第44話 キノコの森 一日目(3)ボスの前に
10階に到着。目の前には大きな門が見えた。門の先は全く見えないので、わからない。
どうやら、あそこから入っていけばボスと戦える。
ボスの経験値は美味しい。熟練度も上がりやすいようだから、このボスでも是非ともアビリティを覚えたいな。入口のロックゴーレム戦で3つも上がったせいなのか、10階までの道のりでは、一つしか上がらなかったので、ここではレベルが上がると思う。そのために色々と道中工夫してきた、多分……アビリティは沢山覚えられると思う。
10階はボスのいる階層。門を潜らない限り魔物はいないので、警戒はしなくていい。
そして、ここで初めて他の冒険者と出会った。
「おっ! レオニスさんじゃないっすか! 珍しいっすね、引退したんでしょ?」
「おう。若手教育のついでに、ダンジョンの見回りだ。どうだ、様子がおかしいとかあるか?」
「あ~低層だとないっすね。俺らも高層までは行ってないんでわかんないっすね」
レオニスさんと他の冒険者が話し始めると、ラズ様から「こっちで休憩するよ~」と呼ばれたので、ついていく。フォルさんはにっこり笑って、レオニスさんの横に移動する。あちらの話し合いに参加するようだ。
10階はセーフティゾーンになっているようで、敵の気配はない。門の先にボスいるのだろうけど、まだ門には向かわないようだ。
「レオニスはほっておいて休憩~。彼らのパーティーがボス戦を終えてから、こっちが戦うことになるから、しばらくかかるね~」
「ボス戦は順番なんですか?」
先にいる人たちが先というのはわかるけど、でも、そもそも戦う気がなかったのに、あっちが先である必要があるのか。すでに、深夜と言ってもいい時間なので、明日の朝とかにボス戦をするためにここにいるのだろう。
「そうだよ~。順番を譲るのもだめ。次の人が来たら、戦わないといけないね~。戦わないなら、この階にいてはいけないのがルールかな」
「……なぜだ?」
「ボス戦には、極稀にレアボスが出ることがあるからだね~」
レアボスが出る?
ボスが決まっているから、対策して戦うのに、他のボスがでることがあるのは危険だし、むしろ勝てる人に譲るのがいいのでは? 疑問が浮かぶが、このダンジョンに入ったときにも、3体いるとは思わなかったとか言ってたから、よくある現象なんだろうか。
「えっと、ロックゴーレムが3体でたみたいな?」
「ちがうちがう。あれは、そもそも1~3体がランダムで出るんだよ。たまたま、3体だっただけ。そうじゃなくて、ボスが変わるんだよ。レアボスは強いけど、その分も貴重なアイテムを落とす。狙って戦えるわけではないけど、1回の稼ぎ額が5倍を超えることも普通にある」
「それで、何故順番を譲るのがダメなんですか?」
「レアボスになるまで順番譲るとか、そういうことをして問題になったことがあるからだね~。誰だってレアボスと戦いたいからね。ずっと順番を譲り、レアボスだけ戦うって、他の人から見たら嫌でしょ? それに、クランとかでずっと独占するようなことも禁止。だから、ボス前で待機していた場合、次の人が来たら戦うのが決まり」
わかるような、わからないような……まあ、順番通りにしておけば問題が起きないということ。多分、レアボスが貴重だから、先着順で、順番守れということだ。
「……その割には話をしていて、戦おうとしていないが」
ナーガ君がレオニスさんと他の冒険者の方に視線を向けている。
たしかに、全然、戦う雰囲気ではない。レオニスさんを説得しているように見える。
「彼は見張り役で、あっちのテントで寝てるとかじゃないかな。時間も時間だからね」
「えっと……私達は倒してから休むって話でしたよね。なんで、彼らは倒してないんですか?」
「人が来ないと思ってたのと、低層に用があって上に行く気が無かったか…………他の目的があったか。ボス倒してから9階に戻るのは結構面倒なんだよ」
う~ん。
つまり、やる気がなかったのに彼らはボスに挑まなくてはいけなくなったと。ルールとはいえ、多分寝てたところを起こされるなら、大変そう。
でも、な~んか、気になる? なんだろう……。
「あ~えっと、レオニスさん。俺らはその……っすね」
「わかってるだろ。おれは今はギルド職員として、ルールを犯すわけにはいかない。さっさとしてくれ」
「……っすよね」
しばらくして、レオニスさんと話をしていた人がテントの方に向かい、テントから人が出てくる。
どうやら5人パーティーのようで、最初の人とは別に男女が2人ずつ出てきた。
「あぁ? まじかよ、なんでこんな時間にくるんだよ」
「悪いな。こっちも色々あってな」
「レオニスさんよぉ……明日の朝じゃダメなのか?」
「ギルドの調査で来てるんでな。詳細を報告する必要がある。ボス前でテントを張っていたなんて報告すれば、お前らにも評価が入るぞ」
「げぇ……たくっ、しゃあねぇな」
「すんませんっす」
前のパーティーが門の中に消えていったので、レオニスさんとフォルさんに合流する。
しばらく時間があるということで、レオニスさん達と距離を取って、3人で相談。兄さん達もしっかりレベルは上がってきて、アビリティも覚えている。
私は、〈毒耐性〉と〈麻痺耐性〉を新しく覚えたのと、魔法も順調に上がってきている。
ナーガ君も順調に〈気配察知〉を覚えていた。あと、レベル2から覚えるアビリティ、〈逆鱗〉。ナーガ君、〈竜殺し〉というユニークスキルだけど、竜特攻よりも、ドラゴンの特性に入ってるのではないかと疑ってしまう。耐性に対してもかなり適応するみたいだ。「風呂で確認したが鱗なんてない」と兄さんが言ってたけど……ドラゴン特性の説は否定しなかった。まあ、お互いにきちんと能力を把握しているわけじゃないので、ナーガ君の高い能力はかなり謎だったりする。
兄さんは〈毒耐性〉〈麻痺耐性〉に追加で〈殴り耐性〉、他には戦闘に関係しそうなアビリティかな。
とりあえず、このダンジョンは状態異常耐性必須の意味は10階まででも十分に理解できた。毒とか麻痺の耐性を覚えたのは、ボス戦には役に立つはず……。
「さてと、10階のボス部屋だな」
「ボス……強いんですよね?」
「君たちのレベルだと強いね~。まあ、状態異常にしてくるのが厄介だけど、攻撃力は高くないからクレインでもクリティカルの一撃をもらわない限り、死にはしないんじゃない?」
つまり、ボスのクリティカル攻撃が当たると死ぬ。
いや、わかってるよ。極端に防御が足りていないことくらいは、私も承知している。
そして、かなり心配されているのもわかっている。でも、仲間がいないと戦えないという状態で、今後冒険者をやっていくことはできない。
盾術のレベルも上がっているので、レベルアップ時のDEFの上りも増えてる。油断しない限り、死ぬようなことにはならない……はず。
「気を付けます」
「クレイン。お前の魔法は威力が高いから戦力になる。このボスは、遠距離攻撃はない。遠方からの魔法アタッカー2枚で十分突破できる。あと、状態異常……特に麻痺した味方にはすぐに回復だ」
「……はい。遠くから魔法を打っていけばいいんですね?」
「ああ。最初は突進とキノコの胞子をばらまく攻撃が多い。接近戦だと、キノコの胞子で状態異常が起きるから、遠距離攻撃がメインになる。HPが半分をきると眷属を召喚したり、地面に根を生やして回復をしようとするから、眷属を先に倒した方がいい。回復させるのも厄介だからな。その場その場で、適した行動を取るようにな。クレイン。もし、ボスがお前のところにいったら、盾を使って〈ガード〉していろ。すぐに俺かグラノスがフォローに入るようにするが、回復役が状態異常にならないように気を付けてくれ。ナーガは目の前の敵に集中だ。クレインのことばかり気にしていると全体に影響がでることを頭に入れておけ」
「……わかった」
レオニスさんの言う通り、ナーガ君はAGIはあまり高くないので、フォローに入るのには適さない。私を守ろうとしてくれるのは有難いけど、自分を守って欲しい。実は、防御が間に合っていないことが結構ある……HPとDEFが高いので、大したダメージになっていないだけだ。
「グラノス。お前はヘイトを取り過ぎないように立ち回れ。あと攻撃ばっかりして、眷属に囲まれないようにな」
「おう」
兄さんは一番安定した戦いをしている。たまにダメージを受けることもあるが、遊撃で敵を倒していく。攻撃力も高いので、抜群のアタッカーになっている。
あと、私のことを気遣って、戦いを我慢しているだけで、戦闘狂……。
下手するとタンクより前に出て戦い始めてしまうので、注意が必要。無茶をするわけではないが、前線で戦うのが好きなようだ。
レオニスさんはラズ様のステータスや能力は把握しているけど、連携は微妙な感じ。昔、パーティー組んでたと聞いてるけど、直近では組んでなかったとかかな?
タンクの後ろから魔法を撃つ分には、問題は無さそう。位置取りとかも、きちんとしているので、見習えと言われている……私はタンクいないのに魔法を撃って叱られている。そこまで危険な位置ではないと思うけど。結局、後衛は向かないということで、中衛で、魔法撃ちながら、たまに剣振うことに目溢しを貰っている。
兄さんに弓借りたけど……後衛から弓よりも、魔法のがダメージ高いので使いこなせてない。
フォルさんの戦闘力はレオニスさんも把握していないので、頼らないように指示をしているっぽい。フォルさんもラズ様の護衛をメインにしているので、いまだに能力は不明。ただ、本来なら兄さんと同じような遊撃をするようだけど。
そう考えると、このパーティーはバランスはいいのかな。メインアタッカーは兄さん。タンクは二人……いや、ナーガ君もレオニスさんも、防御のみではなく、反撃を結構している。魔法アタッカーのラズ様の火力も高いので、バランスは、悪くないのだと思う。
ヒーラー? いや、私だけどね……ダンジョン入ってから、まともに回復をしたのって、ロックゴーレムの時だけだから、出来てるのか分からない。
「さて……終わったみたいだ。行くぞ」
30分ほどで、先ほどの冒険者たちの戦いが終わったようだ。武器を構えて、門に入る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます