第63話 冒険者ギルド長


 レオニスさんが帰ってきたので、まずは確認を取った。

 通常のパーティーにおける分配金について。パーティーで受けた報酬というのは、当然に分け前がある訳だ。そして、運営費用もあるし、装備の更新などもある。

 分け前の決め方は各自で決めることになっているとはいえ、割を食うのは新人という認識で間違いないらしい。

 そして、パーティーを組んでいない状態での報酬は一切、パーティーに入れなくてもいいのかなど……。


「で、お前の考えは?」

「今回については、私にメリットがないことを相手に伝えて、お帰り願おうと思ったんです」

「どういう事だ?」

「簡単な話で……あのクラン、大所帯ですよね?」

「ああ、そうだな」

「私、冒険者としてはペーペーですけど、薬師としてそれなりに優秀なわけで……『いくらで、雇うの?』ってことです」

「あん?」


 冒険者としては、ペーペーである。Eランク。全く稼げない。

 じゃあ、薬師としては?


 素材を自分で採取したため、素材代はかかっていない。納品するとそれがそのまま利益になっている。納品金額の半分が私の口座に、半分がクランの口座に入る。さらに、ひと月に一度、口座から一定額が給料として入ってくる。

 実質的には、薬の納品による利益の5割以上は自分の物として返ってきてる。兄さん達はパーティーにお金が入ってることを非難していたが、今後素材採取に連れて行ってもらうことを考えたらお手軽価格、超安い。


 では……それをあのクランは保証できるか?


 まあ、保証出来たところで、あんな奴らと組むなんて絶対に嫌だけど。特に、人を笑いながらボコる奴や、それを笑ってみてる奴らのためなんて、どんなマゾだよ。


「出来ないだろうな。そもそも、素材をクランが提供するということにして、お前に入るのは2割もないんじゃないか?」

「自分で採取ができるのに? それって、どう考えても改悪ですよね? かといって、新人に高額保証は出来ない。たまたま時期が良くて稼げたとはいえ、私の1か月の収入、すごいことになってますからね。なんで安く雇われないといけないのか。で、冒険者ギルドは、私の主張に対し、どう答えます?」

「待遇が悪くなる事実があり、本人が望まない以上、加入させることは出来ない、だな」

「ですよね! ついでに、パメラ師匠の弟子ということ、私が調合薬も作れる上級薬師であることを公表すれば、手を引くしかないわけです。あとは、公の場で私を殺すように依頼があったことを喋らせれば、薬師ギルド長も放置できないんで、捜査入りますよね?」


 一通り話をした後、「いくぞ」という発言とともに、冒険者ギルドへと向かった。

 ギルド長にも話をした結果、調書を作成して、ギルドが調停に入るという形で、明朝、あのクランを呼び出して、決着をつけることになった。


 そして……本日はそのまま冒険者ギルドに泊ることになりました。

 ギルド長がいて、他にエルルさんが一応泊ってくれているそうです。レオニスさんはラズ様に報告に行くらしい……ギルド長が追い出したとも言う。


 わざわざ二人で話があるらしいからね。


「それで、あのクランの思惑は流すとして……彼らに依頼している方の対処はどうしましょう? 護衛付けるくらいですし、勝手に動いて欲しくないんですよね?」

「そうじゃのう……お嬢ちゃんの考えを聞こうかの?」

「…………情報少なくて、全体像が掴めてないです。貴族について、もう少し情報くれませんか?」


 貴族。

 この世界において、その影響力は大きい……今のところ、ラズ様が貴族。それ以外と会ったことは無い。師匠が爵位を持っているけど、師匠は貴族ではないという認識。

 ただ、師匠は爵位の代わりではないけど、貴族として、毎年いくつかの薬を王家に納品しているとのこと。もちろん、それよりも高額の貴族年金が返ってくるらしい。


 では、私は?


 今のところ……。

 私は、師匠の養子。第三子となっていて、爵位は継がないことになっている。ただし、薬師としての物はすべて、私に譲るように遺言を書いたらしい。……ちなみに、爵位については兄さんに譲る手続きも開始しているとか……いつの間に!

 ナーガ君に残せるのはお金しかないと言いつつ、準備はしているらしい。師匠としては、3人仲良くやっていきな、ということらしい。


 一応、身分的には、兄さんは貴族。私とナーガ君は準貴族扱いということになるらしい。準貴族というのは、婚姻などの相手として下位貴族を選ぶことは可能だけど、自分で爵位を持たないという……微妙な立ち位置。


「お嬢ちゃんを欲しがる貴族、殺したいと思う貴族……その違いは何じゃと思う?」

「……今、私の能力を本当の意味で知ってるのはラズ様。それとラズ様の上にいる人。この人達を除外した時に、私を欲しがる人は、薬師としての能力、師匠の弟子としての価値……殺したい人も同じ。今、私の価値は冒険者ではなく薬師ですよね?」

「そうじゃな。さらに言えば、薬師としてもまだまだ未知数。嬢ちゃん自身よりも、嬢ちゃんに付随するパメラを狙う者の方が多いじゃろ」

「つまり、私を殺したい人は師匠も殺したい?」

「そういうことじゃな。そして、あやつの敵は派閥に関わらず、どちらにもそれなりにいるじゃろう」


 いまのとこ、分かっている貴族は3つの派閥。

 私はラズ様の庇護下に入って……王弟派に所属している。ただし、王弟派の中でも一部は私への反感はある。

 敵対している国王派から見れば、敵派閥であり、私への反感は不明。ディアナさん情報を信じるなら、決して敵ではないらしい。

 さらに、現薬師ギルド長の奥さんも貴族出身、おそらくこの家については、私への反感・殺意がある。


 今回、大きく言えばどれも貴族。だけど、どこに所属している貴族か、その違いで対処法が異なるわけだが……掴めてないので、対応を練りにくい。

 

「何で殺さなかったか……殺すことが出来ない理由、なんだと思います?」

「そうじゃな……。まず、脅すだけで、殺すことができる技量がなかった。次に、殺すことで動き出す勢力を敵に回したくはなかった。最後に、動きを見極めたかった、と言ったところかのう」

「ギルドではまだ情報は無いですか?」

「ない。それと、護衛については、お嬢ちゃんの安全のためであって、お嬢ちゃんの動きを封じるためではないからのう。もう少し信用して欲しいのう」


 うん?

 冒険者ギルドとして、何が起きてるかを把握したいからだとばっかり思ってたんだけど? 私の安全のためにエルルさんをつけた?


「お嬢ちゃんの身柄を守るくらいは、こちらでも動くつもりだったんじゃが……不要そうじゃな」

「え、ああ……護衛って、普通の冒険者にはあり得ないと思ったので……私の見張りとばかりに考えてたんですけど」

「もはや、お嬢ちゃんが怪しい動きをして、敵対するとは考えておらん。所属している冒険者を守るのもこちらの役目じゃ。貴重なヒーラー候補じゃしな。貴族は何をするかわからんからの」


 ふむ……。

 冒険者ギルドの立場ってどうなってるんだろう? ラズ様とは、それなりに親密。では、その上とはどうなんだろう?

 どこまで、貴族の命令に従うか……その判断はどこにあるのか?


 身を守ると言いながら、後ろから刺されるとかが怖かったんだけど、割とそこまで心配しなくてもいいのか?


「……このギルドって、貴族の圧力にどこまで耐えられます?」

「敵対をせず、上手くやってきているだけじゃからな。冒険者を守る立場ではあるが……嬢ちゃんの件でもわかるように、貴族の圧力を跳ね返すのは難しいのう。冒険者ギルドは、元冒険者である者がギルド長になるが……貴族出身のギルド長もいれば、叩き上げのギルド長もいる。冒険者ギルドも支部ごとにだいぶ考えが異なる……ただ、貴族が長を入れ替えることは容易じゃ……なんぞ、ヒントになったかの?」

「とりあえず……今回の動き、王弟派ではないと考えます。すでにキノコの森で失敗していて、被害が出ているのに、手緩すぎるので……別派閥と考えます」


 そう。少なくとも、前回、兄さんに面目丸潰れにされたのに、今回は私を痛めつけただけで放置とか、手緩い。面子に拘る貴族なら、二度目にこれは無い、よね? 多分だけど。


「ふむ……では、王派が主導と読むかの?」

「いいえ……今回の大本は少なくとも薬師ギルドのギルド長の妻、その実家の貴族。でも、それを利用しているのが王弟派・王派、どちらも。そして、冒険者ギルドとしては、私を王弟派にしておきたく、王派である隣領に敵意を持たせたい……ですよね?」

「ふぉっふぉっ……」


 白い髭を指でいじるギルド長と視線を合わせると……「うむ」と頷きを返された。いや、何でか聞いてるんだけど、答える気はないのか?

 敵はわかりやすく、一つであった方がいいという考えもある。ただ、ミスリードによって、対処方法を間違えるのは危険が伴う。

 そして、味方と言い切れない……んだよね、この人。


「お嬢ちゃんは、きちんと考えようとした途端に賢いのう」

「……どうせ、気を抜いてるとぽろぽろと零れてますよ。いっつも、頭働かせて動ける程頭良く無くてすみませんね」

「なに。そんなお嬢ちゃんだから、こっちも助かっている。……まず、隣のギルド長とは因縁もあり、儂とは仲が悪いこと。儂もラズ様もお嬢ちゃんがあちらに靡くことを望まない。よって、先入観を植え付けておる。そして、金で爵位を買った家の出である薬師ギルド長の妻の実家に比べ、あちらは生粋の貴族だからじゃ。手緩いから王弟派ではないと嬢ちゃんが判断したように、手緩いから伯爵家ではないと儂も考えておる」

「たぬきじじい……」

「ほっほっほっ」

「……そんなことして私が悪印象もつとか考えないんですか?」

「今更じゃろう? あの初対面じゃ、儂らも手荒なことをした自覚はあるからのう」


 楽しそうに笑っているが、この人、食わせ者過ぎる。

 誘導していたとあっさり認めている。報連相は大事だが、あくまでこっちに求めてるだけで、そちらがする気はないってことですかね? いや、まあ……そもそもがそういう契約だけどね。駒になることを受け入れた時点で、仕方ないことでもある。


「答え合わせじゃ。お嬢ちゃんの命を狙うなら、まず隣領の伯爵家じゃと考えておる。これは、誘導ではなく事実じゃな。なにせ、王弟派の力を削ぐためには、お嬢ちゃんを消す又は手中に収めるというのは有効な手じゃからな。だが、これは最終手段で、現状はそこまで手荒な事をする家ではない。今回は命の危険は無かったことから、伯爵家の線は薄くなる。次に、王弟派。これはラズ様の手前、殺すのは出来んじゃろ。ラズ様の手駒を勝手に消すなら、上の許可がいるのに加え、それ相応の対価が必要となる。王弟派の派閥内の者が次も手を出すのは難しいのう」

「ん? ……次がある?」

「お嬢ちゃんがそれを聞くのかの? お嬢ちゃんが手の内を見せない選択をした時点で、次があるとレオニスも儂も判断しておる。逃げようと思えば逃げ切れたじゃろ?」


 確かに、逃げれたけど……。

 むしろ、やられた事をギルド内で見せびらかして、あちらを追い詰めるだけの余裕もあったけど。


 命の危険がないからの選択であって、二度目があるとか考えてなかった。しかし、なぜかギルド長もレオニスさんもその行動を次があると考えていた?


「お嬢ちゃんの言うとおり、仕掛けてくる貴族は、ギルド長の嫁の実家じゃな。この家は、代替わりにより、かなり困窮するようになっているのう。嬢ちゃんの存在はかなり困っている。何せ、パメラの遺産を得ることを目論んでおったからのう。あの家は貴族としては新興で基盤を持たず、金もない……せいぜい、脅す程度しか出来ん。先の二つは、やろうと思えば痕跡なぞ残さずに、とっくにお嬢ちゃんは死んでおる」

「……信じすぎるなという師匠の言葉が身に沁みます」

「ひどいのう。あやつのことを何度も助けてやった仲じゃというのに」


 その声は、とても重く響く。師匠を大事にしていることがわかると同時に……ドロッとした執着を感じた。なんだろう……この悪寒は。


「…………師匠の敵、把握してるなら教えてください」

「難しいのう……今も昔も、薬師ギルドの連中は全て敵で良いじゃろうが」


 面倒な年寄り過ぎる。漸く目的を理解した……。

 薬師ギルドが全て敵……。この町の薬師ギルド長を完全に叩きのめすだけでなく、その後釜に対しても場合によっては、敵対するつもりか……仄暗い笑みが……その激情と一致した。

 冒険者ギルド長として、薬の在庫管理には責任があるため、関係を切れなかったが……私を確保した以上は、敵対しても問題が無いのか。


「薬師ギルド長を潰すという目的があるなら、言っておいて貰えますか? 私が予想外の動きをする可能性もありますよね?」

「ほっほっ……そこまで使えるようになるかわからんのに、目的を話せるわけないじゃろう」

「そう、ですけどね……」


 この人を一人で相手にするのは骨が折れる。良い様に転がされている……。だけど、まあ……嫌じゃないのは、薬師ギルドだからかな。私も薬師ギルドは嫌だしね。


「そう、冷たい目で見られても困るのう……さて、お嬢ちゃん」

「何でしょう?」

「薬の納品により、だいぶお金に余裕が出てきたじゃろ?」

「そうですね……最初の予定分の納品が終わってますから、魔法袋・大を3つの金額と同等には……それが?」

「ラズ様からのいただいた防具代、さっさと払ってしまう方が良いのう」

「……タダより怖いものはない?」

「そういう事じゃ。貴族に借りを残しておくのはお薦めできん」


 言いたいことはわかる。

 必要だったから、防具を用意してもらったわけだが……対価を考えると貰い過ぎていることは事実。実は防具以外にもレシピ貰ってるとか言えない。

 ただ、何故それを今、言うのか?


「……ラズ様の立場が危うい?」

「いや。お嬢ちゃんが、ラズ様の庇護下にずっといたいのであれば、構わんじゃろう。だが、お仲間と離れ離れになることを受け入れる事が前提じゃな」


 つまり……兄さん達と一緒にいるか、ラズ様と一緒にいるか……?

 そもそも、ラズ様とこのギルド長との契約がある以上、ある程度は二人に利用される駒だと考えていたんだけど……。


「…………防具一式分のお金、足りるんですか?」

「あと、調合薬をもう少し融通してくれれば十分じゃ」

「具体的な数は?」

「そうじゃのう……あの防具の価値はそこまで高いものではないのでな。調合薬を100も用意すれば、レシピ代を含めても十分釣りがくるじゃろう」


 錬金レシピの事もバレてた! 調合薬は作れない訳じゃないけど……すでに、30個ほど納品している。10個を3回だったけど……100個。いや、金額的には上級薬は高いので、それを100個の時点で、あの防具代には充分なりそうだけど。


「随分と多いのでは? 予備として持っておくにしても……」

「うむ……一つは来月あたりに起きるスタンピードのためじゃな。次の薬師ギルド長が派遣される時期とスタンピードが被った場合に何かあると困るのでな。多めに保持しておきたい」

「……で、本音は?」

「新しい薬師ギルド長との交渉を有利に進めるためじゃな。薬は冒険者には必須。こちらとしては足元を見られては困る。……代わりに、ラズ様との借金返済交渉及び、お嬢ちゃんと儂の契約の破棄でどうじゃ?」

「え?」


 契約の破棄……。

 突然の事に驚いていると、一度部屋を出て、契約書を持ってきた。


 確かに、あの時契約した契約書だった。この文面には、双方の合意で破棄ができることになっている。


「どういう事です?」

「お嬢ちゃんの仕事が早いおかげで目的は達せる目途が立ったのと、契約を継続することにリスクが生じたのでな。助力を頼むことはあるかもしれんが、契約で縛り続ける程ではない。お嬢ちゃんに負担もかかるしのう」


 目的の達成は、薬師ギルドの破滅。

 後から考えると、薬師ギルドが暴走しすぎというか、冒険者ギルドに都合よく事態が動きすぎている。どこまでがこの人の策略かはわからないけど、私と言う駒を手に入れ、相手を追い詰めた。

 自分達は困らない状態で、優位に交渉をしつつ、さらに暴走するように仕向けたんだろう。


 そして、私を用済み判定ってことか。

 これ以上、駒として持っておくと、今回の騒動を後から調べられた時に困る……証拠となる書面は消しておきたい、かな?


「お嬢ちゃん。儂はお嬢ちゃんと今後は対等に接したいという儂なりの誠意じゃ。用済みではなく、気兼ねなく依頼をするためじゃな」

「なんか、裏がありそうで怖いんですけど」

「ほぅ……そうじゃな。それくらい、用心して今後は交渉をすることを勧めるぞい。……なんぞ、方針転換があったんじゃろ。この契約を解く様に仰せじゃ……ラズ様の上の方からのう」

「言っていいんですか?」

「解く様にとしか聞いておらん。お嬢ちゃんに言うのも、言わないのも儂の手の内じゃからな。それに、昼間、エルルに対し、変に言いよどむことがあったんじゃろう? 自分では何気ない事であっても、契約に縛られた状態では、お嬢ちゃんの意識外の行動にも縛られることがある……長く続ければ、心身に影響が出るほどにのう」

「……ギルド全体を対象にしているわけでは無い?」

「うむ、今回については、無意識に儂に報告が行くだろうから嘘を付けないとでも考えたんじゃろう。まだ、期間が短いからそこまでの拘束力はない」

「…………実際、報告されてますよね」

「そうじゃな」


 無意識下も影響にあるなら……縛りの負担は大きい。解除してもらえるなら、それはいい事なんだけど……上の方針転換。ラズ様じゃない人から、わざわざ契約を破棄しろって命令が来るってどういう状況だ? 見当がつかない……。

 いいや。とりあえず、冒険者としての行動に縛りがなくなったと考えておこう。

 

 だが、一つ言いたい。上から命令来てるなら、私に調合薬を100個作らせることを条件にしている時点でおかしいじゃん! 自分の利益もちゃっかり上乗せしてるよ。どこが、気兼ねなくなんだか。

 まあ、良いけど。私もあまり良い感情ないしね、薬師ギルド。ギルド長が変わったとしても、それは変わらなそう。

 そこら辺は、同士でもいい。師匠への害意については、共同戦線張ることに否やはない。


「一つ、お願いしたいことがあります」

「ふむ?」

「師匠に負担がかかるような事は無しで。私のことで煩わせてるのに、新しい薬師ギルドとのいざこざが起きて、師匠が困ることは許容できません。また、師匠への害意を知ったら私にも教えて欲しいです」

「二つになっておるが……良いぞ。パメラの件については、嬢ちゃんと手を組めると考えておるからのう。……では、この契約を破棄するぞ」

「はい」


 お互いに誓約書を持った状態で、合意し破棄するという宣言をして、破く。あっさりしたものだった。その後、誓約書は燃やした。

 

「一応、伯爵家が動かないという保証はない。お嬢ちゃん、気を付けるんじゃぞ?」

「むしろ、そっちが二度目になりそうですけど?」

「うむ。それと、お嬢ちゃん達が迷宮ダンジョンにいる間に、帝国にて、異邦人主導による内乱が起きておる。この混乱が長引くようなら、その身柄はさらに危険じゃ」

「……はい」

「帝国の混乱は王国にとっても影響がある。そもそも、冒険者は、うま味が無くなれば、国を渡ることも普通にあるからのう。帝国の流れ者がこの町に来ることも増えるじゃろう。帝国が管理出来なくなった魔物を放置することも出来ないから、国を超えて、戦力の増援を求められることもある。パメラの弟子の名は広がれば危険をもたらす。知らぬ者には気は抜かぬことじゃな」


 ……危険が無いとすぐに気を抜いてるってことを報告したのはレオニスさんか?

 そんなに気が抜けているんだろうか? いや、声音とかすごく心配してくれているようだけど……騙されちゃいけない。


「お嬢ちゃん。儂などまだましな方じゃ、狐狸妖怪が蠢いているのが貴族じゃぞ? 努々忘れぬことじゃな」


 それなら、絶対関わりたくないよね! 私には手に余る! 胃が壊れる!

 


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