第67話 国境山脈
王国と帝国、二つの国は接している国境の部分は、とても長い。
王国は、他にも共和国と接しているが、こっちの国境はすごく狭いらしい。その分共和国との行き来は、しっかりと管理できているが、王国と帝国には密入国も結構あると言われてる。
王国と帝国はあまり仲が良くないので、相手国に逃げ込むことは多いらしい。実際にどれくらい密入国しているのかまでは知らない。
帝国との国境の大部分が国境山脈と言われる高い山が連なる山脈と、大陸一長い大河である。
実際に国境を行き来できる場所は限られていて、行き来できる場所には関所がある。関所以外から相手国に入れば密入国。捕まったら、罰金刑。たまに、返還申し入れもあるらしい。
罰金額は国を移動する場合の通行税の20倍とのこと。通行税がいくらか知らないので、高いのかどうかは判断できない。
国境の大河は、この大陸で最大の川であり、要所要所にいくつか橋がかけられている他、季節と場所によっては渡れる箇所もある……らしい。見たことはないので、詳しくは知らない。
町から見える山脈の高さは……それなりの高さはありそう。……山登りとかしたことないから、これがどれくらい高いのかはわからない。
これを山越えするのは大変だと思う。
ただし、かつては王国の領土も帝国に属していたため、行き来できるようにと、元々あった鍾乳洞を整備した隧道……トンネルがある。今でも使えるため、山越えするより楽だが……トンネルは通行税と別に利用料もかかる。
利用するのは、ほぼ冒険者。稀に、商人。特に冒険者相手に商売している商人らしい。
私は国境トンネルには用はないけど、そこへ向かう道は整備されてるので使わせてもらう。
ただ、歩いて向かうのが結構面倒ではある。移動手段がね……いや、自転車とかがあっても走らせられないくらいの悪路なんだけどね。
一応、馬とか? を使う冒険者もいるらしい。レンタルするにしても、町から町でないと貸してもらえないと聞いてるので、結局は自分の足で歩くしかない。
朝、町を出発して、歩くこと10時間……もう少しで山脈のふもとまで辿りつくのだが……。すでに真っ暗闇になっている。これ以上進むことは諦め、夜営の準備。
土魔法を使って、周囲から少し高くなるように高台を作って、さらに、大きなかまくらのようなドームを土魔法で作る。その中に入って、テントを建てておく。
かまくらの入口には、板を置いて、空気は入るが小動物が入ってこない、中の明かりが漏れないようにしておく。
これで、大体の魔物の対策も取れるし、危険な場合は教えるようにモモに言っておく。何だかんだ、私よりも聴力がいいから、広範囲の索敵ができる。変な音に気付いたら教えてもらうだけで、こっちの準備が間に合う。
ただ……子猫だから、寝てること多いんだよね……夜、危険だからと教えたけど、本当に役に立つかは不明だったりする。
ライチも今はナーガ君のところに戻ってしまっているので、モモを頼るしかないわけだが……不安は残る。
「にゃ~」
「頼むよ?」
暗いとやる事がない……焚き火をしてもいいんだけど……一人だと、居場所を教えてしまうだけなので、止めておいた。
そして……一晩過ごしたわけだが。
魔物とかの心配はなく、一晩過ごせたけども……寒い。いや、まじで寒い……持ってきた寝袋程度では、寒さは凌げなかった。
途中で、かまくらの外にでて、昼間に狩った毛の長い鹿の魔物の皮を〈解体〉で剥いで、魔法で乾かして、寝袋の下に敷いて、さらに上にも掛けたよ。凍えるかと思った。
ダンジョンでは気候が安定しているみたいな話をしていたけど、本当だった。冬の夜の冷えは、舐めてはいけない。
そして、早い時間に寒くて目が覚めたので、陽が上る前にさっさと出発した。
山脈に到着して、そのまま中腹まで登り、素材を採取する。
近場で取れる素材とは別の木々や植物があって、これはこれで楽しい。〈鑑定〉を駆使して、どんどん採取をしていく。
〈解析〉もしていきたいとこだけど、魔物にいつ襲われるか分からない場所でのんびりもできないので、諦めた。〈鑑定〉して、採取していない物を見つけたら、採取。持ち帰った物を後で、ゆっくり〈解析〉しよう。
新しく購入した鉄の斧。これがあると根っことか茎とかの伐採も捗る。
これは武器としても一応使えるけど、専ら採取用にする予定。切れ味は鋭く、振りやすい……いい感じだ。ただ、これを使っている間に、魔物の襲撃がきたりすると持ち替えが面倒だった。
いや、採取するからって、魔法鞄に武器しまった私が悪いんだけどね? いくら邪魔になろうと、武器は腰に下げておかないとだめだった。
ちなみに、つるはしも用意したけど、特に岩とかは採取する予定がないので、出番は先かな。
冒険者ランクがDまで上がると、鉱石が沢山とれるダンジョンに行くことができるので、その時に出番となる予定。
鉱山のダンジョンは薬師として役に立つ素材は採取できないらしいけどね。錬金にも使えないっぽいが、通常の冒険者なら稼ぎ場らしいので、いずれは行ってみたい。
そんなこんなで、国境山脈……山を探索していたわけだが。
これが、結構辛かった。山道……全く舗装されていないわけで、ただでさえ斜面で足場が悪いので、気を付けないと歩いてるだけでも危険。
だが、魔物も出てくるので、平地よりも神経を尖らせ、慎重に……正直、平地の3,4倍はきつい。魔物自体も、近場に比べると強い……まあ、個体としてはキノコ森の迷宮ダンジョンの方が強いので、落ち着いて戦えば苦戦はない……。斜面に何度か足を滑らせてしまったりはあったけど、概ね、戦えていたと思う。
ただ、やっぱり基礎攻撃力が弱いなとは感じる。覚えたての属性剣で魔法を纏わせればいいのだけど……MPはできるかぎり温存。
何かあった時の切り札だからね……。
今回、狙う素材は〈ロディオーラ〉と言われる、岩場に自生する花。ただし、今の時期は、花は咲いてない。根っこごと持ってくるように頼まれ、何株か採取したいとこだけど……見つからない。
いや。わかる……多分…………これ、高山植物なんじゃない?
現在の位置はだいたい山の中腹だと思うけど、木々が生い茂ってるんだよね…………。
山で岩場に生える…………もっと、登らないと岩場は、無い。
気合を入れて、登っていく。
見つかりませんでしたっていう訳にはいかないから。頑張って登ったよ。山登り……きついなぁ。
「きっつい……眺めが良いとかも、この辺だと微妙だし……空気がきれいとか……あんまりわからないんだよね」
愚痴りながらも山頂……ではないけれど、上へ上へと登っていく。
そして、何とか上った先で、無事に採取できた〈ロディオーラ〉。何だか甘い香りのする草。
近づいて採取をする前……見つけた瞬間に、走り出したモモが、食べてしまった…………葉の部分をね。ゴロゴロと喉を鳴らしている。……気に入ったらしい。草も食べるんだね。
仕方なく、他の株を採取。
モモには、これは貴重なので持ち帰った分を食べない様に教える……。「にゃ~」と返事しているけど、心配になる。本当に、食べないでね? また取りに来るの嫌だからね?
「にゃふっ」
幸いなことに、周囲を探索をすると、それなりの数が生えていたので、いくつか株ごと、採取しておく。
他にも、高山植物を何種類か採取してから山を下りることにする。
すでに、昼の2時を超えている。中腹からここまででも、4時間はかかっているので、これ以上は危険。ゆっくり探索をするのは諦め……というか、ちょっと身体が怠かったりと、高山病の危険もありそう。
本当は、休憩してから下山がいいんだろうけど、余裕がない。
朝の5時には移動開始して……登りよりは時間がかからない可能性はあるけど、すでに危険な時間。
明るいうちに降りないと山で一晩過ごすのは大変……と急いでいたが……。
ようやく、中腹まで戻ったかなと考えていた時に……。
突然、連れているモモが吠えた。
「NYAAAA!!」
普段の鳴き方とは違う。これは遠吠えとか、そんな感じ。鳴くではなく、吠えている。
初めて大きく吠えているところをみた。いつもはやんちゃで甘えたりと、みゃあみゃあ鳴くけれど、吠えることはなかった。
こちらの言ってることもある程度わかっていて、何だかんだとこの山脈での散策中には魔物を警戒してくれたり、植物を探してくれたりと役に立っていた。
評価が鰻上りになって見直していた中で、急に吠え出したので、驚いた。
「モモ? どうしたの?」
「にゃ!!」
軽く吠えるときには魔物が近づいていたりするので、周囲を警戒するが近くには魔物の気配はない。
〈魔力探知〉を使って、〈気配察知〉より範囲を広げるが、特に異常は感じない。
首を傾げていると、モモがこっちこっちと言うように前に走り出し、にゃあにゃあと呼んでいる。
道案内するように駆け出すモモを追いかけて、再び山を登っていく。だいぶ調子が戻ってきたのに、また登るのか。今までと違い、モモが先頭に立ち進んでいくが、割と険しい道なき道……。
すいすいと登れるモモに比べると、こっちの体力がじりじりと減っていくと感じるくらいにきつい。何故か魔物が出てこないので、なんとかついていくけど……一体どうしたんだろう?
「モモ。これ以上行くと帰れなくなる。もう、暗くなるから夜営の準備しないと」
「にゃにゃ! にゃあ~!」
日が落ち始めているので、あと一時間もすれば、あたりは真っ暗になってしまう。
すでに、今から下りても、平地に着くころには真っ暗。むしろ、今のうちに今日の寝床を確保しないと、こんな場所で一晩過ごすのは危険すぎる。
山を下りようと説得するが、どうしても奥へと進みたいらしい。
「……はぁ。わかったよ」
これって寝床が確保できなかったら、最悪、徹夜? そうでなくても、危険……?
なんだか、嫌な予感しかしないが……危険だと告げるように、〈直感〉がぴりっとするのだけど……大丈夫だよね?
ぐっとお腹に力を入れ、覚悟を決めて、モモについていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます