第68話 大蛇
モモの案内で、再び、山を登っていく。
しばらく向かうと、先に何かいるのは、〈魔力探知〉で確認が出来た。反応は一つ。
近くには他の魔物はいない。戦いやすそうな……木が生えていない、なだらかな場所を探し、そこで相手が来るのをまつ。相手もこちらに気付いていて、ゆっくりと近づいてきている。
そして、しばらくすると蛇型の魔物が現れた。
鑑定すると〈ギガントスネイク〉となっているが、それ以上の鑑定は撥ねられた。相手の方が強いということかな……。
全長は10メートル以上ありそうな巨大な蛇。まあ、流石に丸飲みはされない……。蛇って、口大きく開くから、あり得る……いや、多分ないよね?
個体として、キノコの森ダンジョンのボスに比べれば弱い。ダンジョンの雑魚に比べると強い。単独で倒すとなると……勝てないとは言わない………………油断すれば、危ない。
直感が少しだけ、発動している感じがする。
少なくとも例のクランよりは危険。でも、勝てないわけでは無いと信じて戦うしかない。
大蛇……チロチロと出してる舌とは別に、涎が近くの植物にかかり、じゅわ~という音を出して萎れた時点で毒持ち確定。
出来ることならば、戦いたくはない。
もうしばらくすれば、日が落ちて、完全に真っ暗闇。明かりがないと視界が確保できないこともあって、時間もない。
「にゃ、にゃあ、にゃあ!」
「わかってる……倒すしかないんでしょ」
モモが全身の毛を逆立てて威嚇している。
戦うつもりはあるようだけど……モモでは、歯が立たなそう。もっと成長してからでないと……あの、母豹のように強くなるんだろうか。
「さてと……」
剣を構える。盾は……使っても意味がなさそう。動きが遅いと、巻き付かれて危険そうだ。盾は外しておこう。
小さめの盾だから、大蛇の口の方が大きい。普通に、噛み付き防止の役に立つことはなさそう。毒持ちだが、近づいたら危険というよりは、噛まれたらアウト。
胞子とかを纏っているわけではないので、状態異常耐性〈レジスト〉をしても無駄だろう。
「…………毒持ち……ねぇ……」
魔法主体に戦った方が、噛まれたり、巻き付かれたりはしないだろう……けど、魔法を撃っても避けそう……見たところ、素早い動きだ。
こちらが逃げるそぶりを見せれば、一気に襲い掛かりそうだ。
「シャララ……」
なにより、めちゃくちゃ好戦的。たしん、たしんと後ろの部分で音を立て、威嚇してきている。逃がす気はないだろう。
「モモ。丸飲みされちゃうかもしれないからフードに入ってて」
「にゃあ!」
大蛇と相対しながら、モモを呼ぶと大人しくフードの中に入った。戦っても勝てない相手とは戦わない、頭のいい猫なんだよね。飼い主は戦わせるけど……。
なんでこの蛇を倒して欲しいのかはわからないけど……誘導したのはモモだ。自分も危険だとわかっているのに誘導したからには、勝てると思っているのだろう。
逃げるという選択肢はない。油断しなければ大丈夫……多分。
「シャアアアア!!」
様子見の噛み付き攻撃を避けてから、魔法を唱える。
「光〈ライト〉!」
剣を構えた状態で、辺りを照らす魔法を唱える。暗くなってからよりも、最初から照らしておいた方が、環境が変わらないからいいはず……MPを消費するとはいえ……危険な状態にならないように万全を期す。
光で照らした、大蛇をよく見ると、ひっかいたような傷がいたるところにある。
すでに他の魔物と交戦していたから、興奮状態、かな? ……面倒だ。
「さて、と……水壁〈ウォーターウォール〉。……氷結〈フリージング〉」
手始めに、3メートル四方の水の壁で蛇を覆い、その壁ごと凍らせる。
変温動物なので、温度差で弱ってくれればいいけれど……。
「……パリン……シャララ!」
鞭のように尾を撓らせて、簡単に氷の壁を砕いてしまった。
なんだか、大蛇に馬鹿にされた気がする。こっちだって、小手調べで本気の攻撃じゃないんだけど?
様子見の攻撃をあっさりと見破られたとはいえ、これだけではない。まだ、MPも沢山あるしね。
「……森だから、火魔法使えないしな……雷魔法も、近くに木が多いから使いにくいか」
水で冷やして、燃やすとか……変温動物には効果ありそうけど…………山火事になるとマズイので、やめておく。雷もね……高いところに落ちやすいから、木が沢山あると狙いが難しい。風、土、水、氷あたりがいいかな。
嚙みつこうと飛びついてきた大蛇を避けながら、腹の部分に剣を突き刺そうとするが……鱗が固くて、突き刺さらない! いや、それどころか、ぱきんと音を立てて、剣が折れた!!
「嘘でしょ!?」
愛用していた鉄剣だったんだけどな? 確かに、そこまで強い剣ではない。攻撃力も兄さん達の使うものに比べると落ちるから、付与はしてなかったけど。ちょうどいい長さで気に入っていたのに……。
キノコの森ダンジョンでは普通に使えたのに……折れるほどの硬度…………そんなにあの鱗固いのか。
引っ搔いた痕が少し追加され、こっちの剣は折れたので、蛇の優位?
まあ、武器はまだあるけど。こっちの方が、本命。兄さんからもらった、ミスリルの短剣を取り出す。
「ふぅ……〈属性剣・氷〉」
リーチがないので、主戦では使っていないけど、こっちでも戦う練習はしている。
さらにこっちの方が魔力は通しやすい。魔力を纏って攻撃力を上げないと鱗を突き破ることは出来ないだろう。
ここからはMPをずっと消費することになるので、短期決戦がベスト。
尾での攻撃を避けつつ、かみつき攻撃は距離を取って、対処しながら様子をみる。剣が折れたのでこちらの攻撃は効かないと考えてるのか、舌をチロチロと出しながら、ゆっくりずるずると距離を縮めてくる。
「風移動〈エリアルブースト〉!」
風魔法を使って、自分の移動力を上げて、一気に近づいて短剣で斬りかかる。
「シャァアアアア!!」
蛇に一閃。ミスリルの切れ味に、さらに剣に纏わせている凍てつく魔力で、蛇の傷ごと凍らせる。
のたうち回る蛇を観察していると、さっきよりも蛇の動きが鈍くなった。急激な体温変化のせいだろう。
だが、その長い身体を鞭のようにして、尾でこちらを薙ぎ払うように攻撃され、吹っ飛ばされる。
「いたたっ……」
幸いなのか、吹き飛ばされた先は何もなかったので、尻もちをついただけですんだ。相手の大蛇も私を吹き飛ばした後、体勢を整えたらしい。
第二ラウンドの開始だ。
毒による噛みつきと長い尾の巻き付きに気を付けながら、攻撃を避けては魔法剣で氷や火を纏わせて、温度差による身体の負荷を狙って戦っていると、少しずつだが、固い鱗が剥げたりと、大蛇の方もダメージが蓄積し始め、動きがさらに遅くなってきた。
「…………行くよ……土壁〈アースウォール〉!」
此処が決め時ということで、魔法を撃つ。
流石に、こちらも出し惜しみしているとMPが減ってきているので不利になるので、一気に叩き込む。
大蛇の周囲に先ほどよりも分厚く、水ではなく土で壁を作り出す。
先ほどが水壁が10センチくらいの厚さだとしたら、土壁は厚さで50センチ。大蛇を囲う壁の長さも高さも5メートル四方の壁で覆い、蛇が驚いている間に魔力を込めて硬度を増していく。
「ジュラ……」
様子見を止めた蛇が土壁を尾で攻撃をしても、魔力を流して硬度を上げたので壊せない。とはいえ、蛇は木を登るのも得意だったはず。土壁を登ってくることの無いように、さっさと次の魔法を放つ。
「水〈ウォータ〉!!…………氷結〈フリージング〉!」
土壁の中にいる蛇ごと、大量の水を流し込み、土壁の中を巨大プールにして、さらに氷魔法で表面を凍らせていく。
大蛇が中で暴れているようだが、壁は壊せていない。動きが鈍った上に、水中では威力が出せるわけがないのは予想通りだった。
「よしっ……今のうちに魔力を溜めて……」
土壁のプールの水が凍り付いて、蓋になっているが、水のすべてが凍ったわけではないので、まだ蛇は生きている。出てこれないだけだ。
ずっとこのまま氷魔法で凍らせていけば、溺死若しくは凍死すると思うけど……そのまま維持し続けるとMP消費が辛いので、ここは高火力の魔法で一気に仕留めるしかない。
属性剣とプールに注いでいた魔力を止めて、次の魔法のためにもう一度魔力を溜める。
「ふぅ……」
魔力を溜めて、準備が出来た。
その状態のまま、袋から爆発玉を取り出して、土壁に向かって投擲する。壁に玉がぶつかると爆発。そこから亀裂ができ水漏れを発生させる。
「……こいっ…………風切断〈ウィンドギロチン〉!」
「……ジュ…………ラ………………」
水と一緒に、蛇がその穴から脱出しようと壁から頭を出した瞬間に、上から溜めた魔力を最大限に乗せた風魔法で頭と胴体を切断をする。
大蛇の頭と胴体が離れ、しばらくすると完全に動かなくなった。
「ふぅ…………きつっ……」
高火力の魔法を放つには魔力を溜めないといけないが、ソロの場合は難しい。その時間の確保は、工夫次第。閉じ込めてから、一気に攻撃という考えてあった方法が綺麗に決まった。
今回はなんとかなったが、MPが切れれば終わりなので、こういう戦いはしたくない……。
とりあえず、レベルが二つ上がった。一人で倒したので経験値が美味しい……使った魔法が軒並み上がったのは珍しい、かも?
破壊力よりもたっぷり練りこんだ魔力が良かったのかな? 手軽に水を凍らせるだけの方が使いやすいので、これからも活用していこう。
「にゃあ~」
「ちょとまって…………ゴクゴクッ……」
「にゃにゃあ!!」
袋からMPポーションを飲み干し、MPを回復させたところで、モモが騒ぎ出す。
フードの中から飛び出て、さらに山の奥へと進もうとしている。まだ、奥に行きたいらしい。
「モモ。これ以上の戦闘は無理だよ?」
「みゃみゃ!」
わかっているのか、わかってないのか……元気に返事が返ってきているけど、通じ合っていない。戦闘は無理。ついでにもう休みたい。
今まで頑張って戦い、半分以上のMP消費をした上での薄氷の勝利。なんとか勝ったんだから休ませて欲しいんだけど?
なかなか先へと向かおうとしない私に対し、みゃお~と先で呼んでいる。
ため息を一つ吐いて、「わかった」と返事をする。
蛇の亡骸を魔法鞄にしまい、土壁を完全に砕いて、元の通りとまではいかないが、とりあえず地面をなだらかにしておく。氷については……まあ、いずれ溶けるだろうし、わざわざMP使って溶かさなくてもいいだろう。
「はぁ…………今日は野宿かぁ……」
すでに暗くなってしまった山の中で一晩過ごすことになる。平らな場所を探そうにも、真っ暗。
魔物に警戒しないといけないから、ゆっくり寝る場所を確保するなんて難しいが……うちのペットはお構いなしに ずんずんと奥へと進んでいってしまう。
仕方なく、後ろからモモに着いていき……ついた先、目の前には洞窟? 鍾乳洞?
モモはここに入っていきたいようだ……危険は、ない? 直感さんは働いてないので、大丈夫ということだろう。
しかし……気のせいでなければ、ここ、さっきの蛇の住み家じゃない?
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