第59話 護衛?
町の東口門に向かって歩いている途中で、おチビと呼んでくるB級パーティーのリーダー、名前をジュードさん……が有無言わさずに私を抱き上げ、ギルドまで運んでくれた。
こんな時でなければときめくかもしれないお姫様抱っこで……いや。わりと痛くて意識保つのもきついので、そんな場合じゃないけど。
「クレインさん!? どうして!? この怪我は!?」
冒険者ギルドに入った瞬間にマリィさんの声が聞こえるが、返事が上手く出来ない。視線を向けると、慌てた様子で駆け寄ってきた。
「町の外で保護してきた。医務室へ……今日は誰かいるのか?」
「はい! ヒーラーは待機しています!」
そのまま、ギルドにある医務室に運ばれ、ギルドにいるヒーラーが回復魔法をかけてくれた。傷跡が残っているので、多分……水魔法か風魔法での回復だろう。
それでも痛みは無くなった。危険が去ったと思うと、気が抜けて眠気に襲われる。意識が朦朧としていなければ、違いをもっと確認したいのに……頭が働かない。
そのまま、医務室にて寝てしまい……数時間後に目を覚ました。
私の様子を見ていたのは、マリィさんと同じく、普段は受付嬢をしている人だった。名前は、ヴィオラさん。美人だけど、儚げな雰囲気のある女性。
どうやら、さっきのヒーラーさんは別に仕事がはいり、回復魔法が使えるヴィオラさんが、代わりに待機して看病してくれたらしい。
起き上がり、下着姿だったので、着ていた服を探す。ベッドに寝かせるにあたり、脱がせたらしい。
地べたに転がされたり、だいぶ汚れているからね……着替えがないから、そのまま汚れた服を着るけど……。
「お世話になりました」
「いいの、いいの。気にしないで。ギルドが困ってるのを助けてもらってるからね。マリィも心配してるから、顔出してあげて。あ、でも、でも。たまには、私にも受付しに来ていいからね?」
「ふふっ……でも、ヴィオラさんの方が混んでるじゃないですか、いつも」
なんだか、マリィさんが混んでても待ってたりするので、気にしているらしい。いや、色々事情わかってる人の方がいい……面倒事を押し付けているようでマリィさんには申し訳ないけど。あと、この人、人気あるから大抵他より多く並んでるんだよね。
しかし……どう、報告するべきか。
もう危険は去ったと思うけど……私の行動で、何も変わらないからなのか、死なないからなのか……。直感が発動しなかった。結構痛い目にあったのに……もう少し、直感を上手く扱わないと死なないとはいえ、危険だ。
ちなみに、何故か、同じベッド内でモモがお昼寝していた。気持ちよさそうに寝ている。
どうやら、私と別れた後、マリィさんのとこまでやってきたらしい。マリィさんの膝の上でゴロゴロしていたが、私が運ばれてきてからは近くにいたらしい。
……役に立たない。いや、猫質にならなかったから、良かったけど。
「マリィさん……お願いがあって…………」
「はい、なんでも言ってください!」
「……私の参加するパーティー……兄さん達以外と組むような申請届いたら、受理しないでください」
マリィさんは鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしていた。
あのクランの連中みたいなのがいないとも限らないので、勝手にパーティーを変更されないようにしたかったのだけど……。
なにか、他のことを言われると思ったとか?
あのクランのことを報告したところで、逆恨みされても困るから言わないでおく。町の外でのことって証明できない。殺そうとしたという割に、見逃してるから……本気ではなかったとか、警告だったとかで言い逃れしそう。
「え? ……わかりました。では、クレインさんのパーティー申請について、今後クレインさんの名前で申請があっても受理しないようにしておきます。お兄さんの許可が無いと移動させられない形でいいですか?」
「できるんですか?」
「幼い冒険者とか、保護者の許可なく勝手に出来ないように制限する機能があります」
うん?
それはちょっと……子どもではないので、遠慮したい。
いい笑顔で「制限かけておきます」と言っているけど、兄さんは保護者というのは違うんだけど……他から変更できないのであれば、まあいいか。
「それで、何があったんですか?」
「言わなきゃダメです?」
「そうですね……当事者からもお聞きしたいです。すでに、概要はライさんから聞いております。ムワンダさんからも。あのパーティーは先ほど、解散となりました……まあ、ムワンダさんを除いて、また組むかもしれないですけど」
「……私、逆恨みされません?」
「ライさんがそんなことはさせないと言っていたのと、他の方もそれに賛成していたので、平気だと思います。ライさんがあなたがボコボコにされた経緯とか、『あのクランに加入するなんて冗談じゃない』と……他の方たちも、ライさんに同意していたので……ムワンダさんは、『S級クランになれるかもしれない』と言っていましたが……」
ライさんは、事情を聞いてなかった上に、実際に助けようとしていたのでわかる。……あのとき、手当するつもりだったので、自分でポーション飲んでなかったら、傷薬とかをくれたんだろう。
ムワンダの方は、地位に目が眩んだってことかな。そして、他のメンバーはライさんに同意した。面倒ごとに巻き込まれたな……。
「私としては、あの人達のクランに加入しないでいいなら、それで構わないです」
「その件です、クレインさんが気絶している間に、血判を取っていたようで、申請はすでに出されているんです。保留処理にしていましたが、先ほどのクレインさんの発言で、勝手に申請したということで、処罰対象になります」
「…………本当に、詰めが甘い……いや、他の思惑がある?」
あの男の様子だと、私に止めを刺すことをしなかった時点で、勧誘も諦めたと思ったけど……申請書は出ている? それもおかしい。
血判での申請書なんて出して、本人が拒否したら、調査が入ることが目に見えている。ライさんが私のとこに戻ってくることを許している点でも可笑しい……。
「クレインさん。それはこちらで調査します。それよりも、クレインさんの現状です」
「えっと……何を調査するんでしょう? それに現状とは?」
「まず、あのクランの動向はこちらで確認します。ちぐはぐで、目的がわからないということでギルドでも注視します。クレインさんからは、お兄さんとのパーティー以外加入しないという言葉をいただいたので、十分です。そして……現状ですが…………クレインさんは、命を狙われています!」
マリィさんが、ババン!! と効果音付きで重大なことのように言いました。
ちなみに、ここはギルド内の受付です。
いつものように、部屋に移動してないので……ギルドにいる他の人達にもばっちり聞こえています。
なんだ、なんだとこちらを見ている冒険者多数……えっと、これ、どうするの?
「……マリィさん。現状というか……まあ、直接? ではないけど、聞いてます。薬師ギルドの人から私を殺す様にと依頼があったと……」
「はい。その事実についてもこちらで調査します。しかし、クレインさんの保護をどうしようかという話です」
「町から出ない……というのでは、足りないですか?」
町の中での殺人は、リスクがある。この世界でも、当たり前だが犯罪である。捕まれば、よりひどい方法で処刑される。
逆に、町の外で、冒険者が死んでいても事件にはならない。危険を承知で外に出ているので自業自得となる。……私が殺される場合は、基本は町の外ということだ。
「そう、ですね……冒険者ギルドとしては、クレインさんがいないと落ち着いてきた薬の供給が止まってしまうので……万全を期したいところです。あ、そういえば、お怪我の状態はいかがですか?」
マリィさん……いつもは気を使ってくれていたのに、この場で会話を続けるということは話を聞かせるつもりってことだよね。
冒険者の人たち……特に、今日はランクが高い人達が多い気がする。その人達に聞かせている理由まではわからないけど。
「怪我は……ちょっと、この後教会に行ってきます。痛みはだいぶ良くなってるんですけど……骨折だったので、念のためです。薬の供給については、滞りの無いようにします」
「お兄さん達は出立してしまったので、お一人ですよね?」
「まあ、そうですね」
「町の中でも危険が無いとは言えないんですよね……お家の場所もわかっているでしょうから、今日は帰らないで欲しいんです」
「……宿に泊まれということです?」
宿とかのが危険だよね?
冒険者が沢山泊っているわけで……薬師ギルドがどこまで依頼したかは知らないけど、敵が潜んでる可能性が高そう。
でも……あのクランは他の町からの人たちだし、この町の冒険者は師匠のこと好きだから、あまり敵にまわらない気もするけど。
「今日は俺んちに来い」
「嫌です~レオニスさん、新婚なんですよ? 奥さんいるのに、女を泊めていいと思ってるんですか!」
「ガキだろう。女を名乗るにはまだ早い」
「なっ!! マリィさん、聞きました!? 失礼すぎませんか!?」
「クレインさん。気持ちはわかりますけど……レオニスさんがフィンさんの娘に手を出すことはないと思いますし、危険はありませんよ」
わかるけど……。
一番安全なのは、レオニスさんの家だってことはわかるよ?
襲撃受けたところで……あのクランの人達を相手にしても、応援が来るまで持ちこたえるだけの戦力があるからね。でも、それってどうなの?
命がかかっているとはいえ……血縁でも何でもない他の女を連れ込むこと、奥さん納得する?
「とにかく、決定事項だ。クレイン、お前は教会で見てもらってこい。エルル、悪いが付き添いを頼む。俺が帰るまではお前が付いていてくれ」
「はいな! まっかせてよね!」
「マ、マリィさん!」
「クレインさん……大丈夫です。エルルは受付嬢になる前は、B級の冒険者だったんですよ。護衛してくれます」
エルルさんは、獣人。猫耳としっぽが付いている可愛い姉御系。肉体的にも強そうなのはわかるけど……ギルドの人が護衛につくとか……贔屓してるって思われて、冒険者から嫌われるのでは?
「おチビ! エルルさんに守ってもらうんだぞ? いい子にしてるんだ!」
「おチビじゃないって言ってるじゃないですか! それに、私より師匠とかっ……」
「大丈夫だ。パメラ婆様には、領主様が護衛付けたらしいぞ。おチビも護衛付けとけって。弱いんだから」
「おチビの嬢ちゃん。そこまでボロボロにされたんだろ? 大人しく守ってもらえって」
「むぅ……」
確かに……ボコボコにされたばかりで、結構、泥だらけで酷い恰好してるけどね。
なんだか、周りを見渡してもみんな頷いている。そして、大多数がおチビ呼び……増えてるんだけど? みんなして、心配してくれてるけど、面白がってるよね?
「大丈夫だ。レオさんの好みじゃないって。手出されることはねぇよ」
「そうそう」
「おチビちゃんも、心兪のディアナに教わって頑張って女を磨かないとな」
なんか、勝手に盛り上がってるけど、納得しない!
子ども扱いしている! 確かに弱いけど! 同業者だから! 冒険者として、ギルド職員に守ってもらうって、情けなさすぎる!
いや、エルルさんもマリィさんも、生暖かい目で見ないで、助けて欲しいんだけどな。
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