第61話 教会の治療
エルルさんを伴って、教会まで来た。
「ここ、埃くさいから苦手なんだな」
「えっと、エルルさん……外で、待ちます? 若しくはギルドに戻っていただいても」
「護衛が離れることは無いんだな! ほらほら、行くんだな」
エルルさんは教会に近づくと、猫耳をぱたんと下げて、尻尾もだら~んとさせ……行きたくないという主張を全身でしているが、ついてくるらしい。
無理する必要はないと思う……埃については、綺麗にしたばかりだから、大丈夫だと思うけど。
「神父様います~?」
「なんだ、嬢ちゃっんんっ!? おい! その顔! 可愛い顔が台無しじゃないか!!」
ドアを開けて、中に入って、神父様を呼ぶ。
顔が赤い……酒、飲んでたな。習慣なのか、まあ……好きにすればいいよ。そこまでは口を出さない。
慌てたように近づいてきて、顔をぺたぺたと触り、ついでに骨折していた腕も見ている。うん? なんか、鑑定とかされてる感じなのか、違和感? 服の上から、打撲の場所を正確に触っている……言わなくても、分かるのか。
鑑定や解析でも……怪我の場所は特定できないけど。何か方法があるのかな。
「冒険者ギルドで治療して貰ったんで、痛みはないんですけど……傷残したくないんで、治療お願いします」
「ああ、ここに座れ……力抜いて、目を瞑ってろ…………光大回復〈エクストラヒール〉」
うん?
まて……光中回復〈ハイヒール〉ではなく、光大回復〈エクストラヒール〉?
過剰回復!!
光中回復〈ハイヒール〉……私も覚えているけど、HPの5割回復する魔法だ。それなのに、さらに上の回復魔法!? いや、いや……なんで、そんなことするの! お金が!! 寄付金が高くなる!!
「おおっ! 治ったのだな! 良かった、可愛いんだな!」
エルルさんが、横ではしゃいで頭を撫でてくるが……そんなことよりも、どうしよう、このポンコツ!
すでに回復魔法で回復したって言ったよね? ヒール〈光回復〉で十分、身体の傷も消えたでしょうが!
「過剰回復……」
「そう言うがな、嬢ちゃん。きちんと回復かけておかないとだろう。前の術者を上回る回復かけないと、傷が残る可能性もあるだろう?」
「え? なんですか、それ?」
同じ傷を何度も治そうとする場合、より強く、上書きするようにしないといけないとのこと。すでに、ポーションと水魔法による回復魔法がかけられているので、光大回復〈エクストラヒール〉で回復をしたと……。
いや、それ……本当?
高い寄付金得るために、そういう事にしているんじゃなくて?
私の感覚だと、ヒール〈光回復〉で大丈夫だと思ったけど……。
ちらりとエルルさんを見ると、こくこくと頷いているので、こちらの世界の常識は上書きする必要があるってことだね。
エルルさんがいるのに問い質す事はできないため、後で確認しよう。
「で、何があったんだ、嬢ちゃん?」
「いや、なんか私もよく分かってなくて、集団リンチ受けました」
「そっちのは?」
「あちきは護衛だな! 冒険者ギルドとしても重く見ているんだな……再度狙われる可能性があるという判断だな」
「油断してぼろぼろにされたんで……大人しく守られてます」
エルルさんが不満という訳ではないけど……護衛については、不満がある。家に帰らないと調合や錬金が出来ない。手持無沙汰になることがわかっているので、本を取りに戻りたいけど……家に戻らない様にとエルルさんからも言われている。
家の戸締りはしてあるので、そのままの方がいいらしい。下手に家にいると襲撃しやすい? あの店の部分が入れるようになるからか、入ってこれるからね。
「なんなら、教会で保護することも出来るぞ?」
「それも、ちょっと遠慮したいんで……目的がわからないので、動きようもないんですけど」
「嬢ちゃんを狙う勢力としては……まず、薬師ギルドだろ?」
「ええ、まあ。そこから暗殺依頼が出てるそうです」
普通に考えて、暗殺依頼は犯罪のはずなんだけどね。でも、暗殺ギルドってあるらしいよ。大きい街とかなら……この町ではない、よね?
とにかく、薬師ギルドは私が邪魔で、殺したい。理由は、パメラ師匠の研究資料という遺産と、冒険者ギルドへの薬の納品による被害。
どちらも私がいなければいい、という短絡的思考。殺す宣言は聞いてる人が結構いるらしい……駄目じゃん。私に何かあれば、一番に疑われるのに、わざわざ宣言するなよ。
まあ、だからこそ、可笑しいんだよね。殺せたのに殺さなかった……。
「それもおかしな話だが……次が、貴族連中…………可能性としては、隣の領地の伯爵家だな。王家が動くにしても、王都から動き出すには早すぎるからな」
「面倒な……」
「パメラの婆様と言えば、貴族連中も手が出せん。だが、弟子を確保できるなら、穏便でなくても欲しくなるだろう」
「印象悪くすれば、薬作らないとかもあるのに?」
私が自分に危害を加えた人のために、薬を作るとか……ナイナイ。
本気で殺されそうになったとしたら……作る、かな。でも、多分作れない事を装う。
まあ、貴族の相手は……フォルさんに相談しようか。ラズ様はちょっと忙しそうだった。まあ、どちらかに言えば、何とかしてくれる気がする。
「次に、聖教国関連……とは言え、これについてはまだ早い。嬢ちゃんが光魔法使えることがバレるにしても、まだ本国が把握できていないのに、狙うことはないだろ」
「そっちも……つまり、薬師ギルド…………に見せかけて、十中八九、貴族が出てくるのかな」
「そうなると、手が出し辛いだろうな……明確な証拠なんぞ出ないだろう」
薬師ギルドが私を殺したいのは事実だろう。その言質を取った上で、動いてるのは貴族……本当に殺す気はない。血判取られてるのが気になる……本人の意思が無くて、どこまで効力あるんだろう。
「ほらよ」
「なに?」
「護石だ。隠して持ち歩いとけ。暗示とかを阻害してくれる効果がある」
「……ありがとうございます。でも、なんで?」
「声、出てるんだな」
「あれ?」
声出てたらしい……。血判取られてると口にしたので、これを持っておけと。血判を悪用されないための、護石とのこと。鑑定してみると、〈暗示耐性・弱、恐怖耐性・弱〉となっている。これ、貴重なものだよね?
「とりあえず、お金……いくらくらいになります?」
「おう……治療費は、今はこの前のをチャラな。……あと、そのうち顔を出してくれ。ケガ以外のときに」
「はーい。落ち着いたら顔出します」
……この身を狙うのは、薬師ギルドだけじゃないってのが厄介。
貴族って……まあ、派閥もあるだろうから、全部が全部でないにしても……敵、多いな、私。
さてさて……貴族は別として…………あのクランとまた対峙する時は、どうしようかな。
一度やられてるので、次からは正当防衛ということでこちらから攻撃しても許されるだろうか……割と痛かったし、やり返したい。
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