
「……鑑定、解析もお手の物、嘘まで見破る。役に立つだろう?」
自分の目元を指さしながら、にっと笑う。
異邦人であるなら、ユニークスキルを持っていても可怪しくはない。
私には見えないモノが見えているのは間違いなさそう。だが……。
「…………ユニークスキルの事は、人に教えちゃだめだよ、絶対に。何が何でも、隠しなよ」
「あんたが、異邦人であることを隠すのと同じか?」
「…………強制するつもりはないよ。ただ、良いことにはならない」
「そうかい。だが、俺はこの力をあんたに捧げたいんでね。受け取ってくれるか?」
んんっ?
どういうこと? 譲渡とか、出来ないよね?
そもそも、極系ではないユニークスキルはどうやったら覚えるのかも、知られてないよね。
「あんたに救われた命、あんたに返す。この力はあんたのためだけに使うってことだ」
「いやいや。重いよ、要らないから」
「薬師のあんたなら、必要になる能力だろう? あんた自身も多少使えるようだが、治療にも、薬を作るにも、役に立つはずだ」
クロウは真剣な表情をしている……と思ったが、そんなこともなかった。
なんだか、唇の端を上げて、笑いを堪えつつ、こちらを観察してる。
こちらの動きをみて、焦っているのがおもしろい……ってところか? 揶揄われてる?
「役に立つのはそうだけどね! こんな時に揶揄うのやめてよね。…………それよりも、6つ見えるんだよね? 他にわかる事は?」
「いや、あんたは何で3か所だと思ったんだ?」
「魔力を流して、3か所だけ滞りがあるから……追加で言われた箇所は魔力は流れてる。魔力を流すことで、腫瘍を突破させたいのだけど……残りの箇所が特定できない」
そう……魔力を体に流しても滞りがあるのは3か所しかない。
だが、自称特別の眼を持っているというクロウは、6か所であることを確信している。魔力を流しても効果はない。
「そうだなぁ……あんたは魔力以外も人の身体を流せるか?」
「…………多分。やってみる」
魔力以外となると……気力か。やってみたことはないけど……。たしかに、あり得ない事では無さそう。
魔法をかけて、魔力を流す要領で、〈気力操作〉をしながら、気力を流してみるが……これが魔力よりも難しい。
それでも、ゆっくりとだが、少しずつ身体に巡らせていく。クロウが隣に立って、おおよその気力の流れを指で示していく。私が流してる魔力や気力もその目で追えるらしい……。感覚で流しているのが、目安が出来て、少しやりやすい……。
しかし……クロウのユニークスキル、常時発動ではないのかな?
クロウの様子をちらりと見るとこめかみから汗が流れている。おそらく、クロウもSPかMPを消費して、身体の中の魔力や気力を見ているようだ。
「その調子でゆっくりでいい。もう少し進むと、一つ目があるはずだ」
「…………………あった。なるほど…………滞りだね。〈気力操作〉を続けるから、指示してくれる?」
「わかった」
魔力を流した時と同じ、滞りが確認できた。そして、その先にも気力を流していけば、他の2か所についても見つけることができた。
「少し、このまま流して様子を見るから……ありがとう、休んでいいよ」
「必要なら声をかけてくれ」
「わかった」
そのまま、ゆっくりと全身に周るように右手から気力を流し……慣れてきたところで、左手からも魔力を流して、魔力と気力を患者の身体に巡らせる。
しばらくすると、患者の顔色が少し変わってきた。先ほどよりも血色がよくなっている。
「魔力と気力、どちらも滞りが出来ていた……これって、魔法だけでは、完全に消せないってこと?」
「さてな……しかし、流すことは出来ても完全に消えたわけじゃない」
「クロウ。自分の身体も見えてる?」
「それは出来んなぁ……だが、俺の方は薬の効果か、痺れは消えてきているな」
「……気力と魔力、流し込んでもみてもいい?」
「構わないが……だいぶ、MPもSPも減っているようだが?」
私のステータスを鑑定したのか、それとも常時発動しているという事か。だいぶと言っても、半分も減っていない。試すくらいなら、ほんのちょっとだけだしね。
しかし、勝手に見るなという意思を込めて、じろっと睨むと、クロウは両手を広げて片方の肩を上げて、首を傾げた。
見える瞳というのは便利だけど、それはそれで大変そうだ。嘘まで見破れるらしいし、私がそんな能力持ったら、人間不信でおかしくなりそう。
「手、貸して。そこから流すから」
「ああ」
両手を握った状態で、魔力と気力を同時に流していくが、クロウの身体は全体に回るのに時間はかからなかった……。
「っ……」
しかし、クロウの表情を見るとなんだか、変な顔をしている。
ついでに、先ほどよりも汗を掻いていて、頬も赤くなっていて、目が泳いでいる。なんか変なことをしたのだろうか?
「どうかした?」
「身体の中に、自分の感覚とは違う何かの感覚……わかるかい?」
「わからない……気分が悪いとかではない?」
「……むしろ、気持ち良くはあるんだが……変な気分になってくるなぁ。身体が火照ってくる」
「ふ~ん?」
まあ、気持ち良いならいいか。気にしてもしょうがない。
クロウの手を放して、ティガさんの方に戻る。まず、診療前に少しは状態が良くなったのであれば良かった。血流が良くなる感じなのかな? 魔力も気力も身体に流れているらしいからね。
そして……ここで、薬を取り出す。まずは、錬金試薬。これは薬の効果を飲んでから、数時間後に発動させる物で、液体。次に、血清。これも同じく液体で作成をしている。
理由は、患者に意識がないので……固形物では飲み込ませることが出来ないからだったりするわけだが……。
薬は出来ている……そして、それを飲ませる方法。
これが、結構面倒な問題だったりする。
「とりあえず……これが錬金試薬と血清。渡すね?」
「ああ、急にどうした?」
二つの瓶を手渡して、距離を取る。
これについても、事前に話をしなかった案件。正直、私も知らなかったので……出来た時点で、師匠から聞いた話なので……ごめんなさい。この世界の常識をきちんと知らなかったのは、色々と問題があった。
「飲ませて」
「……普通、注射で体内に注入するものだろう」
「……注射器がね……ない。あったとしても、医療知識無いから私が注射できる訳じゃない…………さて、問題です。意識が無い人に薬を飲ませる方法とは?」
「…………あれか? もしかして、なんだが……口移し、か?」
そう……いや、他に方法があるのかも、分からないけれども。
少なくとも、師匠の話では、口移しで飲ませているそうです。まあ、飲んでくれないと困るからね……口に注いでも、飲まずに流れてしまったら意味が無い。
「師匠が言うには、意識がない患者の場合、そもそも他に依頼してくる人がいるので、その人に薬を渡して、各自で薬を飲ましてもらっているそうです」
はい。昔、師匠がレオニスさんを救った時も、父(仮)が口移しで飲ませていたという話を聞きました。いや、会ったこともない父と世話になってるレオニスさんのそういう話って、どんな顔して聞けばいいのかわからなかったよ。師匠は懐かしいと言ってたけど。
実際、人工呼吸とかだって、命の危険に瀕している状態で、キスがどうこうとか、そういうこと言っている場合ではないのはわかるんだけど……はい。
「ということで、よろしく」
「いや、まてっ、まてまてまてっ……俺が飲ませるのか?」
「治療行為の一環だとしても……私は、ちょっと、遠慮したいかな。……いや、だって、この先もこういう機会あるかもしれないわけで、あの時は……、この時は……、みたいに患者によって対応変えるのも良くないと思う。だから、まあ……仲間同士でお願いします」
「男同士だぞ!」
「あ、見られたくないのであれば、席は外してるんで」
「そうじゃない! あんただって、役得だとでも思ってやればいいだろう! ほら、見た目イケメンだぞ。中身も俺が保証しよう」
「いや、むしろイケメンだから申し訳ないんで……流石に、こう……医療行為に見せかけたセクハラは良くないと思う……あ、飲ませる時には気道を確保した状態でよろしく、それじゃ」
とりあえず、言い逃げして、部屋を出た。
レウスが居なくて、良かったのかもしれない。うん……。申し訳ない。
次からは……もし、次があった時には、薬を作る前に、事前の説明をするように心掛けます。ごめんなさい。
しばらくして、部屋から出てきたクロウは……いきなり頭にチョップをかましてきました。そして、空の瓶を渡され、本人は井戸へと向かった。
とりあえず、薬は飲ませたようなので、部屋に戻って、もう一度、ティガさんの様子を確認する。
「……とりあえず、容態に変化なし」
「変化がないことのが凄いんだがな……」
「神父様? ……どう見ます?」
「血清を飲ませたなら、他に出来ることもないだろう。仲間なら、聖職者として、神に祈るように勧めるが……嬢ちゃんにとっては、患者だろう? あの坊主みたいに信心深くもないようだしな」
なるほど。……坊主って、ナーガ君かな?
うん。まあ、あまり……祈るとか、考えてなかった。
そう言えば、教会に何度も来ているのに一度も祈ったことがなかったかもしれない。
助かって欲しい気持ちは私にもある。祈るだけ祈ってみよう。
「ちょっと、祈ってみます。作法ってあります?」
「在るにはあるが……お前さんが気にする必要はない。好きなように祈ればいいだろう」
では……祈ってみようか。
「ティガさんが、どうか、助かりますように」
謎の神の像の前に行き……目を瞑り、合掌をして、祈りを捧げる。
いや、どうするのが正しいのか、分からないけど……。
「っ……」
「ん?」
礼をして、手を放した瞬間に、何だか、MPとSPが減った様な?
ステータスを確認すると、残り2割くらいまで、両方とも減っていた。治療のために使っていたMPとSPの値はそもそもの最大値が違うし、流した量も違うから残っていた量も違うのに。
現在はどちらも2割だけ残っている状態。
何が起きたかわからないので、神父様を見ると……驚愕の表情で小刻みに首を横に振っている。何だろう?
「えっと、何が?」
「いや……嬢ちゃん、身体に違和感は?」
「少し、MPとSPが減ってます……全て無い状態になったわけじゃないですけど」
「そうか……とりあえず、いいか? 今、この場では、何もなかった。それと、嬢ちゃんは、今後不用意に祈るのはやめておけ。……そのうち、きちんと説明するが、このまま、さっきの連れと一緒に帰るといい。患者は俺が看ておく」
「……わかりました。じゃあ、お願いします」
何が起きたのか、よく分からなかったが、真剣な表情で帰るようにと促されたので、従っておく。なにかしてしまったのだろうけど、何をしたのか、全然わからない。
まあ、あの様子では悪い事ではないのだろう。
「クロウ。とりあえず、彼は神父様が看てくれるから、私は家に戻るけど……体調悪くなるとまずいし、レウスと泊ってる宿まで送る?」
「俺の方は、問題無さそうだからな……送ってもらう必要はない。一応、あんたの家にレウスが戻る可能性があるから寄っていこう。その後、宿に向かう。それと…………俺にあんなことをさせたんだ、今後、絶対に患者同士で飲ませろよ? 絶対だぞ?」
うん?
まあ、そのつもりだけど。なんか、恨まれてる?
キスするなら、女の子が良いと言われてもね。まあ、「俺は女が好き」と宣言しなくても、別にそっちの趣味があるとは考えてないよ。
そして、家に戻ると……本当にレウスがいた。
師匠と話をして落ち着いたのか、なんだかすっきりした顔で、私にもクロウにも謝ってきた。私としては、特に謝られることはしていない。こっちがきちんと説明をしていなかったせいもあるといったが、レウスは「それでも、ごめんなさい」と言うので、「気にしないでいい」と返した。クロウは「お前がいないせいで」とちょっと怒っていたが、それは別案件だからレウスは悪くないと思う。
そして、師匠も、二人も帰っていったわけだが……その後すぐに、下の部屋から、呼ぶ声が聞こえて……来客の対応をすることになってしまった。
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