第52話 キノコの森 四日目



 4日目は、33階を徘徊……上の階には行かずに、探索をした。

 前日まではしっかりと上の階を目指し、さくさくと階を攻略して進んだけど、ここからは調合用の素材の収集をするのをメインに切り替えた。

 主に、植物系の魔物を狩るのと、採取ポイントを探してどんどん採取をしていく。


 攻略は順調。

 この迷宮ダンジョンは50階が最上階。だけど、今回はそこまで行かない。流石に、E級冒険者に攻略させてしまうとマズイらしい。原則はC級になってから入るので、それはそうだろうと納得した。

 迷宮ダンジョンの最終階を踏破すると初回報酬として、貴重な品が手に入る。アーティファクトだったり、武器防具だったり、何が手に入るかは運次第。

 ただし、各ダンジョンで特徴もあるらしく、このダンジョンは不人気。それでも、40階以降なら攻略を目指す人達がそれなりにいるらしい。

 初日に色々あった冒険者以外、出会わなかったが、これより上からは冒険者の数は増えていくらしい。


 ということで、この階に留まって魔物狩り。

 30階以降で、特に討伐したいのは、〈マンドラゴラ〉。植物の根っこの身体、頭部分は葉でかくされているが、実である。顔のような皺があって、見た目はちょっと気持ち悪い。

 素材としてはすごく優秀。根の部分が9割ある。これが回復系の薬を作るのにとても良いと聞いている。葉については、そのままだと毒らしいが、使い方によっては毒消しにもなる。実については、媚薬になるとか。

 見つけるのに苦労するかもしれないが、1、2体は狩ってくるようにと師匠からも言われている。探した結果、今日、すでに5体倒している。

 地面に埋まっているので見つけにくいはずが、兄さんがコツを掴んだのか、簡単に見つけている。師匠へのお土産にレオニスさんもほくほくしている。


 レオニスさんは度々取りに来ていたが、1日1本見つけられればいい方だったらしい。


 他にも、キノコ系や植物系の魔物は多い。弱点が火なので、ナーガ君の武器でサクサクと狩った。

 ちなみに狩ったのは主に兄さん。ナーガ君は子猫の世話をしていて、前線に出てない。私は採取して、ナーガ君はその横で手伝いつつ、猫の面倒を見て……兄さんが寄ってくる魔物を蹴散らす。

 レオニスさん達は、ノータッチ。「もう、手を出さなくても大丈夫だ」と様子を見ているだけで、手は貸さない。少し離れた場所で採取などをしている。

 私達もこの3日間でかなり強くなった手応えは感じている。



 夜営の時間になり、兄さんの太刀を預かる。

 昨夜倒したため、階層ボスが出ないことも確定しているので付与の許可をもらった。すでに、フォルさんの前で付与をしているし、ラズ様にもどうせバレている。他の人もいないので、ここで付与をしても危険はない。

 レオニスさんに、MPポーションを飲まないことを条件に付けられたけど、兄さんが飲ませないと約束したこともあって認めてもらえた。


「くれぐれも……無茶はしない。いいな?」

「うん……槍と大剣でコツもつかめてきてるし、大丈夫。レベルも上がってるから」


 魔石に魔力注入は慣れた。付与のレベルも上がってきたので、前よりも楽に効果を付けることが出来るようになっている。

 MP切れについては……まあ、魔石・大が1000MP使うから仕方ない。魔丸薬飲んでるから回復も早いので、ポーションを飲まなくても問題なし。

 

「兄さんの刀……魔石を付ける場所が難しいんだよね」

「確かに……ナーガのように取り付けることは出来ないか」

「ナーガ君の時も球体を潰して楕円にしてみたけど……太刀の場合はね。なんか、微妙に出っ張ってるのは気になるから……魔石取り付けると、これじゃない感がする」


 太刀の上に魔石を置いてみたり、柄の部分に繋げるなどを試しながら、どうしようかと悩んでいる。多少は変形させられるが、それなりに大きいものを組み込むのは難しい。特に、飾りが少ない太刀だからそう思うのだろう。


「…………鍔を魔石で覆ったらだめなのか?」

「……なるほど、出来るか?」

「! ……やってみる!」


 ナーガ君の案を採用し、魔石に火の魔力を注ぎながら、変形をさせ、鍔を覆っていく。

 

 結果……鍔がだいぶ大きくなってしまった。


 普通の太刀よりは鍔がだいぶ大きく分厚くなってしまったけど、使えないわけではない。あと、付与は鍔につけた状態のため、太刀に魔力が通るように加工する。


 前よりも波紋が赤く色づいて、炎の太刀っぽくなった。だいぶ、魔力が通りやすくなっているが……そもそも、兄さん達は素の攻撃力高いから、魔力を通さなくてもいいと思う……まあ、いいか。使い方は兄さんに任せよう。


 兄さんに太刀を返すと嬉しそうに観察している。


「すまないな。君にばかり負担をかける」

「ん?」

「付与はMPがだいぶ減るだろう? 昨日はその後に戦闘もあったからな。負担になってるんじゃないか?」

「ああ……レベルが上がってMPも増えてるから、そんなに負担でもないかな。でも、レベルが上がりにくくなってきたよね」

「そうだな。明日、何時までダンジョンにいるかわからないが、上がってもあと一つだろうな」


 推奨レベルは40。そこまで上がることは無かった。

 また、私の方がレベルが高かったはずなのに、二人には逆転されてしまっている。実際、戦闘において少々見劣りするので、仕方ないけれど。


「町に帰ったら、パーティー解散しようね。素材は十分手に入ったから、しばらくは調合がメインになるし……兄さんは戦闘狂だから、戦いたいでしょ?」

「ははっ……まあ、町に閉じこもってばかりだと退屈しちまうからな。戻ってから、色々準備はするが……町を離れるつもりだ。ナーガはどうする?」

「…………俺も、離れる。しばらくは腕を磨きたい。俺は、まだまだだ」

「だよね…………寂しくなるね」


 兄さんもナーガ君も、町に残るつもりはない。

 何となく、そうだろうなとは考えていた。そもそも、二人とも、ダンジョン内の方が生き生きしている。冒険者であれば、当然なのかもしれないけど……。

 ここら辺が、私との違いだろう。私は、たまにならいいが、毎日が戦闘は精神的に疲れてしまう。5日間、ダンジョンにて生活をした感想として……1週間が限界だと思う。

 

 お風呂にも入りたいし、ベッドで寝たい。あと、安眠確保も大事。

 長期間の冒険は、月に1回くらいがいいと考えるあたり、冒険者には向いていないのだろう。


 でも、今回、考え直したこともある。

 パーティーを組んでみて、考えていたよりは楽しかった。責任に押しつぶされるのではないかと考えていたけど、タンクのレオニスさんとナーガ君が安定していたので、回復の不足など問題が生じなかった。

 兄さん達となら、パーティーもいいなと思ったけど……能力差が開いてくると足手纏いなのが、嫌でもある。複雑な感情だった。


 

「…………モモは置いていく。しばらくは、あんたの治療が必要になる。少しは寂しく無いだろう」

「え? あ、まあ……確かに? 治療しないとだよね?」

「ああ……すまないが、頼む」


 なるほど。モモがいるから、寂しくない……のか? まあ、ペットが癒してくれるというのはあるかもしれない。飼った事がないのでわからないけど。

 しかし……テイムした飼い主がいない状態でも飼って大丈夫なのか、後で確認しておこう。


「そうそう。それに、町は離れるがパーティーを解散するつもりはないぞ?」

「え? 解散しないと、兄さん達が受注したクエストの報酬とか、私にも入ってきちゃうけど?」

「構わない。むしろ、今までの事を考えるなら、君はもっと俺達から金を取り立てるべきだろう。それに、ソロで活動していると勧誘も五月蠅いぞ? 俺らと組んでいると言えば、君は面倒な勧誘から逃げられる」

「……でも」

「…………あんたを守れるようになったら、戻ってくる」

「ああ! そうだな。ナーガの言う通りだ。俺も、ナーガも。君に恩がある。君のためにも、今は修業に出てくる。待っていてくれ。レオニス達より強くなって、君のやりたいことを出来るようにしてみせる。俺も、ナーガもまだまだ強くなる。まあ、その間は君はお師匠さんの元で修業していてくれ。長くは待たせない」

「……何それ…………でも、うん…………。私も、兄さんとナーガ君と……また、一緒にいられるなら……。自分を鍛えるね。足手まといにならないように……」


 やりたいこと……。

 考えてなかったけど……生きるだけが望みではなく、これから先の……やりたいことか。

 

 生き延びることについては、もう大丈夫。お金も……多分余裕が出てくるし、足場も前よりは固まった。

 

 少しだけ、考えてみようかな。未来のことを。



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