第51話 キノコの森 三日目(2)



 3人で仲良くクラフトしながら時間を潰し、レオニスさん達と交代をし、寝付いたが……。

 「起きろ! 敵襲!」という言葉に飛び起きる。


 兄さんとナーガ君も目を覚ましたところで、慌ててテントから出る。


「寝起きのところ申し訳ありません。魔物がこちらに向かってきているようです。おそらくですが、手負いと、それを追っている階層ボスだと考えられます。クレイン様、高台の下の周囲を照らしていただけますか?」


「はい! 光〈ライト〉!…………光〈ライト〉!…………」

 

 クールタイムが明ける度に、光〈ライト〉を唱えて、周囲八方向に光を置く。

 8個の光をそのままともし続けると、毎分8MPを消費していく。寝る前に比べてMPはだいぶ回復しているので、1時間程度は持つが、戦闘中、他にMPを使うことも考慮すると残量が心配になる。


「手負いの接近距離200。追従する魔物220。一定距離を保って、こちらを目指しているようです。どちらも大きな気配とは別に小さな気配を纏っています」

「ふむ……ボスを俺達に押し付けるつもりか?」

「可能性はありそうだね~。3人とも、いける?」


 テントから出て、左の方向を向いて、様子を覗っている。

 魔法を展開したままで、魔力探知は難しく……生命探知を展開すると、確かに気配が近づいている。


 人の速さだと、小走り……歩くよりはちょっと早いくらいのペースで、かなり遅い。

 普通なら、逃げ切れないだろうペースだが、一定距離を保って追いかけてくるあたり、追従する魔物にはそれなりに知性があり、相手を甚振って遊んでいる印象を受ける。


 何が出てくるのか……手負いでも、油断は出来ない。


「おう! いつでもいける」

「ああ。…………降りて戦うのか?」

「ちょっと……MPポーション飲んでおきます」


 兄さんとナーガ君は気合を入れている。

 私は……とりあえず、ポーション飲んでおこう。持続的にMP消費するのを考えると余裕を持っておきたい。じとっとした目でレオニスさんがこちらを見てきた。


 ……何があるかわからないから、MP残量を6割残すように言われてたのに……付与で減らして、すみませんでした。万全な状態でないのは私だけ……。ただでさえ、能力的に一人だけ劣るのに、やってしまった。


「ナーガとグラノスは俺と一緒に降りるぞ。ラズ・クレインはここから魔法を撃ってくれ。フォルは……」

「私も降りましょう。双方を相手にする可能性もありますので。クレイン様、もし上に魔物が来た場合には、対処をお願いしますね」

「はい。ラズ様には触れさせません」


 フォルさんは、私の返事ににっこりと笑って頷く。


 流石にね……魔導士の防御力が低いのはわかってる。ラズ様は、レベルこそ私よりも高く、高火力の魔法アタッカーだけど、接近戦は一切できない。

 私が前線で戦うのを心配されたのは、一撃食らうと致命傷だと判断されたからだ。その時、通常の敵に対してはやられる心配はないと言っていた。つまり、ボスならあり得るかもしれないんだよね。ラズ様の防具は高級そうだからそうそうに死ぬことは無いけど、フルボッコにされれば危険。

 

 ここ数日のレベル上げで、ある程度接近戦もできることを見せた私の方がラズ様よりましだろう。ラズ様に近づかないよう私が守るので……兄さん達をお願いしたいという考えだけど……。頷いたということは、通じてるよね?


 4人が下に降りると同時くらいに、森から手負いの魔物が現れた。

 

 猫型の大きな魔物。2メートルくらいかな……なんだっけ? サーベルタイガーって言うんだったか。大きな前牙が突き出した大きい猫型。くすんだ黄色と黒の柄は豹っぽい。


 後ろ足を両方引き摺っていて……前足だけで這いずっているようにも見える。特に後ろ左足は全体に爛れた皮膚が見えている。背中には何匹か、子猫がしがみ付いて乗っている。

 開けたところに出ると、こちらには向かって来ず、進路を右手に変えた。


「手負いを追う必要はない。次の奴に警戒しろ!」


 すぐに現れたのは、蜘蛛。巨大な蜘蛛。


 さっきの豹より二周りは大きい。しかも、30センチくらいの蜘蛛を巨大蜘蛛がたくさん連れていて……子蜘蛛達は豹達を追う。そのスピードは素早く、すぐに追いついてしまうだろう。

 親蜘蛛はこちらを正面から見据えている……おそらく、私達も餌にするつもりだろう。



 ナーガ君が豹と子蜘蛛達の間に割り入って、庇うような動きをする。


「ちっ……」

「炎の渦〈フレアエディ〉!」


 子蜘蛛が動きを止め、ナーガ君に向かって、毒の糸を一斉に吐き出そうとしたため、その間に火魔法を放ち、糸を焼き尽くす。

 

「すまん! 助かった」


 ナーガ君は、炎の大剣に火を灯して、子蜘蛛を切り伏せていく。

 その間に、ラズ様が大蜘蛛に雷を落とし、レオニスさんが盾で止めながら、兄さんとフォルさんが追撃している。

 とりあえず、3人で大丈夫そうなので、ナーガ君を見ると……豹の魔物が気になるらしく、後ろに庇って戦っている。それを豹の方も分かっているのか、後ろから動かないが……正直、子蜘蛛の数が多いので、庇いながら切り殺していくのは、まだ技量的に厳しい。

 私がフォローするために降りてしまうとラズ様が無防備になるわけで……。遠距離からの援護を行うしかできない。


「エリアキュア〈全体聖回復〉!」


 魔物に効果があるのかわからないが、周囲全体の回復に対象となるように願いながら、回復魔法を唱える。

 上手く回復してくれれば、そこから離れるだろう……ナーガ君の邪魔をしないでくれるなら、それでいい。全体回復を唱え、無事、豹の魔物にも魔法がかかり淡い光がかかり、消えた。


 豹の足が回復したのを確認してから、周囲を確認。


 蜘蛛の魔物もこちらに気付いたらしく、高台に上ってこようとしている子蜘蛛が沢山いる。一体ずつ相手にすることは出来ないため、水魔法・水壁〈アクアウォール〉を台の壁にかけて、氷魔法・氷結〈フリージング〉で、蜘蛛の足ごと凍らせてその場に留める。


「……クレインって、変だよね……」

「え? ラズ様、何か言いました?」


 凍らせて身動きが取れない蜘蛛を槍でグサグサと刺して倒していく。

 槍が届かない場合には弓を使って攻撃しつつ、下の戦闘の様子を覗う。


 レオニスさんのタンクに合わせた、兄さんとフォルさんの動きに問題はなさそう。ナーガ君は……一人で小蜘蛛を退治している。豹はいなくなった……ん?

 

シュタッ


「ん? 何の音?」

「ぐるるっ」


 いなくなったと思った豹型の魔物が身動きできない子蜘蛛を踏み台にして、高台に上ってきてしまった。

 剣を構えて、ラズ様との間に入るが、乗っていた子猫3匹を降ろすと高台から降りていった。そのまま、ナーガ君と一緒に小蜘蛛を倒していく。


「にゃ……」

「えっと……どうしましょう?」

「まあ、その子たちの攻撃で傷つくこともないから放置でいいんじゃない。そもそも、クレインが回復かけたせいで安全だと思ったんじゃない?」


 それは私が悪いけど……。

 ナーガ君が危険を顧みず、庇ってたのも悪い。小動物好きっぽいんだよね……多分、気になってしまったのだと思う。

 

 そして、庇いながらだと戦闘に支障をきたすので……回復かければ、逃げていくと思ったんだけど……まさかの行動だった。


 子猫達は小さく丸まって大人しくいるので、放置して、まずは蜘蛛を倒す。

 小蜘蛛はほぼ倒し終えたので、周囲を警戒するが、ボスは無事に倒せたようだ。



 蜘蛛を倒し終わると母豹は素早く森へと駆け出していってしまった。子猫達は安全になったのがわかったのか、じゃれついているが……どうするんだろう。


 ナーガ君が嬉しそうにその様子を見ている。うん、動物って癒されるよね。

 しかし……後ろから声がかかった。


「クレイン、ナーガ、そこに座れ」

「……はい」

「……ああ」


 レオニスさんがまた怒っている。

 大人しく、正座の体勢になる。兄さんも「やれやれ」とボヤキながら横に正座した。


「グラノス。お前は休んでいていいぞ」

「連帯責任……とくに、この子らの年長者として俺にも責任があるからな」

「そうか。……ナーガ。魔物でも、こちらに敵意がない奴らを倒せとは言わない。だがな、勝手な判断で庇い、他の奴を危険に晒すような真似は二度とするな。ある程度、ラズとクレインの安全は保障されていたが、絶対ではない」

「……すまない」


 その通りではある。

 あの母豹が高台に登ってきたときは、マズイと思ったわけで。戦うことになった場合、私とラズ様がそちらにかかりきりになり、大蜘蛛に対する援護が出来なくなった可能性もあった。


 登れたのは……私が回復したせいでもあるんだけど。


「クレイン。お前もだ。考え無しに魔物を回復してどうする。あれで、ナーガに後ろから攻撃してきたらどうする!」

「えっ! いや、だって……ナーガ君を盾にしてるくらいだから……回復したら、逃げ出すと思ったんです」

「安易な考えで、危険に晒すな。最悪を考えて行動しろ。死にたいのか!」

「すみません!」


 確かに……。

 ラズ様に攻撃来たらと考える前に、ナーガ君に攻撃することだってあり得たのに……考えつかなかった。



「ぶなぁ~」

「ん?」


 レオニスさんのお説教を聞いていたら、真横に母豹が来た。

 何か咥えていると思ったら、私の膝の上にその咥えていた物を置く。


 それは、もう1匹の子猫だった。

 鑑定をすると、火傷・麻痺・毒の状態異常が3つにHPがほぼ無い。瀕死状態。

 母豹が目の前で頭を下げており、さっきまでじゃれていた3匹もその横で大人しくなっていた。



「……レオニスさん」

「はぁ……好きにしろ」

「ありがとうございます」


 呆れつつも了承をしてくれたレオニスさんにお礼を言う。

 まずは、瀕死の状態でHPが減っているので、光回復〈ヒール〉を唱えて、HPを回復。続いて、聖魔法・状態異常再生〈ディスペル〉を唱える。

 

 しかし……今まで真っ当に状態異常に対する回復魔法をかけた事がなかったので、初めて使ったわけだが……。

 …………この魔法。かなりMPの消費が激しかった。


 症状が3つあるが、それを一度に全て治そうとするとMPがガンガン減っていくのに、治っていく様子がない。


 一度、魔法を止め、毒から一つ一つ症状を回復させる。

 火傷、麻痺の順番に3回に分けて回復をかけ、何とか状態異常から衰弱に回復させる。

 

 衰弱については、大人しくしているしかないようだ。これ以上は出来そうもない。

 ついてに、母豹にも光回復〈ヒール〉と状態異常回復〈リフレッシュ〉をかけておく。他の子猫については、特に回復は必要無さそうかな。


「……どうしよう?」

「回復は出来たんだろう?」

「うん……ただ、衰弱していることには変わらないから……」


 正直、母豹に返してもいつ死んでしまうかわからない。定期的に回復魔法をかけることはできるけど……その間、ずっと連れていくわけにはいかないので、私にはどうしようもない。



「……こいつは、今後も治療をする必要がある。こいつが継続的に回復すれば生きれるだろうが、どうする?」

「がぅ…………ぐるぐる……………………ぎゃう!」


 ナーガ君が母豹に問いかけると、母豹はぺろぺろと子猫を舌で舐め……鼻を子猫の腹に擦り付けた後、一鳴きして、他の子猫を連れて去っていた。



「あのな……魔物を町に連れていくことは、テイムしている魔物に限定されている。魔物使いでもないと、テイムは出来ない。その子猫を助けたところで、1匹では生きられないだろう」

「俺がテイムする……テイムできればいいんだろう」


 レオニスさんが頭を掻きながら、どうするんだと頭を悩ませているが……実はナーガ君って魔物使いのアビリティ持ってるんだよね。

 その時に猫を飼いたいと聞いていたので、まあ……猫好きなのは知ってたわけだけど。

 しかし……あの大きさに育つのを考えると……結構戸惑うけどな。


「わかった。テイムの仕方はわかるのか?」

「……教えて欲しい」


 テイムの方法は難しい物ではなく、首輪などを装着させる。名前を付ける。主人となる者の血を舐めさせる。〈モンスターテイム〉と唱える。

 相手の魔物が拒否しなければ、それで契約が結ばれ、魔物は従うようになるらしい。

 

「名前か。俺はボロンゴだな」

「うん。私はチロル派だった」


 見た目がね……。やっぱり、似たようなことを思っていたらしい。

 ベビー〇ンサーに似てるよね。ヒョウ柄だし……あの襟巻みたいな鬣は無いけど。


「……モモだ」

「あ、うん。もちろん、ナーガ君が決めていいんだけど。モモってどこから?」

「君、年齢バレるぞ? リメイク版で名前が増えたんだ。俺はどっちもやってるからな」

「え? 嘘、知らない…………」


 わかっていたけど……ナーガ君が年下であることが確定してしまった。そして、おそらく兄さんも年下。兄さんも気づいてて、妹扱いしてくれる……。

 それにしても…………リメイク版とか、知らなかった。モモなんて名前があるんだ。


 そして、無事にテイムモンスターとなったモモを連れて、再度、休息に入ることになった。

 MP回復が必要なので…………4時間程、寝てこいと言われた。


 とりあえず、蜘蛛から魔石を回収など、後始末をしてからテントに戻って、就寝した。




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