第53話 キノコの森 五日目 (一部、グラノス視点)



 最終日。ダンジョンから町に戻るまで、半日程度かかる。

 すでに王都から派遣された人達が帰還したという報告をフォルさんが持ってきたため、長居をする必要はない。今から帰っても良いし、予定通りもう1泊してから帰っても良いことになった。

 このまま帰るでも構わないというが、ここに来る機会は少ない。次に来るのはかなり先になってしまう。かといって、ギルド職員やお貴族様が何度も付き合ってくれるわけではない。夕方までダンジョンにて採取をさせて欲しいということで了承を得た。素材は沢山あった方がいい。


「で、どうする?」

「せっかくの機会なので、ソロで動く練習する」

「却下。君、まだ適正レベルにないのに、一人で行動を許すわけないだろう」

「グラノスの言う通りだな。3人で行動するというなら認めるが」

「まあまあ~。いいんじゃない? 近くにいる状態であれば、クレイン一人でやらせてみても。今後も無茶しようとするんだから、見ている状態で練習させた方が安心できるんじゃない?」


 意外なことにラズ様が味方についてくれた。

 無茶をすることが前提なのは気になるけど……言われるほどの無茶をした覚えはないのだけど……レオニスさんも兄さんも悩んでいるが、最終的に許可が出た。

 理由として、漸くDEFが300以上になっていて、危険が減ったことも理由だと思う。適正レベルはないけど……どうやら、適正レベルくらいまでは上がっていると考えているようだ……黙っておこう。



 HP/MP/SP、どれか一つでも半分を切ったら、終了という条件の元、みんなから50~200メートル離れた場所での自由行動が許された。

 せっかくの機会なので、色々と試してみよう。


 昨日はレオニスさんに言われた通りに、必要な素材を採取していた。今日は自由行動なので、昨日採取した物以外も鑑定して、少しずつ採取して持ち帰ろう。師匠は効果が分かっているものだけでも良いだろうけど、私は他の素材についても勉強が必要。

 毒・麻痺などの状態異常を起こすキノコや草も多いが、逆に薬になるものもあるかもしれない。他にも、食べられる木の実とか……。



 魔物については、剣を使って倒す。槍は他のメンバーがいる時はいいけど、一人だと振り回すときに隙もできてしまうので、借りなかった。弓も構えている間に、近づかれてしまうので、剣のみ。

 まずは、普通に魔物を倒していくが、苦戦するほどではない。昨日までに戦ったことのある魔物ばかりなので、ある程度動きに予測がつくのは、アドバンテージになっている。

 ただ、やはりSTRが低い。キノコ系はいいんだけど、トレント系は攻撃がなかなか通らない。虫系も固いのが多く、動物系は、種類によるけど……あまり出てこない。



 解決方法は魔法で倒す。剣で牽制しながら、魔法で倒す分には問題はない。ボス戦程魔力を込めて大きな魔法を撃つ必要はなく、スムーズに倒せている。便利なのは、水矢〈ウォーターアロー〉。弓の要領で狙える上に、構える必要がないから使い勝手がいい。


 ただ、出来れば剣での攻撃も上げておきたい。

 そこで考えたのが、……魔法盾の要領で剣に魔力を纏わせられないか。

 要は、INTで攻撃が出来れば攻撃力がアップするということで……試している。属性についても色々試すが、なかなか成功しない。


 武器に付与しないでも、戦闘の度に有利属性を纏わせることが出来るようになれば、属性も自由なので幅が広がる。安全が確保されているうちに出来るようになっておきたい。


 ついでに……レベルを二つあげて、30にしておきたい。

 みんなと一緒だと二つも上がらないけど、一人なら可能性がある。


 

 しかし……MP消費が半分までという制限が厳しい。MP消費が激しいんだよね。出来れば消費を少なくしていかないとすぐに減ってしまう。

 大放出するのではなく、うっすら纏うようにして……うん、難しい。


 ただ、ちょっと剣が光ってるだけでも、攻撃力が上がっているようだ。

 あっちにいる魔物でもう少し試してみよう。





〈グラノス視点〉


 男5人で、少し離れた距離にいるクレインを見ている。

 生命探知と視覚情報から、近くに魔物はいないはずだから、大丈夫だとわかっているが、少々心配になる。


「ラズ。何を考えてる?」

「ん~。この短期間でパーティー組んでみても、まだソロを希望するならそれもいいんじゃない? レオがずっと一緒にいられる訳じゃないでしょ。やらせてみればいい」

「だが……」

「レオニス様。ボスはいないため、危険は少ないかと愚考いたします。出来ないことを出来るという方ではないので様子をみましょう。それよりも、お二方もここは練習のため、お一人で活動してみてはいかがでしょうか?」


 レオニスのおっさんは心配しているが、俺らは大丈夫という判断らしい。遠くに離れても、俺とクレインは察知能力も高いので、何かあれば逃げられる。察知能力で考えると一人行動が危険なのはナーガの方だが、余程のことが無いとHPを削るのは難しい。毒や麻痺の耐性についても高いから、危険は低いだろう。

 

 そもそも俺やナーガについては、すでに戦力はA級並みらしい。まだまだ実戦経験が拙く、能力は生かし切れていないが間違いなくS級になれる逸材。単独でもボスでなければ問題はないとのこと。

 クレインは、ヒーラーとしてはS級。全体の能力はC~B級。発想力と応用力が高いため、Bで通用するというのが、フォルの見立てだった。

 ヒーラーとしての見立てが高い理由は、モモの母親を含めての範囲回復魔法。あれが連続で使えるなら、ヒーラーとしてはSでいいらしい。そもそも、ヒーラーに戦闘能力は期待していないため、戦闘の邪魔にならず、回復ができるだけでいい……。


 それは、クレインは嫌がるだろう。ヒーラーになる気は無いとも言っているしな。

 ソロであってもB級ならこのダンジョンに来ることが可能なため、ここで試しておくのは無駄にならないという判断だった。


「……採取をしてくる」

「じゃあ、俺も一人で動くか……後でな」

 

 クレインが一人で行動するのに、俺とナーガが二人で行動するのも変なので、バラバラになって採取を開始した。

 フォルが全体を監視しつつ、危険なら助けに入ることにして、レオニスとラズは待機。やってみると、採取や解体をしていると周囲への警戒を怠ることもあり、なかなか難しい。ボス戦での雑魚を複数相手にするのとも違い、一人だと対処に困ることもあると勉強になった。



「やれやれ……面白そうなことをしてるな」


 ちらりとクレインの様子を見ると、手元の剣と盾が光っている。盾については、魔法盾の技を使う時に似たように光っていたが、光り続けはしなかった。

 つまり、今は自分で光を留めているということだろう。


 出来るだろうという考えを元に試しているんだろうが、本当に出来てしまうだけに……優秀過ぎる。あんなことがあったのに、フォルに見せていいと考えるあたり、迂闊すぎる気もするが……。


「あれはMPを使っているんだろうが……ふむ」



 通常の攻撃ではSTRが足りないから、INTによる追撃のために魔力を込めている。それが可能なら……SPでも出来るか。


 刀を取り出して、余りまくっているSPを使って、SPを溜め……居合の一撃を放つ。


「いけるな」


 技の威力が上がって、目の前の木がスパッと切れた。

 一撃必殺としては優秀そうだが……溜めにコツが必要そうだ。技にのせるためには練習する必要がある。後で、教えてやらないとだな。


 まあ、クレインは教えなくてもそのうち出来るようになりそうだが……兄の面目が立たないからな。少しはかっこいいところを見せておかないとな。



「楽しそうだね~」

「俺に何か用かい?」


 刀を振って、色々と試しているとラズが近づいてきた。

 一人で歩くのはこいつが一番危険だと思うが……周辺の気配を探るが、魔物はクレイン側にしかいない……。どうやら、こちらを避けているようだ。



「まあね~。君とは話しておかないとだと思ってね」

「今後のことかい? 話すのは今じゃないだろう」

「そうだね。時間を取って欲しい……出発する前にね……場所は…………」

「ああ。承知した」


 水面下で話をする必要があるのは確かだろう。先に約束を取り付けるのは、接触を持ったことをクレインにも教えておくためか。

 何も知らない状態というのは嫌がりそうだからな……。



「兄さん、大丈夫?」


 ラズがおっさん達の元へ戻ると、クレインがやってきた。

 やはり、気づいていたらしい……。



「問題ない。俺らが町を離れる前に話がしたいそうだ」

「……それは」

「心配ない。流石にこれだけ一緒にいれば、それなりにわかる。あいつの周囲はともかく、あいつは敵じゃないんだ。協力するくらいは構わない」

「まあ、兄さんが決めることだけど……」

「そんなことより、見てろ…………」


 先ほど試したSPを溜めての居合を披露する。

 すぱっと切れる木の幹に気分が良くなる。だいぶSPを使うので連続して使い続けることは出来ないが。


「え? ……すごいっ」

「だろう? 溜め攻撃はコツがいるが、出来ると楽しいぞ」


 目を大きく開けて、驚いているクレインに、にやっと笑うと楽しそうな笑顔が返ってきた。

 

 ダンジョンで、だいぶ心にゆとりが出来たようだ。色々と考えてはいるが、思いつめることが無くなってきた。記憶が戻っても、引き摺っていないようだ。いい傾向だろう。


 

「君の方は、試しは上手くいったのかい?」

「あ~う~ん…………もうちょっとで感覚掴めそう?」

「そいつは僥倖だな。君の攻撃力が上がるなら俺らも心配がなくなる」

「無茶はしないよ……でも、おんぶに抱っこは嫌だから」

「わかってる。君なら大丈夫だろうが……兄貴としては心配なんだ」

「は~い。気を付けます。ちょっと狩りして、練習ついでにレベル上げてくる」



 随分と遠くにいる魔物の集団に向かっていくのを見送る。

 視力では確認できるが、生命探知では見つけられない距離だ。クレインの方が、探知能力に優れているということだろう。


「やれやれ……自己評価が低いのも治してやらないとな」


 あれのどこが足手纏いなのか……。タンクこそ出来ないが、他のポジションなら問題なく熟せる実力。ソロでも対応できる。


 このダンジョンは、パーティーを組んだ上でレベル40を推奨していることを考えれば……十分にチート能力だろうに…………それだけに、ラズとの話し合いは面倒そうだ。




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